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32.一度ある事は二度ある

「――はい、師匠っ!」

 師匠の呼びかけに対し、弟子のプリエラが元気よく返事を返す。

「今から外でこのムツキという女の相手をしろ! 同性なうえに一歳違いだからといって油断はするなよっ!」

「はっ!」

 プリエラが勢い良く立ち上がる。



(いや、俺は男だからっ! ちくしょう、ルナめ。だからこんなスカート姿で会いたくなかったんだ……!)

「――あの、俺はおと――」

 格好のせいだから仕方がないとはいえ、案の定性別を勘違いされていたので、慌てて訂正しようとするが――

「わかっている。安心するがいいムツキ」

――言葉が遮られる。


「え?」

(まさか、さっきのは冗談で、ちゃんと俺が男だって見抜いていた……!?)

 そんな結論に思い至った。だが――

(待て、こんなやり取り、ついこの間もしたような……)

 ムツキはつい先日、似たようなやり取りをして酷い目にあった気がした。


「皆まで言わずとも良い。プリエラと店で出会った時は男の格好をしていた事についてであろう?」

「……え?」

「安心しろ。プリエラやお前のように近接戦闘を行う者は女でもひらひらとした服装ではなく、男の服を好むものが少なくはない。君のように女で俺という一人称を使う者も、な。だからその件についてとやかく言うつもりはないぞ」

「いや――」

――思いっきり勘違いしていますから! 全然安心できないですから!

 ムツキはそう付け足そうとしたが――


「安心して、ムツキちゃん。私は貴方の気持ちがよくわかるよ。私も鍛錬の邪魔になるから女の子らしい服を着た事なんてほとんどないからねっ」

 プリエラが思いっきり親しげな笑みを浮かべてムツキへと向き直る。

「あ、あはは……」

(やべぇ、このパターンはまずい。絶対まずい。完璧にルナの時の二の舞いになる。これ以上真実を告げづらくなる前に真実を告げないと……!)


「いや、俺は……」

「でも、手加減はしないよっ!」

 しかしまたも言葉が遮られてしまう。


「~~~~っっ!!」

――バンバン

 そんなやり取りを見ていたルナが口元を抑えながら机を軽く叩きながら爆笑をしていた。

(こ、この狐ッ……! 完全に意趣返しか何かのつもりだろ……!) 

 もしルナが男だったらムツキは間違いなく彼女をぶん殴っていた自信があった。


「ムツキも手加減をする事無く全力で頼むぞ。この村には如何せん子供が少なくてな、プリエラには中々同年代、しかも同性となるとその才能のせいもありまともに戦える相手が居なかったのだ。ルナが見込んだその腕、見せてもらおう」

(ああ……この勘違いのしやすさと、勘違いしたまま話を進める所、この人は間違いなくルナの友人だ……)

 ムツキはこの世の終わりのような表情を浮かべている。


「もしプリエラに勝てたら、これよりの二日間、お前に私の持てる技術を叩き込んでやる。私の技を短期間で身に付けられる者とみなして、な」

「あ、ありがとうございます……」

(あーもうこうなったらやるしかねぇ……! ヤケだ!)


――こうしてムツキは、プリエラと模擬戦をする事になったのだった。




───────────────────────────────────────────────────────────




「――改めて自己紹介をするね。私の名前はプリエラ・ラウレール。この髪の色から何となく予想は出来るでしょうけど、火精の母と名前も種族も知らない父の間に生まれた――まぁ所謂半精霊ハーフってわけっ。よろしくね」

 プリエラが片手で赤い髪を弄り、もう片方の手で自身の身長より長い槍を、感触を確かめるように回しながら自己紹介をする。

 その際にペコっと頭を下げてきた辺り、エクシアにある程度の礼節を仕込まれている事が伺える、


(歳相応に元気そうな雰囲気だったけど、意外と礼儀正しい子なんだな。……これで性別が勘違いされてなけりゃなぁ)

  

 

――あの後エクシアの家の外に出たムツキ達は、模擬戦を行うべく彼女が用意した刃を落とした武器を受け取った。

 ちなみにプリエラは槍の使い手であるエクシアの弟子のため当然のように槍を選び、ムツキは扱い慣れた片手剣バスタードソードを選んだ。

 

「俺の名前はムツキ。えっと、見ての通り人間だけど色々とあって、ここまで育ててくれた両親はオークだ。よろしくな」

「もしかして……孤児?」

「まあ……孤児だな」

(正確には違うけど)

 バカ正直に『異世界から神様に転生されました』なんて言ってもややこしい事にしかならない予感がするので、とりあえず孤児という事にしておく。


「へぇ……偶然ね。私も孤児なのよ」

「そうなのか」

(ってそういえば昨日ルナがそんな事を言っていたっけ……)


「エクシア師匠に別の大陸で、まだ赤ん坊だった時に、魔物の群れの中で死にかけている所を拾ってもらったのよ。だから母親の名前も覚えてないわ。――そんな訳で師匠には命を救ってもらって、ここまで育て鍛えあげて貰った恩があるから負けられないし――負けないわよ?」

 プリエラが槍を構え直し、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。

「俺だって負けるつもりはないぜ。――強くならないといけないからな」


――ムツキの脳裏にランコンの街での惨状が蘇る。

(あんな光景をもう見たくはないからな……。そのためにはまずは全てを掬い取れなくても、手の届く範囲のものを守れるくらいの力を身に付けないと……!)


 ギュッと片手剣バスタードソードを持つ手に力を込め、プリエラへと構える。

(リーチは圧倒的に向こうの方が上だ。だけど懐に潜り込めば取り回しの悪さが仇になるはずだ。そこで一気に勝負を付ける!)


「両者、準備はいいか?」

「「はい!」」

 互いに構えをとったのを見届けたエクシアが口を開く。彼女は審判のような役割を担うようだった。

 ちなみにその隣にはルナもおり、先程と打って変わって真剣な面持ちで二人の様子を見ている。



――互いの間の緊張感が急激に高まりつつあった。



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