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18.戦闘準備


――その炎は今尚続く爆発によりどんどんその数を増やしており、どんどん被害が拡大している事を物語っていた。


「チィッ! 原因はわからんがとりあえず住民の避難と、場合によっては原因の排除だッ! リーゼ、シャルロッテ付いて来い!」

「はい、マスター!」

「了解よっ」


 いつの間にか武器を装備し、ムツキの背後に立っていたリーズと、睡魔族の女性――シャルロッテが元気よく返事をし、一振りの短剣ショートソードをモルガンへと投げ渡す。

 それと同時に即座にモルガンをトップとした隊形を組んだ辺り、もしかするとこの三人は昔はパーティーを組んで共に冒険をしていたのかもしれない。

――そんな考えがムツキの頭を過った。

  

「朝っぱらからうちで暇つぶしをしてたボンクラ冒険者共も準備が整い次第来い! じゃねぇと夜にうちへ入店禁止にすっからなッ!」 

「「「わかりました、おやっさんッ!」」」

 モルガンがそう言い残し、リーゼやシャルロッテと共に爆煙が昇っている街の南部へ向けて走りだす。

 それに続くように冒険者ギルドに居た魔族の面々も、装備を携帯していた二組のパーティーが追従し、残りの者は宿屋街へと走っていった。

 宿屋街に向かった者は恐らく装備を取りにいったのだろう。

 

「私もあの人達を追うわ。ムツキはどうする?」

「俺も行きますっ! タダ事じゃ無さそうですし、人を助けられるなら助けたいですから」

――助けられる命があるなら助けたい。

 それがムツキの本音だ。

(生きたいのに、生きられるのに命が失われるなんて馬鹿らしい事があってたまるか……!) 

 一瞬だけ脳裏にかつて生への渇望、そして死への恐怖と後悔のままに死んでいった自身の姿が映る。



「そう。……私の予想が当たっていればだけど……かなり危険だから無理だけはしないようにね」

 ルナが一瞬だけ悲しそうな表情をする。

 それはムツキが今朝見たルナの泣き顔と不思議と重なって――

(っ……今はそんな事を考えている場合じゃねぇ!)


「じゃあ早速あそこに走って――」

「――待ちなさい。その前に強化バフ魔法をかけるわ。戦闘になる可能性があるから」

「わ、わかりました」

 ルナが背負っていた長杖を取り出すと、感触を確かめるように一回転させてから右手でそれを前方に構える。

 すると杖の先端に付けられた六角形の濃緑の魔石が魔力を帯びて光り輝く。


「私の手を取りなさい。貴方にも強化バフ魔法を一緒にかけるわ」

「は、はいっ!」

 ルナがムツキへと空いた左手を差し出す。

 美少女と手を重ねる事への気恥ずかしさから一瞬だけ躊躇ったが、すぐに自身の左手をルナの左手へ上から重ねる。

「――短縮詠唱ショートチャント。風よ、我に疾風の加護を――移動高速化ヘイスト

 杖から蒼白い魔力光が迸るのと同時に、重ねた手からムツキの全身へ暖かな血が巡るような感覚が与えられる。


「――天啓よ、我に力を――攻撃力強化ブレッシング。聖なる光よ、我らを守り給え――広範囲聖盾ディヴァインシールド

 さらに詠唱は続き、ムツキはまるで母の胎内に居るような安らかな感覚を覚える。

(この感覚……ルナさんの魔力……だよな? 何だろう……とてもあたたかくて、優しい感じがする……) 

――ムツキの体内に流し込まれたルナの魔力が、その体と魔力と同化し馴染むまでの極僅かな時間に起きる、魔力の感覚共有から起きる現象だった。

 

――ただしこの現象は誰にでも起きる訳ではなく、魔力の波形が近い等特定の状況下でのみ起きる現象なのだが、例が少なく特に害がある訳でもないため、未だ原因や発生パターンの解明は出来ていない。


(っ……一瞬何かが見えたような……?)

 そんな最中不意に、はっきりと認識できない程の一瞬ではあるが、ムツキの脳内に見たことのない光景が映った。

(顔とかはわからなかったけど、森で……女の子が……泣いてた……?)


「――堅牢な守護の力を、我に与えよ。防御力強化プロテクションブレッシング。ふぅ……こんな所ね。さっ、行きましょう」

「あ、ありがとうございます」

(なんだったんだ……さっきのあの光景……、いや、今は忘れよう)

 やがて強化バフ魔法の詠唱が終わるとその感覚が終わりを告げ、ムツキは少しだけ物寂しさを感じてしまっていたが、慌ててその感覚を振り払う。


(しかし、魔力を通常より多く消費する代わりに詠唱を短縮する高度な魔法の短縮詠唱ショートチャントを使える上に、第七位クラスの強化バフ魔法を四種類……。 やっぱりルナさんは能力ステータス通り一流の魔術師マジシャンだ……)

 大浴場で回復魔法に属する浄化風プリフィケーションウインドを使用した事から、恐らく後衛の聖職者クレリック系の魔術師マジシャンだとムツキは思っていたが、高位の強化バフ魔法も使える辺り能力ステータスに見合った規格外の能力を持っているようだった。

 


――通常魔法使いは一つの系統に特化している。

 例えば火属性魔法或いは風属性魔法のみを使える魔術師マジシャンや、回復魔法のみを使える聖職者クレリック、召喚魔法のみを使える精霊術師エレメンタリスト強化バフ魔法のみを使える付与術師エンチャンターなどが例として挙がる。

 これは余程優秀な者でなくては同系統の魔法をいくつか覚えるだけで精一杯だからだ。

 

 だが稀に複数属性の攻撃魔法や、回復魔法と強化バフ魔法を同時に会得出来る者が居る。

 それがオークの村に居た基本属性全てを第八位まで使えるイダリコやムツキ、そしてルナのような魔法使いに当たる。

 そんな彼らは魔大陸全土でも少数であり、それぞれが天才であったり、代々魔術師の家系であったり、血が滲むような努力をしたり等など、理由は様々だが非常に重宝される傾向にある。


 基本的に冒険者のパーティーは前衛が二人から三人、中衛一人から二人、そして後衛が二人から三人だ。

 そして後衛の枠が多いのはその中でも、攻撃役や回復役のように役割分担をしているからだ。それは基本的に上述の通り、魔法使いの多くが単一系統のみしか仕えない事に起因している。

 そのため、複数属性を扱える魔術師マジシャンや、回復魔法と強化バフ魔法を使える聖職者クレリック等は重宝される話に繋がるのだ。



「さっ、走るわよ。移動高速化ヘイストの効果で今から走ればちょうど追いつけるはずよ」

「は、はい。 わかりました!」




――ムツキはルナに重ねたままだった手を引かれながら走り始めた。

 恐らくかなりの危険が待ち受けているであろう場所へと。




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