41.裸の代償
「――今日はここで野営にしましょう」
「そうだな」
「はい、ルナさん」
――ディスアの村を発ってからおよそ半日の時が経過。
そろそろ日が暮れるという事もあり、新たな仲間が加わった旅路での最初の野営を行う事となった。
「それじゃあ私は周辺に探知魔法を配置してくるわ。その間に料理の準備とかお願いね、二人共」
「ああ、わかった」
「お任せくださいっ!」
ルナがそう言ってその場を後にする。
――探知魔法。
その魔法が作られたのは今から千年以上昔であり、かつていくつもの大陸を股にかける冒険者が開発したとされている。
少量の魔力の消費と引き換えにその場に設置型魔法を配置をする事により、数時間の間一定の範囲内に予め内側に居た者以外の動体や魔法の反応を検知し、使用者へと知らせる事を可能とする魔法だ。
最初は魔力の消費量や探知範囲の関係上一部の上位魔術師にしか使えない魔法だったが、時代の経過と共に魔力効率や術式の改良によりそれらの欠点が改善。
今では冒険者にとっては必需品とも言える魔法であり、魔法を使えない剣士の一人旅でも多くの者が探知魔法の魔法書や魔石を所持している程の普及率を誇っている。
「――さてと、それじゃあ料理の支度をするか」
ムツキが魔法の袋から干し肉や穀物、調味料を取り出し、調理の支度を開始する。
同時にプリエラもまた魔法で炎を起こしてその支度を手伝い始めるのだが――
「……ムツキ、アンタ今日は女の子の服を着ていないのね」
――不意に口を開くと、完全に冷えきり蔑んだ目線――まるで養豚場の豚を見るような目――でムツキをジトーっと見詰めてくる。
何気に呼び方もムツキちゃんからムツキという呼び捨てにクラスチェンジである。
「うっ……あれは……その、色々と事情があったんだよ。色々と、な」
「……ふーん」
(ルナのおかげで納得してくれたと思ってたが、やっぱりまだ怒ってるよ……。まぁそりゃ『女の子だと思ってたら実は男だった相手に裸を見られた』って結構ショックだろうししょうがないんだろうが……)
二人が出会った当初、ムツキは女物の服、それもスカートを穿いていた。
そもそもの原因は最後の男物の服を直前にプリエラが買ってしまった事なのだが、ルナが面白がってそれを説明しなかった事、彼女が話を聞かなかった事により説明が遅れに遅れ、最終的に最悪なタイミングでムツキが男という事実が露呈するに至ってしまったのだが。
「…………女装癖の変態」
ボソッとプリエラがムツキを罵る。
「ぐぬぬ…………つーか、元はと言えばお前が最後の男物の服を買ったのが原因じゃねーか。しかもそういうプリエラも男装してただろ。俺が女装癖の変態ならお前は男装癖の変態だろ?」
しかし原因の一端が彼女にあるにも関わらずボロクソに罵られたため流石のムツキも言葉を返してしまう。
「うっ……ルナさんからその辺の事情は確かに聞いてるし、申し訳ないとは思っているわ」
すると根が素直、というか良い子なのだろう。プリエラはシュンっと項垂れる。
「でもそれならなんでそういう事情があるだけで本当は男だって言わなかったのよっ!」
「いや、あんな状況になったのに言うのは無理だろ! つーかそもそも言いづらくなる前に言おうと思ったらプリエラが言葉を遮ったんだろうが!」
「そ、そんなの知らないわよ! 結果的に私はアンタのは、はは裸を見るはめになったんだしっ!」
――ワーワー ギャーギャー
「――あら、随分と仲が良いのね」
二人が中々に残念な言い争いをしているといつの間にか戻っていたルナがその様子をニヤニヤと眺めていた。
「「仲良くなんて」」「ないっ!」「ないですっ!」
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――それから数日の時が経過。
ちょっとした言い争い等はありつつも何やかんやあって三人は魔王都バレスに到着したのだった。
「凄い人数の人だ……」
魔族の繁栄の象徴とでも言うべき魔防壁、そして屈強そうな魔族の守衛に守られた門を潜った三人の目の前に広がる巨大な石造りの道路を数えきれない程の魔族の人々が行き来していた。
「私もこんな数に人が一つの街に居るのを見るのは初めて……」
今まで小さな村で暮らしてきた二人はその人混みに圧倒されるかのようにその場で立ち尽くす。
「……なんだか街の様子が変ね」
――だがそんな中、ルナだけはこの街を覆う空気がおかしい事に気づいたのだった。




