16.知らないほうが良い事もある
「……っ」
ムツキの体内を目の前の魔石の魔力が駆け巡る感覚が襲う。
それはおよそ数秒程度続き、同時に魔石が強い紅い光を放つ。
「こ、この色は……」
「槍でも降るんじゃないかしら……」
受付の方々がげっそりとした表情を浮かべる。
(えっ、紅い色だと一体なんなんだ……!?)
「あらあら、これは……うふふっ」
さらにムツキの隣に居るルナまでもがその光を見て何処か楽しそうな表情浮かべる。
「……お、終わりました」
やがて光が冒険者カードへ収束すると、緑色だったはずの魔石が無色透明な石へと変化していた。
「ま、マスター……これって……」
リーズが不安そうな表情で、いつの間にかカウンターまで来ていたマスターへと話しかける。
「ああ。ランク6の魔石がこの嬢ちゃんの魔力に耐えられなかったみてぇだな……」
「えっ、それってどういう意味ですか……?」
――この大陸で魔族が生きていく上で必須の存在である魔石には、それぞれ内部に込められた魔力に応じてランクが存在している。
これはその力や価値が強い順にランク10からランク1までがある。
だが最も強力かつ高価なランク10及びランク9の魔石は、今から千年以上前に起きたという人類対他種族の戦争の後に枯渇している。
その中でも最も戦闘が激しかった大陸は、本来ムツキが送られるはずだった『エクリプス』だったのだが、それはまた別の話だ。
ちなみに事の発端はこれまで知能や力、技術等様々な面で亜人種族や魔族に劣っていた人類が戦争を仕掛けた事に起因する。
詳しい情報はムツキの生きる魔大陸には残っていなかったのだが、当時存在していたランク10の真紅の魔石で作られた武器や防具はただの一兵卒を一騎当千の猛者にする程の力を持っていた。
それにより人類は一時はその力で各大陸を制覇し、人間以外の種族を支配するに至った。
だが魔石が枯渇した後は徐々に人類は衰退し、領土を失うと共に当時の技術と、その再現方法も失っていったという。
しかしそれでも尚残り、伝わり続けた当時の技術は、現在の食料保存を始めとした数々の魔法として変化発展しながらも残っている。
――ちなみに現在魔大陸で採れる魔石は、非常に希少だが緑色のランク6から7までのものが存在している。
最も採掘量が多く、魔物との戦いの武器や防具に使用されているものはランク3から5の青や青碧色の物だ。
その中でもランク5の魔石はそこそこ希少なため、最上位の冒険者や魔王直轄の騎士が主にそれを使用した武器を使っている。
それ以外のランク2や1の安価な青色や水色の魔石は、先の食料保存や水の浄化のような生活に必要な魔法に使用されている。
――そんな状況のため、ランク4以降の魔石は非常に高価であり、地域によっては金や宝石よりも余程価値がある。
余談だが、現在睨み合っている人類の大陸リュノールでは、長年続いた人類同士の内紛により魔石が枯渇しつつあり、それを何とかするために魔石が豊富な魔大陸へ無茶な要求を突きつけている、という噂が魔大陸では密かに囁かれている。
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「言葉の通りだよ。紅の魔力光……つまり遺物級か……」
(ごめんなさい、さっぱりわからないです)
マスターが無色透明になった魔石を取り上げ、手の中で転がして呟くが、ムツキには遺物級と言われても何の事だがさっぱりわからなかった。
「――嬢ちゃん、名前は?」
「……ムツキです。あと俺は男です」
「おっと、悪かったな。俺はモルガン、元上位冒険者で今はギルドマスターをしてる。まぁ、んなこたぁどうでもいいんだが、ムツキ。お前の冒険者カード、どうな内容か見せてもらってもいいか? ああ、勿論自分の目で見てからでいい」
どうやらマスターの名前はモルガンというらしい。種族はぱっと見た感じだと長耳族と人間のハーフのように見える。
見事なまでに鍛え上げられた立派な逆三角形な体型や、隙のない佇まいからは元上位冒険者に相応しい風格を感じ取る事が可能だ。
「わ、わかりました」
――何か異常が起きたらしいのはわかるのだが、その原因がさっぱりわからない。
そのためムツキは訝しげな表情しつつも、言われるがままに裏面になった自身の冒険者カードを拾い上げる。
「どれどれ……」
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名前 :ムツキ
レベル:16
種族 :人間(?)
職業 :???
武器 :ヘクトール(片手剣)《七等級》
防具 :旅人の革鎧《十等級》
ステータス
力: ■■■■■■■ A
体力: ■■■■■■■ A
魔力: ■■■■■■■■■■ SS
耐久: ■■■■■■ B
知力: ■■■■■■ B
精神力:■■■■■■ B
運: ■ G
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「っ……!?」
――ムツキの視界に映ったのはルナと比べても遜色ない程に異常な自身の能力だった。
――ただ一箇所を除いて、ではあるが。




