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23.英雄としての在り方



「で、でも俺は新米の冒険者ですし、まだ実力だってそこまでありませんし。もっと強くならないと――」


「――あの化物には私の第七位のスキルが通じなかったわ」

「……え?」

――先程まで微笑んでいたリーゼが不意に真剣な表情をする。


「かつて五十年間冒険をして、数々の魔物を倒してきた私の剣はあの魔導外骨格とかいう化物の装甲の前に弾かれた。でも君はそれを第八位の剣技で撃破したって聞いているわ」

 彼女の声は低く、冷静だ。それは酒場やギルドの受付で見せていた、元気っ娘なイメージと大幅にかけ離れている程に。

「そ、その通りです」

「ムツキ君はスキル込める魔力の量や、使用者のレベルや魔力総量に応じて、同位階のスキルでも威力や性能が大幅に異なるのは知っているわよね?」

「は、はい」


――この話は剣士や魔法使いなら誰も知っている事だ。

 例えば最も下位かつ、基本の魔法である火弾ファイアーボール氷矢アイスアローを例としよう。

 レベル1の新米魔法使いが放つ火弾ファイアーボールは、その威力や大きさは共に小さく、発射される弾数も一発だ。

 これは使用者の腕や、魔力が未熟な事に他ならない。

 

 だが、熟練のレベル30の最上位冒険者が放つ火弾ファイアーボールはその威力や大きさは前述の物と比べて非常に大きく、また弾数も一度の発動で二発から三発は発射される事から差は明らかだ。

 同様の現象が氷矢アイスアローにも見られ、新米の魔法使いが放つのが一発なのに対して、オークの村でクリスタルボアが襲撃してきた際にムツキが放った氷矢アイスアローは、その弾速や弾数共に通常のソレを大きく上回っていたのがいい例だろう。

 

――RPG等のゲームで例えるなら、レベル1のステータスの勇者が使う初期技とレベル100のステータスの勇者が使う初期技を比較すると、同じ技でも威力が段違い、とでも言えばわかりやすいだろうか。



「まぁ何が言いたいかって言うと、君は凄い。そして過ぎたる謙遜は嫌味になるよ、って事かなっ」

「あっ……」

 言われてみればその通りだろう。

 彼女からすれば長い時間をかけて磨いてきた剣技が通じなかった相手をあっさり倒したのだ。

 内心には色々と思う所もあるのだろう。


「普通なら魔力総量の関係でフォームを構え、スキルを発動する際の短時間しか発動出来ない、魔力による身体強化を長時間使用。さらに規格外の威力のスキルを放つ事を可能とした圧倒的な魔力総量と才能を持つ。そしてそれに驕ること無く、これまでの人生でずっと鍛錬を積んできたであろう剣技や身のこなし。さらに高慢になる事無く強くなろうとする意志を君は持っているっ」

「えっと……」

「――そして挙句の果てに魔導外骨格を単身で二体撃破した……。さて。こんな君を英雄と呼ばずに、なんと呼べばいいのかな?」

 ニヤニヤと少しだけ意地の悪い笑みを浮かべながらリーゼが口元へ人差し指をつき立てる。


「ご、ごめんなさい」

「ふふっ、わかればよろしいっ♪ まぁ冒険者の先輩としてお姉さんが言いたいのはさっきも言った通り、それに相応しい結果を出したんだからもっと胸を張って生きろ、って事かな。 それじゃあ夜までゆっくり休むといいよっ」

「……わかりました」

「ばいばいっ」


――バタンッ

 

 リーゼはベッドの隣の台座に軽食を置いて行くと部屋から出て行ってしまった。

「俺が英雄、ねぇ……」

 ああ、は言われたがイマイチ実感が湧かなかったりする。


 元の世界では勿論、この世界に来てからも神童なんて呼ばれては居ても、所詮井の中の蛙だと考えていた。

 まさか英雄なんて呼ばれる日が来るなんて夢にも思わなかった。

 

――冒険に出れば自分以上の存在は腐るほど居る。

 彼はそう思っていたのだが、その想像以上に神様が与えてくれた能力ステータスはチートだったようだ。

――無論、このような結果に繋がったのには与えられた才能を殺す事なく、日頃の鍛錬で伸ばし続けた影響も大きいのだが。



「――とりあえず夜までに気分を切り替えておかないと、な」

 夜に祭りを行うのであれば、その主役である自分が暗い顔をする訳にはいかない。ムツキはそう考えた。


「――う、うーん……」

「やべ……起こしちまったか……?」

 そんな時、不意にムツキの足元で寝ているルナがもぞもぞと動く。


「……やだ……に……しないで……」

 だがそれは杞憂だったようで、ポツポツと寝言を喋り始めた。

――しかしその表情はいつかの時のように苦しげだ。


「ルナさん……?」

「リリィ……レリスティアさま……ごめん……なさい」

 やがて何者かの名前を呟くと、その表情がさらに苦しげに歪む。

 額にはいくつかの脂汗も浮かんでいた。


「ひとりは……いや……ぁ……だれ……か……だれか……たすけて……」

 やがてルナの左手がまるで何かを求めるように上方へと伸ばされる。

 その手は小刻みに震えている。

 そこからは熟練の冒険者としての威厳や、強者の雰囲気は微塵も感じ取れない。

 この場面だけを見れば、昨日の戦闘で圧倒的な実力を発揮していた少女と同じ存在だとは到底信じられないだろう。


「っ……!」

 気づけばムツキはその手を無意識の内に取っていた。両手で優しく包み込むように、

「り……リリィ……?」

 それに反応したかのようにルナが薄く瞳を開き、先程も呟いていた名前を言う。

 それから数秒後、薄く開かれていた瞳がやがてゆっくりと大きく開かれ――


「――あら……ムツ、キ?」

 やがてボヤケていた焦点が定まると、ルナは静かにムツキの名前を呼んだのだった。


 

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