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19.惨劇


「――お待たせしましたっ!」

「ムツキとルナか。早かったな」

「はいっ。ルナさんの強化バフ魔法のおかげですね」

「ほぅ……。高位魔術師ハイ・マジシャンの称号は伊達じゃないって訳か」

「そこの曲がり角を曲がったら恐らく敵がいるわ。警戒を怠らないようにね」

「わかりましたっ!」


 移動高速化ヘイストの効果により、驚くほどの早さで街を駆け抜けたムツキは現地到着の直前で先行していたモルガンや淫魔族、獣人のパーティーと合流する。

 ルナは恐らく強化バフ魔法をかける事に要する時間と、現地への到着や先行した者達との合流のタイミングを加味した上での行動だったのだろう。

 その辺りからもルナの優秀さが伺える。


 やがて何があってもいいように警戒をしていたムツキ達は街の大通りに存在する曲がり角を曲がり――そこで全員が驚愕した。


「っ……これは……!」

「おいおい……なんだよこれは……」

 

――そこには本来あるはずの町並みが無かった。

 石造りの家屋は全てが瓦礫と化し、そこら中に魔族の死体や、魔王配下の街の警備兵の死体が転がっている。

 その死体の中には女性や、まだ幼い子供のものも無数に混じっていた。


――そう、地獄絵図が広がっていた。 

 こういった光景に慣れていないムツキは勿論、心構えや凄惨な光景にある程度耐性ががあるはずのベテランの冒険者のモルガンやリーゼにシャルロッテ、さらに獣人や淫魔達までもが完全に顔を引き攣らせて硬直している。



――そしてそんな地獄絵図の中心には四体のナニカが居た。


 それは二メートル程の体躯を持っている。

 だが顔の部分を始め、全身を鉄或いは皮のような物で覆われており、その詳細を確認する事は出来ない。

 しかし、背部から伸びるパイプのような物がそれをただの生物では無い事を物語っていた。


「…………魔導、外骨格」

 隣に居るルナがムツキ以外には聞こえなかったであろう程の小声で呟いた。

「……え?」


「クソッタレぇぇエエエェェ!!」

 モルガンが慟哭する。

 それが合図だったかのようにいち早く戦意を取り戻した獣人のパーティーの六人は血気を滾らせ、殺意を漲らせる。



 直後、その内の三人――前衛職の者が異物へと接近する。

 それを残りの三人が攻撃魔法や、弱体化デバフ魔法で援護を開始。それは熟練のパーティーらしい非常に見事な連携だったと言えよう。

「や、やめなさいっ! 貴方達が敵う相手じゃないっ! 逃げて!」


 ルナが獣人達を静止するように叫ぶが、街の同胞を殺され怒り狂う彼らにその声は届かない。


――皮肉にもそれが彼らの運命を決定づけてしまった。


「ま、魔法が弾かれたっ!?」

 一瞬で魔物を焼き殺す程の熱量を持った火弾ファイアーボールや、簡単に鎧を貫く程の貫通力を持った風矢ウインドアローは敵の表面に触れると同時に弾かれ明後日の方向へと飛んで行く。


「魔法耐性を持っているのかッ!?」 だが剣ならッ!――下位二連剣戟ツインブレードッ!」

 しかしそれに動じない優秀さを持った獣人の前衛達は、すぐに手に持った得物に魔力を込め、それを全力で敵魔導外骨格へと振るう。



――ガキンッ

「なっ! 俺の剣が弾かれ――ぐぁ、やめグボォァァあぁぁ!?」

――だがそれはまるで、剣が玩具であるかのように魔導外骨格に弾かれる。

 そしてそれに驚愕した事で一瞬動きを止めてしまった獣人のリーダーは、その隙へ素早く反応した異物へ両手を掴まれると、そのまま力まかせに真っ二つに引き裂かれ絶命する。


 魔導外骨格に無造作に投げ捨てられた死体から、まるで噴水のように血がビュービューと吹き出しているのがムツキ達の居る地点から確認出来た。

 圧倒的な脳力の差がそこにあった。


「り、リーダー! ぐわぁぁ!」

「ひっ、た、助けてぐぎゃあああぁぁぁあ!」

 リーダーが呆気無く殺された事に動揺した残りの二人も、魔導外骨格が背中から抜き放った大剣により切り裂かれる。


「――――炎分子砲フレイムレーザー

 それと同時に唯一微動だにしなかった魔導外骨格が、手に持っていた杖を振るう。

 その直後、目にも留まらぬ速度で杖から真紅の光が発射され呆然としていた獣人の後衛達をその背後に残っている家屋ごと蒸発させた。

 それに遅れる事数秒、背後で巨大な爆音が響き渡る。

 街が破壊されている原因は間違いなくこの魔法だろう。


「命が……こうも簡単に……」

「ムツキ……」

 ムツキが呆然としながら呟く。


「な、なななによっ! あああああの化物はぁっ!?」

 淫魔族のリーダーらしき少女が素っ頓狂な悲鳴をあげる。

 戦闘が始まってから僅か数秒。それだけの時間に熟練のパーティーが一つ全滅したのだ、無理もないだろう。

 言葉にこそしていないが、ここに居る者の大多数はその光景を見ただけで戦意の大半を持ってかれている。


「俺が知るかっ! 警備兵やボルドの奴らを一瞬で片付けるような化物だ――お前たちには荷が重いつーかそんな震えた状態じゃ足手まといだ! お前たちは一旦退いて住人の避難誘導と、魔術師ギルドや北部の詰め所から増援を呼んで来い!」

「は、はははいっ! おやっさんっ!」

 淫魔の少女達が涙を流しながら慌ててこの場から去ろうとするが、先ほど謎の魔法を使った一体が杖を少女達へと向ける。

「っ……いかんっ!」

 そして数秒後、杖から再び真紅の光が発射され――



「――これ以上やらせるかぁぁあああぁっ!」

 ――彼女達へその死の奔流が届く直前で、ムツキはその前に立ち塞がり剣を振るう。

 するとその魔法は剣により軌道を逸らされ、まるで弾かれるように天空へと飛んでいき、上空の雲に穴を作った。

「あ、あの魔法を弾いたっ!?」

 風精シルフの少女、リーズが驚愕の声をあげる。


「これ以上……これ以上死ななくていいはずの命を、奪わせはしないッ……!」

 ムツキは魔力を帯びて蒼白く輝く剣を、シュッと一閃し敵を睨みつけた――

 


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