3.魔物は見かけによらない
(――な、なんだこの状況は……?)
「……なぁ……だよな?」
「ええ。間違いなく…………よ」
「一体何が…………んだ……」
――転生を果たした目を覚ました夢月が見たものは自身を取り囲み、仲間同士で会話をしている大量の化物だった。
(あれって確か、オークってやつだよな……。ゲームとかアニメでよく出てくる)
――まるで豚を巨大にし、鉄の武器や防具、はたまた布を身に纏った上で二足歩行させたような生物。
そう、空想上の生物であるはずのオークがそこには居た。
(なんかイメージよりは普通に文明的な格好をしているし、不思議と嫌悪感は湧かないけど……この状況はまずいぞ)
「う、うあー……」
(あー……喋ろうと思ったけど上手くしゃべれねぇ。まぁ神様が話していた内容から察すると今の俺は赤ん坊だしそりゃそうだよなぁ……)
とりあえず彼らとコミュニケーションを取ろうと試みたが、上手く喋る事は出来ず、口からはただただ赤ん坊らしい可愛らしい声が漏れるだけだった。
(うん……こりゃ死ぬな)
これまで夢月がゲームやアニメで見てきたオークのイメージだが、彼らは粗暴であり、人間を襲い食べたりしていた。
つまり恐らく自身もこのままオークに食べられてしまうのだろう、と夢月は考えた。
(転生先が本来の大陸と違う所になる、ってあの神様は言っていたけど……まさかよりにもよってオークの群れのど真ん中なんて最悪だ……。せっかく神様の好意で転生させてもらったのに、またすぐに死ぬなんてなんだか悲しくなってきたぞ……)
自分の運があまり良くないというのはわかっていたが、こうも不運な状況が続くと流石の夢月も少々悲しくなってしまう。
(かなり辛い……。あ、やべっ。なんか涙が出てきた……)
気づけば目の端から涙が溢れてきていた。
体が赤ん坊のものになったからだろうか、随分と涙腺が脆くなっているようだ。
(あー、いっそ死ぬ前に赤ん坊らしく大声で泣き喚いてやろうか?)
そんな事を考えていると、顔を見合わせた数匹のオークが頷き合いゆっくりとこちらへと歩みを進めて来る。
ああ、これはいよいよ持って食べられてしまうのだろう。そんな考えが脳裏を過ぎり――
「可哀想に……心ない大人に捨てられたんだろう……?」
「ふふっ、安心しなさい。今日からワシらが君の親代わりじゃ」
「こんなに泣いて……これまで辛かったんだろう……? 大丈夫よ、優しい仲間達が君を待ってるわ」
――優しく抱きとめられた。
「うぇ……?」
「今日からこの子は我らの村の新しい家族じゃっ! 良いなっ!?」
「「はいっ!!」」
(ええぇぇぇぇっ!?)
まさかの展開に内心で素っ頓狂な叫び声をあげる。
恐らくリーダー的な立ち位置の老齢っぽいオークの指示の下、周囲のオークが慌ただしく動いている。
そしてその内の一人が赤ちゃん用の服らしき物を持ってくると、優しく夢月に着せてきた。
「ノモスとアモル、確かお前たちは養子でも構わないから子供が欲しいと言っていたな?」
「はい、その通りです」
先程真っ先に夢月へと駆け寄ったオークの一人がそう言って頷いた。
「お前たちが今日からこの子の両親の代わりとなれ。良いな?」
「わかりました、村長っ!」
「ありがとうございます、村長」
どうやらこの老齢のオークが村長だったらしい。
そしてこのオークの夫婦がどうやら夢月の新しい両親となるようだ。
「さぁ、行こうか坊や。ああ、安心しなさい。今の呼び方は坊やでもちゃんと時期が来れば村一番の占いの腕を持つ、イダリコおじさんに名前を付けてもらうからね。あの人ならきっといい名前を付けてくれるよ」
「ばぶ……?」
「うふふっ、そんな不安そうな顔をしなくてもいいのよ、坊や。たとえ種族が違っても私達が貴方に注ぐ愛は本物だから、ね」
オーク夫婦がそう言って優しく微笑みかけてくる。
(い、色々と訳のわからない事だらけだけど、とりあえず一つ言える事がある)
(――このオークの皆さんめっちゃいい人(?)達だ……)
――夢月の頬を一筋の涙が伝い落ちる。
それは先程の涙と違い、悲しみによる物ではなく安心と喜びに満ちた物だった。
その後、彼は心優しいオークの下ですくすくと成長し――
――あっという間に十六年の月日が流れた。