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24.魔導兵器

「――とりあえず貴方が無事で良かったわ」

 ムツキは目覚めたルナと共に食事を終えた。すると不意に彼女が口を開く。

「ええ。――魔力が枯渇するまで回復魔法をかけてくれたってさっきリーゼさんから聞きました。その、ありがとうございます」

 ルナへ感謝の言葉を述べるが、その脳裏には先ほどのルナの表情が焼き付いていた。

(……この間といいさっきといい、どんな夢を見ていたのか気になるけど……聞き出せねぇよなぁ……)


「ふふっ、いいのよ。それより何か聞きたい、って顔をしてるけど私の気のせいかしら?」

 だが表情にでも出ていたのだろう。ルナにはムツキの考えている事がお見通しだったらしく、ジッと瞳の奥を透かすかのように真っ直ぐな視線を送ってくる。

「うっ……」

「じー……」


「え、えっと…………あ、あの魔導外骨格とかいう化物の正体、ルナさんは知っているんですか?」

――本音を言えば夢の内容を詮索したかったが、まるで先程の苦しげな表情が幻覚だったかのように平然としているルナを見ていると、少し聞きづらかった。

 そのためムツキは同じく気になっていた魔導外骨格の事を聞いてみることにした。


「――その件なら俺にも聞かせてくれ。お前さんに話を聞こうとしたらムツキに回復魔法をかけまくった挙句気絶されたおかげで、すっかり待ち惚けちまったよ」

「も、モルガンさんっ」

 いつからそこに居たのだろうか。ムツキが声のした方向に振り返ると、そこには扉に寄りかかるように立っているモルガンが居た。


「ふふっ、それは悪いことをしたわね。とはいえ、乙女のナイショ話を盗み聴きするとは感心しないわねっ」

 そんなモルガンへイタズラっぽくルナが微笑む。

「悪い悪い。リーゼの奴にムツキが目覚めたって聞いて、ちょうど今来た所なんだ。つーかお前さん、乙女って年齢でもないだろうに」

「あら、女はいつになっても乙女よ。失礼しちゃうわね」


「……ふん、リーゼも同じ事を言ってたな。っと、そうだ。ムツキ、まずは礼を言っておく。ありがとよ、街を救ってくれて」

「い、いえ。当然の事をしたまでです」

「それでもだ。ギルドの代表として、そしてこの街の住人としてお礼を言っておくぞ」

 モルガンがその厳つい筋肉質な肉体を傾け、ムツキへと頭を下げる。


「あんな糞強い化物を一人で二体倒すなんて、きっとお前みたいな奴を英雄って言うんだろうよ。――まぁ、その辺はリーゼが散々言ってるだろうから置いといて、例の魔導外骨格の話、聞かせてもらっていいか?」

「ええ、元より約束していたし構わないわ。私が知っている範囲での話になるけど、構わないわね?」

 ルナの言葉に二人がコクンと頷く。

  


「――魔導外骨格、それはかつて古の時代に猛威を振るっていた『魔導兵器』の一つ。その性能は貴方達が見た通り。一人の兵士の力を大幅に引き上げ、当時は弱小種族とされていた人間をその力で一気に世界の覇者に引き上げた程よ」

 ルナがポツポツと語り始める。

「……千年以上昔に人間がそれを使って世界を支配した、って伝承に残っているやつの事か?」

「ええ、その通りよ」

「えっ、でもそれって昔は存在していた『ランク10』の最高品質の魔石の枯渇と共に起きた、人類の文明と技術の衰退で作る事も、そして使う事も不可能になったって話を聞いた事がありますよ?」

「その認識で合っているわ。魔石の枯渇と共に人間はそれらを運用する力を、次いで領土を失い大幅に弱体化したわ。そしてその長い歴史の中で魔導兵器を作るための技術や知識の大半を失った」

「な、なら、どうしてその失われたはずの魔導兵器がこの街に……?」


「…………あれは謂わば古の時代の真似事で作られた劣化品よ。恐らく使われている魔石のランクは、6から7といった所じゃないかしら。じゃないと私達だけで魔導外骨格を撃破するなんて不可能よ」

「なるほどな。……だが、なんでお前がそこまで知っている?」

 モルガンが少しだけ警戒心を露わにしながら問いかける。

 そこにはルナの返答次第ではタダでは済まさないという雰囲気すら感じとれる。

「――私の故郷の大森林ではこの魔大陸と違って友好的じゃない竜族から森を守るために、あれと似た物を作ろうとしていたわ」

 ルナが微かに目を細める。

「していた……?」


「……その研究データと試作品を奪うために、何処かの国の兵士達が襲撃を仕掛けて来て試作品を含む…………全てを失ったわ。そう、全てを、ね」

「っ……」

 ルナの声色が低くなる。

 その瞬間彼女の表情に一瞬だけ、まるでこの世の全ての闇を煮詰めたような暗い影が差した。


「……まあ簡単に言えばその試作品を作る時に、古の魔導外骨格のデータの切れ端を参考にしたの。だから私はあれを見た時に、形状は違えど魔導外骨格だという事に気づけたのよ」

「なるほど……。その、なんだ。悪い事を聞いたな」

 その雰囲気から何かを察したのだろう。モルガンが謝罪をする。


「いえ、気にしないで」

 フッとルナの表情が和らぐ。

「ちなみに襲撃者の正体はわかるか? 死体や残骸を焦れば何かわかるって思ってたんだが……。奴らめ、全滅と同時に自爆で、塵一つ残らず消えてくれたおかげでさっぱり何の情報もねえんだよ」

「確証はないけど……私の故郷を襲った連中と何らかの関わりがあると思うわ。私は……そいつらの手がかりを追ってこの大陸に来たから……」


「ふむ……とりあえずわかったぜ。この事は警備兵や他の冒険者には俺の方から伝えておく。だからお前たちは夜まで休んでおけ」

「ありがとう。……って夜まで?」

「夜には祭りがあるから、な。お前もその主役の一人になる。フッ、まあ細かい事はそこの新米の英雄様にでも聞くんだな」

 モルガンはそう言い残して部屋から退室していった。


「……どういう事?」

――後にはきょとんとした顔のルナと、ムツキが残されたのだった。



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