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幕間2.魔王「バルバトス」

――魔大陸に存在する四人の魔王、その内の一人バルバトスが住まう、対魔物激戦区である大陸南部の一大都市。

 それが魔王都バレスだった。


 およそ60万もの魔族が暮らしている魔王都を見た者がまず驚くのは、その巨大な都を余すこと無く取り囲む二十メートル程の高さの石壁だろう。

 そして次にその壁の表面から上空まで伸び、魔王都を包むようにドーム状の蒼い光が覆っている事に驚くはずだ。

 

――その蒼い光の正体は『魔壁』と呼ばれる防護壁だった。

 

 魔壁は魔王都バレスの中央に位置する魔王城。そしてその地下に存在する八メートル四方にも及ぶ大きさの濃緑色の魔石が持っている莫大な魔力を、専用の魔法によりに魔王都一帯に回す事で魔壁を展開し、周辺の魔物の侵入や、空からの攻撃を防ぐ事を可能としている。

 そんな離れ業を、巨大な魔石は可能とする程の力を持っている。


――既に知っての通り魔石はそのランクや、大きさによって価値は大きく変動する。

 そして魔王城の地下にある魔石のランクは、その濃緑の色が示す通り、7に限りなく近い純度の6とされている。

 そのランクともなれば、指の爪程の大きさで一つの家庭が水の浄化や食料の保存、夜の暮らしを照らしてくれる魔灯などの一通りの生活魔法に使用しても、数年は保つ程の魔力を持っている。


 勿論一般市場にはほとんど出回らない高ランクの魔石のため、値段も法外であり、爪程度の大きさでも金貨で100枚は必要だろう。

 これは比較的収入の多い冒険者のような職を除けば、一般的な魔族一人の一月辺りの収入は銀貨五枚という事からもありえない金額だというのがわかるだろう。


 その上魔石のランクが高くなればなる程、ミリ単位で大きく価値が上下するため、魔王城の地下にある巨大なソレを通貨に換算した場合、計り知れない値段になるであろう。

 当然その魔力は価値に見合っており、都市全体を覆う魔壁のような、桁違いの魔力を要求するはずの魔法を恒常的に展開して尚途切れない事からも底が知れない事がわかる。


――一応付け加えれば時間の流れと共に魔壁の魔法も進化し、強度と共に魔力の変換効率も向上してはいるのだが。

 だが、それを差し引いても破格としか言えない魔力だ。


 故にそこには常に厳重な警備と共に、幾重にも強奪や破壊を阻止するための魔法がかけられていた。

 もし奪われ、悪用でもされれば場合によっては地図を作りなおす程の事態が起きる可能性があるからだ。



――そんな魔石の前に複数の人影があった。

 その中でも取り分け目立つのが二人。片方はスーツに近い服装を身に着け、巨大なニ対の翼を持った金髪の男。

 もう片方は額から一本の角を生やし、真っ赤な着物を着ている黒髪の女だ。

 そしてその二人の背後に警備をするように、それぞれ数人の魔族の男女が居た。 

 もしここに優秀な冒険者が居れば、彼らが纏う雰囲気から全員が超一流の実力を持つ事がわかるだろう。


「――そういう事ですので、どうかよろしくお願いします」

――今しがた口を開いた男の身長は百八十後半、といったところだろうか。

 顔立ちは整っており優男とでも言うような雰囲気だが、全身から漂う威風や立ち振舞がそれを一切感じさせない。


「ふむ……」

 顎に手を当て、考えるような仕草をした女は身長こそ男に劣り、百六十センチ程度しかないだろう。

 だがその身からは背後の空間が蜃気楼のように歪んで見える程のナニカ《・・・》を発しており、彼女の麗しい外見を見ても誰もが最初に抱く想いは『美しい』や『美人だ』ではなく、『コイツはヤバイ』であろう。


――そう。この二人こそ、魔大陸に存在する四人の内の魔王の二人だ。

 男の方の名はバルバトス。種族は悪魔族であり、三百年前に魔物との戦いで戦死――魔物の根源とされる魔禍の攻略作戦において、突如として現れた巨大な三つの頭を持った魔物と相打ちになった――した父の後を継いだ者だ。


 生涯を戦いに捧げ、圧倒的な武力を持っていた父と違い、そこらの魔族よりは強いにしても聖位冒険者は勿論、下手をしたら最上位冒険者にも劣るかもしれない彼が魔王になった際は当然彼が治める領土や、大陸の各地で不安や不満の声が紛糾した。


――力のない魔王が、魔物が跋扈するこの大陸で町や村を守れるのか、と。

 そのため先代魔王の次男が反乱を起こしたりもしたのだが、彼はそれを一瞬で鎮圧した。

 何故なら彼は事前にそれを知っていたからだ。


――そう、彼は父から武力を受け継げなかった代わりに、歴代最高とも言える知力と政治力を持っていたのだ。

 それこそが父が力が弱いにも関わらず、遺言で彼を次代の魔王に指名した理由だった。


 無数の内通者を放っていた彼は、反乱が起きるとそれを迅速に鎮圧。自身の弟を含め、首謀者クラスを皆殺しにした。

 これは今後も自身の武力の無さを舐めた者が反乱を起こさないようにするための見せしめだ。

『たとえ弟であろうと私に逆らえば殺す、と』

  

 代わりに彼は自身に忠義を尽くし、有能なあれば平民や冒険者、さらに嫌悪されがちな種族である竜神族ドラゴニュートでも取り上げ重宝し褒美を与えた。

 従う者には繁栄を、逆らう者には死を。非常にわかりやすいやり方だ。


 さらにこれまでは交易や商売のために村間や、都市間での交流はともかく、魔王同士では滅多な事では互いに干渉しなかった彼らを、巧みな話術で交渉のテーブルに引きずり出し、決して万全ではないとはいえ史上初の魔王間での連携による、魔物との共同戦線を構築する事に成功した。

 これまでは『あの辺はあっちの魔王軍が守るだろうし、俺達は都市の周辺を守ろう』と、悪く言えば他人任せで、各々の魔王軍が持つ戦力的にも仕方がないとはいえ、自身の領土のみを守っていた。


――だが交渉の末に互いの部下を共に一時的に他魔王の下に送り、技術や知識の共有及び上昇、さらに明確に対魔物の防衛ラインや拠点を共同で構築する事に成功する。


 これによりこれまでは頻繁に起きていた小さな村や集落への魔物の襲撃の被害が激減した。

 そのため村ではこれまでは若者の多くを、いつ襲撃してくるかもわからない魔物への自警団や畑への守備的な役割を担わせていたが、その割合を減らし生産力を向上させる事に成功する。


 さらに魔大陸全土から魔法を扱える者、習いたい者を集め、その才覚を伸ばすための魔法アカデミー――ちなみに費用も優秀な者であれば、その才能を潰さないために格安で入学も可能――の設立。

 

 これにより魔大陸では魔法を扱える者や、魔法の平均レベルが大幅に向上し、魔物への対応力が向上した。

 さらに各都市や街、商隊へ本来魔王の護衛である兵士達を、警備兵或いは自警団として貸し出し、安全の確保による都市の発展を促すと同時に流通を安定させたり等、その功績を挙げればキリがない程だ。


 そんな彼を今では力なき魔王と見る者は居ない。

 それどころか歴代最高の魔王とも呼ばれている存在。それが魔王バルバトスだった。

 


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