21.ケモミミ少女の涙
――やはり敵はムツキ達が仕掛けてくるのを待っていたらしく、二人が動き始めるのと同時に前衛型が剣を構え、後衛型が魔法を撃つべく杖を構えるのが確認できる。
「――させないわ。魔法処断」
だがその杖の先端へ夥しい量の魔力が収束した直後、魔法処断と呼ばれる弱体化魔法により、その魔力は全て使用者へと牙を剥き襲いかかる。
そのダメージは魔法の威力が桁違いな分、強力だったらしく獣人との戦闘を見る限り驚異的な耐久性を持っているであろう魔導外骨格が、杖を落としてその場に倒れこむのがムツキから確認できた。
(ルナさんは魔法処断まで使えるのかよっ!?)
――魔法処断は魔法の使用時に消費される魔力量のおよそ二倍の魔力を、魔芯が形成される直前に使用者の杖等ににぶつける事で、それを無効化し暴走させる技だ。
そのため使用するには膨大な魔力を必要とする上に、ぶつけるタイミングも魔法毎に魔芯が形成される瞬間が異なるため、非常に使用難度の高い魔法だった。
(底が見えない人だ……。だけど、おかげで一時的に後衛型は戦闘不能。なら俺は近接型を――)
「――倒すッ!」
ムツキは片手剣を介した後、自身の体中へと魔力を循環させる。
それにより五感が極限まで研ぎ澄まされていく。
「――――命令確認。任務ヲ開始スル」
魔導外骨格の顔の内部からまるで眼光のように紅い光が迸る。
それと同時に目にも留まらぬ速度で大剣が振るわれる。
「っ……!」
常人であれば反応出来ない速度。だが、全身に魔力を満ちさせている事で五感の感覚を大幅に引き上げているムツキはすぐに反応し、必殺の一撃を身を捩らせて回避する。
そしてすぐさま敵の装甲が覆われていない関節部へと剣を振り下ろした。
「一刀両断ッ!」
魔力を帯びた剣は寸分違わず外骨格の関節部へと到達し、その右腕を断ち切ることに成功する。
(よしッ。こういうのは関節部が弱いってのはお決まりだもんな……!)
――元の世界の漫画やアニメでも、可動部を確保するためにこういった物の関節は弱点であるケースが多かった事をムツキは想起していた。
「――まだよっ!」
「うっ!」
だが敵はまるで痛覚がないようにすぐさま残った左腕で手刀をムツキへ放つが、ルナの声のおかげで、既の所でムツキは回避する。
――獣人の肉体を簡単に引き裂く程の豪腕に手刀を喰らえば、恐らくその場には一人の少年の肉塊が転がっていたであろう事は想像に難くない。
だが落とした大剣を拾い、さらに追撃を放とうとする敵へ、ルナが放った大火弾が次々と命中しよろける。
(イダリコおじさんの必殺技の第七位の火属性魔法……! だけど威力や連射速度が桁違いだ……!)
魔法自体はムツキも以前村の訓練の中で何度か見た物と同種だが、流石と言うべきか。
ルナの大火弾は威力や連射速度は桁違いだった。
「今よっ! 背中を狙いなさいっ!」
「わかったっ! 下位二連剣戟ッ!」
ルナの指示に従い、素早くサイドステップで敵の背部へ回りこんだムツキは魔導外骨格が背負っているいくつものパイプが伸びたランドセルのような部位に技を叩き込む。
すると何かが砕ける音と共に敵の全身から力が抜け落ち、その場に崩れ落ちる。
「よしっ」
「そいつはもういいわ、もう一体が起き上がる前にやりなさい!」
「わかってますっ!」
だが今度は油断する事無く、すぐさま残りの後衛型の魔導外骨格へと向き直る。
――だが既に敵はその半身を起こしていた。その手に先程と異なる形状の杖を持った上で。
「よ、予備の杖っ……!? 魔法処断が間に合わない! ムツキ避けなさ――」
ルナの悲痛な叫びが木霊する。
「――火弾」
だが無情にも杖からはまるで魔力が底なしであるかのように、凄まじい数の火弾が連射される。
それは真っ直ぐにムツキへと向かっていき、その身を焼き焦がす――
「うぉおぉぉぉぉぉぉッ!」
――事はなく、ムツキの剣によって次々と明後日の方向に反射されていた。
そのままムツキは叫びながら火弾を連射する魔導外骨格へと走りだす。
「あ、あの数の火弾を走りながら全部弾いているのっ!? なんて反射速度と剣捌き……!」
「死んでたまるかぁぁあぁぁ!!」
――反射を続けていた火弾の内の一発が、使用者へと弾き返され直撃する。
それにより予備の杖が敵の左腕毎焼失し、魔導外骨格がまるで動揺したかのようにその場で後ずさりする。
「――刃斬撃ッ!」
――その隙を逃すほどムツキは甘くなかった。
ついに魔導外骨格の下まで到達したムツキは背面へと第八位の剣戟を振るって破壊する。
それによりまるで糸が切れたかのように二体目の魔導外骨格がその場に崩れ落ちる。
「……やっ――た」
――バタッ
(あれ……なんでだろう、全身から力が抜けて……意識が……)
「ムツキっ……!?」
――しかしそれを見届けた直後、ムツキの体か力が抜けその場に倒れこんでしまう。
それを見ていたルナが慌てて駆け寄ってくるのが視界の端で確認できた。
(おかしいな……体が……動かな……。あー……緊張の糸が途切れたのかな……? 早く……残りの魔導外骨格も……倒さないと、いけないのに……)
必死に体を動かそうとするが、まるで体が人形になったかのようにピクリとも動いてくれなかった。
「なん――うし――いつも――の――人は死んで――いやだ――」
そんなムツキへルナが何かを叫んでいるのがわかるが、はっきりとは聞き取れない。
辛うじて聞き取れた内容から、ムツキが死ぬとでも思っているのだろうか。
(いや……多分気を失うだけだから……死なないから……)
原因は恐らく命をかけた戦闘による死の恐怖と、極度の緊張だろう、とムツキは内心で推測していた。
故に『大丈夫』だという事を伝えようとするが、そんな意志に反して口は動いてくれない。
やがて意識が徐々に遠のき、視界が暗くなっていく。
そうしてムツキが完全に意識を失う直前に見たものは、必死にその体を揺らしながら、大粒の涙を零すルナの姿だった。




