表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/45

33.勝負を決めるのは一瞬


(――武器を斜めにし、相手に突き刺すように向ける構え――ルナの言っていた第二ズィオフォームか……)


――第二ズィオフォーム

 それはその名の通り全七種のフォームの内、二番目に誕生したフォームだ。

 その由来は対魔法や、対近接職と幅広く対応した――悪く言えば器用貧乏な――第一エナフォームに力不足を感じた凄腕の剣士や騎士が、『剣や槍を持った敵により有利に戦えるフォームを作るべし』と動いたのが始まりとされている。

 

 その結果、同じ近接武器を持つ相手には非常に有利なフォームを作り出す事に成功した。

 その特徴は何と言っても鍛錬の末に生まれる圧倒的な武器捌きにより、苛烈な攻めを可能とする点にある。

 

――より速く、より強く、より正確に敵を倒す。

 全ての構えや技術が対近接職に特化している事もそれを助長する。

 それこそが第二ズィオフォームの最大の特徴だろう。

 

 しかしその反面、対魔法職への戦闘は不得手としている。

 近接職との戦闘能力に特化した分、魔法を防いだり、弾いたりするため能力が低いのが第二ズィオフォームの欠点だ。



(――剣だけで対抗するとなると少しきついかもなぁ。魔法への対処能力が低いのが弱点だけど……使用していいのか?)

「尚、魔法は牽制程度の威力なら使用しても構わない。多少の怪我でも、な」

 そんな事を考えていると、その考えを読んでいたかのようにエクシアが説明をしてくれた。


「ん、第七位までだけど私は治療魔法が使えるから、半死くらいまでなら治せるわよっ。まぁ腕が炭化とかしちゃったら流石に厳しいでしょうけどね」

 腕が炭化などというムツキにとってはととんでもない事をサラッとルナが言ってくれた。


「そういう事だ。刃を落としているととはいえ、重量は普通の武器と変わらん。多少の怪我は付き物だし、怪我をしてもコイツが治療してくれるから安心しておけ」


「「はい!」」

(安心は出来ないけど……まぁ、やるしかないか)


(――そういう事ならせっかくだし、搦手を使用させて貰いますか)

 ムツキは魔法のインベントリの中にある、イダリコから託された短杖サヴマを空いている片手で取り出す準備をする。


「――試合開始ッ!」 、

 その直後、ついに模擬戦が始まった。  




「――はぁああぁぁぁぁッ!」

 まず先に動き出したのはプリエラだ。

 彼女は勢い良く大地を蹴ると、ムツキへ槍を向けたままに素早く接近を開始する。

 その速度は魔力による身体強化と相まって非常に早いと言ってもいい。

 そして速度を一切殺すこと無く、そのままの勢いでムツキにと必殺の突きを放つ。


 並の戦士では恐らく反応すら出来ない速度。そして穂先に一切のブレが無く、正確なその突きはまさに見事としか言い様がない。

 あの細い少女の体の何処に何処にそんな動きを可能とする膂力、そして魔力が存在するのか。

 そして十五歳という若さで、一体どれだけの鍛錬と訓練を続ければこのような動きが可能になるのだろうか。

 そんな想いを抱かせるには十分過ぎる動きだ。

 

 だが――

「――っ!」

――ガキンッ!


「……へぇ」

 しかしムツキもただこれまでの時を無為に過ごしてきた訳ではない。

 幼い頃より彼が積んできた鍛錬は今まさにその効果を発揮した。

 彼はその一撃に素早く反応し、自身に一撃が命中する直前に穂先へ剣戟を浴びせる事で既の所で弾く事に成功する。

 その直後、弾かれた穂先がムツキの頬を高速で掠めていく。


「うぉおおおおぉぉっ!」

――リーチにおいて不利な戦いで槍の初手を回避する事に成功した。

 そのチャンスを逃すムツキではない。

 剣先をそのまま槍へ押し付ける事で相手が態勢を立て直し、槍の矛先を自身に向けさせないようにしつつ、一気に距離を詰める。

 その迅速な速度の凄まじさを現すように剣と槍がこすれ合う部分からは火花が飛び散っている。


――相手の懐に入り込んでしまえば、相手が再び槍を刺突するよりも、自身が剣を振るうほうが早い。

 そのための行動だ。


「やるじゃない。ムツキちゃん。師匠の神気を受けても平気だっただけはあるわね……けどっ!」

 しかしプリエラもそのまま黙ってやられる程甘い相手では無かった。

 自身の懐へ入り込もうとするムツキの腹部へと素早く蹴りを繰り出す。

 

「ぐっ!」

 ムツキはその蹴りにも恐ろしい程の反応速度で剣を持っていない、空いた片腕を突き出し対応する。

 だが蹴りの威力は中々のものらしく、彼の顔が苦痛に歪み、僅か一秒以下の時ではあるが、動きが鈍くなる。


(チャンス……!)

 そんな千載一遇の好機を逃すプリエラではない。

 彼女はすぐに自身の体内で魔力を練り上げとある魔法(・・・・・)を使用すべく、槍を握る力により一層込める。


――しかし

「――光弾シャインバレット

「なっ!? 無詠唱魔――」

――それよりも早くニヤリと笑みを浮かべたムツキが、いつの間にか左腕に持っていた短杖サヴマから光属性の第十位魔法、光弾シャインバレットを発射する。


「っ……しまっ!?」

 その予想外の攻撃――そしてその魔法が放つ眩いばかりの光に思わずプリエラは反射的に目を閉じてしまう。  

(い、一体いつの間に杖を持っていた……!? おまけに高度な魔法制御技術である無詠唱魔法を使うって、ムツキちゃんは剣士なんじゃっ!?)

 プリエラの脳内を数々の疑問が過る。

 だが彼女はすぐに冷静さを取り戻し、その場から一旦退こうとするが――




「――勝負あったわね」

「っ……参りました」


――その首元には既にムツキの片手剣バスタードソードが突きつけられていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ