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22.新米の英雄


(――これは夢だ)

 不思議と感覚でムツキは、今自身が見ている光景が夢だと言うことがわかった。

 

――火に包まれた森林。

 無数の騎士に攻めこまれている何処かの城。

 次々と殺されていくモケノーの少女達。

 

――そして何処かで見た事のある銀髪の少女を庇い、凶刃に胸を貫かれ血の泡を吐きながら絶命する純白のドレスを着たモケノー――

 

 その死に絶望と怨嗟の慟哭をあげる少女の手を、無理やり引いて逃げ出す数人のモケノー達。


 その先頭に居るのは双剣を持った黒髪のモケノーで――




───────────────────────────────────────────────────────────




「う、うーん……。ここは……?」

――ゆっくりと意識が浮上する。

 重い瞼を開いたムツキの視界には見知らぬ天井が広がっていた。


(……なんか夢を見ていた気がする。――凄く悲しい夢を)

――胸にポッカリと穴が空いたような感覚がする。

 ついちょっと前まで見ていたものは、多分大事な夢だった気がする。 

 だがムツキはそれを何故か全く思い出せない。それが何だかもどかしかった。



――ガチャッ

「あら、おはようっ♪」

「っ……貴方は確かリーゼさん、ですよね?」

 声のした方へと顔を向けると――戦闘の負傷だろう――顔に包帯を巻いている風精シルフの少女、リーゼが扉の所へ居た。

 その手にはお盆に乗った軽食と水が乗っている。


 寝たままで会話をするのは失礼にあたると考えたムツキは、ギシッと軽くベッドを軋ませゆっくりと身を起こす。

「ふふっ、覚えていてくれて光栄よ。新米の英雄さん」

「……新米の英雄、ですか?」

 聞き覚えのない単語に首を傾げる。


(あれ、なんか夢以外にも何か大事な事を忘れているような……)


「そのうちわかるわ。ああ、ちなみにここは冒険者ギルドの二階の仮眠室よ。それと体の調子はどう?」

――見慣れない天井だとは思ったが、どうやらここはギルドの仮眠室だったようだ。

 恐らく誰かがここへ運んできてくれたのだろう。と考えたムツキは内心でその者へ感謝をする。


「ちょっと気だるい感じがしますが、大丈夫です」

「そ、良かった。ちょうど貴方達が起きた時のためにって思ってご飯を持ってきたから、食べられそうなら食べちゃいなさいなっ。丸一日寝てたんだしお腹、空いてるでしょ?」

 ふと隣の窓に目を向ければ陽が昇っているのが確認できた。

 その高さ的にまだ昼前だろう。

「ありがとうございます。――でも貴方達って一体どういう意味で……?」

「んっ」

 リーゼが軽く視線を左下へ向ける。

 それに従いムツキが自身の足元の方へ視線をずらすと――


「すぅー……すぅー……」

 薄手の寝間着を着たルナがすやすやとムツキの膝の辺りで、安らかな寝息を立てていた。

「る、ルナさんっ!?」

「ふふっ、彼女。あの戦いが終わった後に自分の怪我も、戦闘後で魔力を消費しているのも構わず、魔力が完全に枯渇するまで一晩中ず~っとあなたに回復魔法をかけ続けていたのよ」

「なっ……あの魔力とんでもない量のが枯渇するまでずっと……!?」

 ムツキの脳裏に、意識を失う直前に見た大粒の涙を零し続けるルナの表情がフラッシュバックする。 


――それと同時に戦いの記憶も。

「そ、そうだッ! 戦いです! あ、あの戦いは一体どうな――」

「むにゃ……むにゃ……」

「っ……!」

 戦いの事を思い出したムツキは慌てて声を荒げる。

 だが直ぐにルナが足元で寝ている事を思い出し、ハッと口をつむぐ。


「――安心しなさい。貴方があの化物を二体仕留めた後に、残った二体も私達と冒険者や自警団の増援部隊、そしてルナのおかげでどうにか処理できたわ」

「よ、良かった……」

(というか冷静に考えればルナさんやリーゼさんが生きているって事は何とかなったって事だよな……)

 そこまで頭が回らない程度にはやはり疲弊していたらしい、と内心で自嘲する。


(元の世界での人生が影響だろうけど、やっぱり生死が絡むと俺はあまり冷静にいられないらしいな……)

 

「そうそう。今日の夜にお祭りをやるから準備をしておくようにね」

「お祭り……ですか?ああ――犠牲者を送り出すため、ですね」


――種族や地域によって差はあるが、魔大陸の北部では災害や、稀にある強力な魔物の襲来で多くの犠牲者が出た際には、死者を弔うために祭りを行う習慣があった。

 これは辛いことがあったからこそ、死者を笑顔で送り出すという所から由来している。


「ええ。後は街を救ってくれた英雄への感謝も兼ねて、ね」

 何故かリーゼがムツキへ視線を向けてくる。

「主役は貴方だから、しっかり準備しておきなさいな」

「え? それは一体どういう――」

「中位冒険者のパーティーを一瞬で全滅させ、元上位冒険者三人と、二百人近くの冒険者や警備兵を総動員し、それでも尚犠牲を出しながらようやく撃破出来た、魔導外骨格とかいう化物を、たった一人で二体撃破して街を救った存在が居るのよ」

「そ、それって……」

「そんな存在を英雄として、そして主役として扱わないで、一体誰を主役にすればいいのかしらっ?」

 リーゼが冗談っぽい口調で微笑みかける。


「そ、そんな。俺はただここの人達を守るために勝手に無我夢中でやっただけです」

「人々を守るために、自身の危険を顧みず剣を振るう。それってまさに英雄じゃない?」

「あっ……」

――墓穴を掘った。


「そういう事だから、胸を張りなさいな。新米の英雄さんっ♪」

 心底楽しそうに満面の笑みを浮かべるリーゼを見ながら、ムツキは思わず頭を抱えそうになるのだった。




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