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25.頬を膨らませたケモミミ幼女は素晴らしい


「――ふぅ」

「スピーチお疲れ様、ムツキ」

「ありがとうございます、ルナさん。やっぱり慣れないことをするとつかれますね」


――祭りは予定通り、日没と共に開始された。

 なんと街の中央にある広場や大通りを全て貸しきっての開催であり、中々の規模だと言えよう。

 実際道に沿うように多くの屋台や、出店が展開しており、そこを埋め尽くすように無数の魔族の人々が祭りの会場に訪れていた。

 ギルドにあった物とは別の魔導機械――魔石の力を用いた機械であり、元の世界で言えば放送器具に近い――により、開催時刻や場所を大々的に放送をしていたのが大きかったのだろう。



――そんな中、ある程度覚悟していたとはいえ、モルガンに『主役として何か適当に盛り上がる挨拶をしろ』と無茶振りを言われた時は胃が痛くなりそうだった。

 今は何とかそれを乗り切って、ムツキはルナと共に適当な屋台で買った食事と飲み物を持ち、道端に腰掛けている所だ。

 余談だが、二人は気のいい屋台の蛇人ナーガのおじさんに『街を救ってくれたお礼』として無料で料理を貰っていた。 



「ふふっ、強いわね……魔大陸の人達は。あれだけの被害が出た後なのに、こんなに皆楽しんでいる……」

 ルナがそこかしこで笑い合い、食べ物や酒を飲んで盛り上がっている景色を目を細めて見詰める。

――ムツキが後から知った事だが襲撃事件での死傷者は最終的に千人を超えたらしい。

 ランコンの街の人口はおよそ五万人だ。そこから考えると千人という数は余りにも多い。

 恐らく今後は至る所で作業や仕事が回らなくなるであろう事が容易に想像できる。


――だが、いやだからこそ今この時に人々は笑顔なのだ。


「どんなに悔やんでも、悲しんでも、そして恨んでも死者は帰ってきません。なら、せめて逝った者を笑顔で送り出して、明日から残った者も笑顔で過ごそう――それが大昔から魔物の襲撃で身近な人の死を経験してきた、魔大陸に住む人達の基本的な考え方ですね」

 ――とはいえ、中には祭りに来れないくらいに悲しんでいる人や、祭りが終われば辛くなる人もどうしても居ますけどね。とムツキは付け加えた。


「そう、よね……。……大事な人が死んだ悲しみはそう簡単に忘れられないわ」

 ルナが遠い目をしながら、静かに飲み物――ちなみにルナのはお酒だ――へと口をつける。


 『――ルナさんも、過去に大事な人を失ったんですか?』


(――ってはっきり聞けたらどれだけ楽なんだろうな。でもあの表情とかを見ちゃったら……そう簡単には聞けないよなぁ)

 これまでルナの涙や言葉から察するに、過去に何かがあった事は確実だ。

 だが今のムツキにそれを詮索する事は出来なかった。



「――それでも、悲しみを乗り越えて人は前に進まないといけません。そして死んでしまった人が生きられなかった今日を、そして明日を俺達は生きていくんです。その人達の分まで、ね」

 ムツキは内心でこの言葉を自身にも言い聞かせていた。

 転生を果たした事により少々特異な死生観と経験を持つ自分にも――


「――っ!? そ、その言葉って……!?」

「えっ?」

 その言葉に一瞬だけルナの目が大きく見開かれ、驚愕に歪んだ顔と口が微かに震える。


「……ごめんなさい。少し、取り乱したわ。――昔ね、友達に同じ言葉を言われたのよ。『私達は前に進まないといけない。死んでしまった人が生きられなかった今日と明日を私達は生きていくんです』ってね……。」

「…………」

(その友達が、ルナさんの涙の理由なんだろうか……?)

 


「――ムツキはまだ子供なのに強いわね。私よりもずっと……」

「っ……!?」

――気づけばルナの顔が目の前にあった。

 それこそムツキが少しでも顔を前に動かせば触れてしまいそうな程に。


――ムツキの心臓がドキッと跳ね上がる。

 鼻腔にルナのものだろうか。それとも彼女の飲んでいたお酒の香りだろうか。何処か甘い香りが漂ってくる。



「……ねぇ、ムツキ?」

 ルナが潤んだ瞳と共に上目遣いを向けてくる。

 その頬はお酒を飲んだためかうっすらと紅く上気している。

「は、はい……」

(ちょっ、何この展開……!?)

 ムツキの脳内をクエスチョンマークが埋め尽くす。

 それと同時に思春期の少年特有の青臭い思考が脳裏を過ぎり――


「あっ! リーダー、ムツキが居たわよっ~~!」

 それを一気に吹き飛ばすかのように、不意に大声で自身の名前を呼ぶ声が聞こえ、慌ててそちらを見る。

――タッタッタ

「お兄さんっ、あの時はありがとっ~!」

 するとあの時ムツキが助けた淫魔族の少女達が肩とたわわに実った胸を揺らしながらこちらに走ってきていた。


――ギュッ

「ちょッ!?」

 その内の一人――確かリーダーだった者が勢い良くムツキの空いていた方の隣に腰掛け、腕を絡ませてきた。

(肘に、この子の胸が当たってる……! しかもなんか頭がポワーンとする匂いが……)


――淫魔族の体臭には種族を問わず、男性を魅了するフェロモンが含まれている。

 冷静なムツキであればそれを考慮する事も出来たのだろうが、ルナとのやり取りでドキドキしていた彼には到底不可能な話だった。


「ワタシの名前はイリス・リリーナ。あの時はお兄さんのおかげで命拾いしたよっ! 本当にありがとねっ♪」

 イリスと名乗った淫魔族の少女がお礼を言いながらより一層腕を強く絡めてくる。

 そんな彼女の服装は所謂ビキニのような物だ。

 

――つまりほぼ全裸に近い少女の、温かな肢体が腕に押し付けられ、心はともかく体は完全に思春期の少年なムツキには非常によろしくない状態になってしまう。


「ムツキさん、良かったらこのあと、私達とイイコトをしませんかぁ?」

 イリスの仲間の淫魔族の一人が、ムツキの前にしゃがみこんで吐息がかかる程の距離で囁いてくる。

「うふふ、淫魔族は命を助けられた恩を忘れないわ。坊やがもし宜しければ助けて頂いたお礼に、今夜は快楽の坩堝に落ちてみませんこと?」

 さらに淫魔族の中で一際大人びた雰囲気の女性が、舌なめずりをしながらムツキの背中から腕を絡めてくる。


「えへへっ♪ お兄ちゃんには淫魔族の誇りに誓って最高の夜を約束するよっ」

 トドメと言わんばかりに、モケノーであるルナより幼い見た目の幼女が、鈴の鳴るような声でムツキを誘惑してくる。

 ちなみにその見た目とは裏腹に、腰をくねらせる動作や淫魔族特有の甘ったるい匂いを発しているため、もう色々と犯罪的だ。


「そ……それじゃあお言葉に甘えて――」

 必死に耐えるも、ついに屈服し男を虜にする淫魔族の香りに誘われるがままにムツキはふらふらと立ち上がり――

「――浄化風プリフィケーションウインド

「はっ!」

 ――我に返った。

 どうやら彼女たちのフェロモンにより、魅了弱体化デバフ魔法がかかった状態に近い所まで来てしまっていたようだった。

 それにより解除魔法が適用され、すっと思考が澄み渡るのがわかった。


「う…………」

――ちらっ

 その魔法を放ったであろう人物からゴゴゴゴゴ……っという擬音でも付いていそうな気配を感じだムツキは恐る恐るといった感じで顔を傾ける。

「……むすー」

 すると案の定と言うべきか、そこには頬を膨らませたルナの姿があった。


「あ、あのその……ルナさんこれはですね……」

「ふーん……ムツキは胸が大きい子がいいのね?」

 ルナが軽く頬を膨らませながらぷいっと、ムツキから顔を背けてしまう。


「い、いえ……そういう訳では……。いや、ごめんなさいぶっちゃっけ好きですけど、こうなったのには深い事情が――」

「……私で大きくしていたくせに」

「ちょっ! ルナさんその話は――」

――頬を膨らませたまま、ボソッと小声でムツキにとっての爆弾発言をする。

 あの大浴場での大欲情なイベントは彼には非常に忘れがたく、それでいて忘れたいイベントだった。


「――大きくって、ムツキ君がアソコを大きくしたって事っ!?」

「あらあら、痴話喧嘩かなっ~?」

「ふふっ、私達は相手と自分がお互いキモチよくなれれば性別は問わないわ。良かったらルナさんも一緒にどうっ?」

「モケノーのお嬢さんや、坊やみたいな可愛い男の子……いえ、男の娘はお姉さん大好物よ……うふふっ♪」

 当然その手の話題が大好きな淫魔族の方々が聞き逃すはずもなく、勢い良く食いついてくる。


――ゾロゾロ

「――おっ、盛り上がってるじぇねーか」

「私達も仲間に入れて下さいなっ!」

「あははっ、今日はたくさん飲むわよ~」

「も、モルガンさんっ! それにリーゼさんやシャルロッテさんにギルドに居た冒険者の皆さん……!」

 そんな喧騒に誘われるようにモルガンを始めとした、大勢の冒険者がムツキ達の下に現れたのだった。



――まだまだ宴は続きそうだった。




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