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39.もう一本の槍

「――ムツキちゃん、なんでそんなポカーンとしたまま固まってるの?」

「あはははっ……なんでだろうね……」

(し、しまったあああぁぁぁ! さっきの発言完全にフラグだったぁぁぁ! どうすんだこれ、完全に前回のデジャヴだぞっ……!)

 ムツキの脳内を以前ルナとの間に起きたあまりにもあんまりなトラブルが過る。

 このままでは間違いなく前回と同じ――いや、もしかしたらそれより酷い流れになる。

 そんな確信にも近い予感があった。


――すたすた

「あははっ、ムツキちゃんはやっぱり面白いね! それともまだ昨日の疲れが残ってるのかな?」

 平和が脆くも崩れ去った事に絶望している間にも、ムツキの下へとプリエラは歩みを進めていた。

(やべぇ……まさかここに誰かが来るなんて思ってなかったから今日はタオルすら巻いてねぇぞ……)


 そう。以前のような公衆浴場と違い今回はエクシアの個人宅のお風呂という事もあり現在のムツキは何一つとして身に着けていない状態だった。

 つまりこのままプリエラに湯船に侵入されれば、槍使いの彼女の前にムツキのアレを晒す事になってしまう。

 しかも物音に反応して振り返った際にプリエラの裸体を目撃したせいでムツキのアソコは既に半ば戦闘状態へと移行しつつあった。


 もしこれが目撃されれば前回と同様――いや、今回は相手が年端もいかない少女でムツキよりも二歳年下な事を鑑みればそれ以上の悲劇が起こる可能性は非常に高い。



(このままじゃ色々と見られちゃいけない物が見られちまう……それだけは何とか避けねぇと……)

「ぷ、プリエラ……いや、プリエラさん、そこで停止してもらっていいか?」

「えっ、まぁいいけど……というかなんでいきなりさん付け?」

 きょとんとした顔を浮かべながらもプリエラは素直にムツキの言葉の通りに湯船の手前で立ち止まる。

 そんなプリエラからムツキはなるべく目を逸らしながら続けて口を開いた。

 目を逸らす理由は言わずもがなだ。

「その……一つお願いがあるんだけどいいか?」

「ま、まぁ余程変なお願いじゃない限りいいけど……ムツキちゃんは大事な客人だしね」

「ありがとう、プリエラ」

「ん、いいのよ。というかせっかく年が近くて同じ女の子なんだからそんな細かい事一々気にしないでいいよっ」

「あはは……そうだよなー。同じ女の子だもんなー」

(俺、女の子じゃないんだよなぁ……)



「――こ、コホン。まぁお願いって言ってもそんな難しい事じゃないんだ。ただ今から俺が風呂からあがって室内に戻るまでの間目を瞑ってて欲しいんだ」

「えっ、ムツキちゃんもうお風呂からあがるの? さっきお風呂に入ったばかりなのに」

(やべぇ、風呂の入り口に入る所見られてたのか……。やべぇよ、プリエラさんめっちゃ怪訝そうな顔してるよ……)



「じ、じじ実は俺のぼせやすい体質でさ、入ってもすぐにあがらないとダメなんだよね。ほら、顔とか真っ赤になってるだろう?」

「ふーん……」

 これは当然嘘である。

 顔は実際赤いのだが、その理由は勿論体質等ではなく、プリエラの裸体を目撃した事に照れているだけだ。


「……確かに顔は真っ赤だけど……なんだかものすご~~く目が泳いでるけど大丈夫?」

「だ、大丈夫だ」

 流石にムツキの様子がおかしな事に勘付いたプリエラが物凄いジト目で見詰めてくる。

(めっちゃ見られてる……。どうにかしてプリエラの疑惑を解かないとこのままじゃまずい事になるな……)


「あっ、わかったっ!」

「え?」

 どうやってこの状況を切り抜けるか。

 そう考えていたムツキだったが、不意に元気な声をプリエラが発した事によって思考が停止する。


「な、何がわかったんだ?」

「ムツキちゃん、実はあまり誰かとお風呂に入った事がないから照れてるんでしょうっ?」

(全然ちげぇ!)

「私もいつも師匠とお風呂に入ってるしそんなの気にしなくていいから一緒に入ろっ♪」

 プリエラは笑顔を浮かべてそう言うと、歩みを再開し湯船へとどんどん接近を開始した。



「――ちょっ、ちょっと待て! ホント俺は風呂からあがらないと色々とまずいんだ! わかってくれっ!」

――ザブンッ

 これ以上接近されてしまってはまずい。

 そう考えたムツキは大慌てで浴槽から立ち上がり、プリエラを静止した。


――いや、静止してしまった、と言ったほうが正しいだろうか。


「……………………」

「ぷ、プリエラどうした……?」

 ムツキが立ち上がった直後プリエラの動きが停止する。

――もしかして自分の話をわかってくれたのか?

 そう考えたムツキは安堵の溜息を吐くが、その直後違和感に気づく。

 

――まずプリエラが体をわなわなと震わせながら、口をぽかーん開いている事。

 次にその顔がさっきのムツキ以上に真っ赤になっている事。

 そして彼女の視線がムツキの体――詳しく言うならば下半身、それもとある部分に注がれているという事だ。


 それだけの情報が揃えば流石のムツキも自身の置かれている状況が読めてきた。

「む、ムツキちゃん……そ……その……股間のソレって……」

 プリエラが大慌てで立ち上がった事で露わになってしまった勃ちあがったアレを震えた指で指し示す。


「…………お、俺の馬上槍ランス、かな?」

「…………」

――ゴッ

 それに対しムツキは引きつった笑みでプリエラへと言葉を返した瞬間、プリエラの背後から巨大な火の柱があがり、彼の視界は覆い隠されたのだった。

 


「……やっぱり不運だ」



───────────────────────────────────────────────────────────




「――のぅ、ムツキ」

「はい、エクシアさん」

「な、何故主は修行を始める前から怪我をしているのだ? しかも見たところ一部は火傷傷のようだが……」

「……色々とあってその、火傷をしました。人生の火傷を、ね……」



――その後、朝食を済ませて修行を開始しようとしたムツキの顔には小さな手形と微かな火傷の跡が付いていた。


 最終的にはルナが回復魔法による傷の手当や消去、そしてプリエラへの誤解を解いてくれたため事無きを得た。

 しかしそれから修行が終わるまでの二日間、軽い女性恐怖症に陥りかけていたムツキの心の傷までは流石のルナといえども消すことが出来なかったようだった。



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