36.悪魔のような天使
――ガキンッ
「ぐぅっ……!?」
「……ほぅ、この私の槍を受け止めたか。なるほど、予想以上だな。少年っ」
(一撃、たった一撃を受け止めただけで腕が千切れそうな程にいてぇ……! この人ってか天使は化物かよ……!)
恐ろしい程の瞬発力を持ってムツキへと肉薄したエクシア。
彼女が振るった圧倒的な暴力とでも言うべき豪槍の一撃を、ムツキは辛うじて受け止める事に成功した。
「先程は一切反応の出来なかった私の動きに対応する……なるほど。戦いの中で成長している、とでも言うべきかな?」
「っ……!」
「ふむ、とはいえ言葉を返す程の余裕はないか。……では悪いがどんどんこちらから征かせて貰うぞッ!」
次の瞬間エクシアはムツキの片手剣を素早く弾くと、すぐさま目にも留まらぬ連撃――槍の振り下ろしによるもの――を繰り出した。
それは一撃一撃が誰が見てもとても洗練された一流の物であり、並外れた武人の業であるとわかる程のものだ。
(一撃一撃が死ぬほど重い上に、俺の防御を圧倒的な力で打ち破ろうとしてきている……! これが第六の型かっ……!?)
すべての攻撃がムツキの防御を容易く突破しそうな程に重く、強烈。それこそが第六の型――圧倒的な攻撃力により生半可な防御を無意味な物とする攻撃特化の型たる所以だった。
「ハァッ!」
「ぐぉっ……!?」
エクシアの恐ろしい程の猛攻の前にムツキは一瞬、ほんの一瞬ではあるが防御を崩されてしまう。
しかしエクシアにとってはそれだけで十分な攻撃のチャンスとなり、その僅かな隙を突くようにすぐさま刺突を行う。
ムツキはそれにぎりぎりの所で反応し間一髪回避する事に成功するも、掠めた一撃が頬の薄皮を切り裂き一筋の血が彼の顔をツーっと伝っていくのがわかった。
(ちょっ……! 刃を落とした模造品なのに切れるってやばすぎだろッ……!?)
「ふむ、今の一撃で決まると思ったのだが……なるほど。本当に君は面白い」
――ニヤリっ
「っ……!?」
刹那。
エクシアがニヤリと口元を歪めたかと思うと、そのままその場で大きく飛び退きムツキと距離を取る。
そのままエクシアは一呼吸すると、再び戦闘開始直前のように槍を自身の体を遮るように斜めに構えた。
「ぜぇ……ぜぇ……い、一体何の……つもりですか? そのまま攻め続ければ……俺を倒せたはずなのに……」
ムツキは呼吸を整えながらも自身の感じた疑問をそのままエクシアへと投げかける。
『あのまま攻撃を受け続ければ自分は間違いなく次の攻撃を防ぎきれずに負ける』
そんな確信にも近い予感があったからだ。
「なぁに。あのまま終わらせてはお互いつまらないと思ったのでな。主の実力が予想以上だったという事もあり、褒美をくれてやろうと思ったのだ」
「ほ……褒美、ですか?」
「あぁ。私の技……そうだな。この時代の最強クラスの業である第六位の近接技、三連迅突を披露してあげようじゃないか」
「だ、第六位の近接技……!?」
「し、師匠っ!? それは――」
エクシアが最高ランクの技である第六位の技を使用する。
それを聞いた事で今までジッと黙って二人の戦闘を眺めていたプリエラが、思わずエクシアの言葉に耐えかねたかのように素っ頓狂な声をあげる。
「――案ずるな、プリエラ。この少年……ムツキの成長速度なら問題ない」
「しかし……わかりました、師匠」
「さて、ムツキ。そういう訳だから身構え、そして気構えよ。その上で自身の最高の技を私にぶつけてこい。さもなくば……そうだな、怪我ではすまないぞ?」
――ニヤァ
そう言うとエクシアは一度だけバサリッと翼をはためかせ、到底天使とは思えないような凶悪な笑みを浮かべたのだった。
お久しぶりです。
イベント等で受け持っていた原稿が落ち着いたのでぼちぼち投稿の方を再開していきます。
それとお話は変わりますが皆様のおかげもありましてネット小説大賞の一次選考の方を突破していました。
見てくださった方、そしてブクマや評価等入れて応援してくださっていた方ありがとうございます。
今後共よろしくお願いします。




