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15.知力の高さと知能と高さは別物かもしれない

「いらっしゃいませっ。冒険者ギルドにようこそっ!」

(あ、昨日の夜の風精シルフの子だ)

 朝食を終え、ルナと共に冒険者ギルドに到着したムツキの視界には、冒険者らしき仲間と口々に雑談を交わしている数十人の魔族、そしてカウンター越しに居る受付嬢らしい数人の少女が映っていた。


 その中には昨日の風精シルフや、睡魔族の女性もおり、あの時は動きやすい軽装だったが、今は全員が冒険者ギルドの制服らしきものを身に着けていた。

 奥には酒場のマスターだった厳つい男性の魔族の姿もある。

 従業員との会話を聞く感じだとどうやら昼間はギルドマスター、夜は酒場のマスターをやっているようだ。

 


「冒険者カードの魔法刻印の更新をお願いしたいのだけど」

 ルナが懐から表面を伏せた状態で冒険者カードを取り出し、少女へと差し出す。


(ルナさんはもう元通り、って感じだな。冒険者らしい切り替えの早さは見習わないとな)

 ムツキは内心でまだルナの涙を気にしている自身へ喝を入れる。

 色々と濃厚な出来事があったとはいえ、出会ったばかりのルナの深部へそう安々と踏み込んでしまうのはアレだろう。


「畏まりましたっ! 刻印の更新という事は旅の方ですか?」

「ええ。しばらくは魔大陸で活動をするつもりよ」

「なるほどっ。申し訳ありませんが更新が終わるまで少々お待ちくださいっ」

「わかったわ」

 席を立った風精シルフの少女が背後にある、機械の中へ冒険者カードを入れる。

 機械の上部には巨大な魔石が取り付けられており、魔力で動いている事が想像出来るが、『魔導機械』と呼ばれるそれらの知識に疎いムツキでは、全く仕組みや詳細はわからない。

(あれで冒険者カードの更新を行うっぽいけど……原理はさっぱりわからねぇ……)


「あっ、そちらの方も刻印の更新ですか?」

 風精シルフの少女がムツキへと微笑みを浮かべながら声をかける。

「いえ。俺は冒険者カードの登録をしに来ました」

「畏まりました。では新規登録の準備をしますので、少々お待ち下さい。それと代金は先払いですので、大銅貨5枚を登録料として頂きます」

「わかりました。これが代金です」

――チャリン


「はい、確かに。――ちょうどルナ様の刻印の更新が終わりましたね。こちらが冒険者カードになりま…………すっ!?」

 魔導機械から取り出した冒険者カードを差し出そうとした少女の表情が驚愕で固まり、語尾が跳ね上がる。

 その視線は表面にされた冒険者カードへ注がれている。


「リーゼどうした――のっ……!?」

 そんな同僚を不思議に思ったらしい睡魔族の女性も冒険者カードを覗き込んだ瞬間硬直する。

「悪いけど、私のカードを返して貰いたいのだけれど」

「は、はひっ! 失礼しましたっ!」

 風精シルフの少女――リーゼが慌ててルナの冒険者カードを差し出す。


――ぼそっ

「……だから裏面にして渡したのよ」


(……職業柄これまで無数の冒険者カードを見てきたであろう、ギルドの人達が驚くほどの何かが刻印されているんだろうか……?)

 

「……ルナさん。冒険者カードを見せてもらってもいいですか?」

「ええ。いいわよ」

 

「――なっ……!?」



───────────────────────────────────────────────────────────


名前 :ルナ・ノワール

レベル:41

種族 :モケノー

職業 :上位魔術師ハイ・マジシャン

武器 :聖域守護者の精霊杖《六等級》

防具 :試製魔導法衣=参式N型《六等級》


ステータス

力  :■■       F 

体力 :■■■      E

魔力 :■■■■■■■  A    

耐久 :■■■      E

知力 :■■■■■■■■ AA

精神力:■■■■■■■  A

運  :■■■■■■■  A



───────────────────────────────────────────────────────────



(なんだよ、この規格外のレベルと能力ステータスはっ!?)


――彼女のレベルや能力値は一言で言えば『異常』だった。

 魔大陸で最も人口の多く、数十万人居るとされている下位冒険者から中位冒険者、及び多くの魔物のレベルは15から20だ。

 そしてレベル25もあれば上位冒険者と呼ばれる存在。もしレベル30もあれば一握りの人間だけがなれる最上位冒険者とされる。

 彼らは魔大陸の南部に生息している、通常十人から二十人でパーティーを組み、対処するような強力な魔物を単独で討伐出来る程の実力者揃いだ。

 そしてルナのレベル40とは簡単に言えば冒険者の中で最も優れた者だけが獲得できる称号、所謂『聖位冒険者』級だ。


 そんな聖位冒険者は大陸にもわずか数人しかおらず、彼らが徒党を組めばどんな魔物でも倒せる、と言われている程だ。

 だが聖位冒険者の多くは性格に一癖も二癖もあり、協調性が皆無だったり、見方も敵も全滅させるような狂戦士バーサーカーだったり、傭兵として他大陸にいったりしている。

 


――そして能力ステータスも平均値はEからDランクであり、その中でも優秀な前衛職は力や体力がCランク、魔法職は魔力や知力がCといった具合で、Cランクの能力ステータスがあれば一芸に秀でた存在と言えるだろう。

 そしてBランクの能力値がもし一つでもあれば、それはその冒険者が非常に優れているという証左となり、仮にA以上が一つでもあればトップレベルの存在だと言ってもいい。

 

 そんな中で彼女は――


(Aランクが三つ……!? しかも魔法の攻撃力や、詠唱に影響する項目である知力はAAっ!? おまけに装備品は六等級――つまり宝物級装備ってどれだけデタラメなんだこの人は……!?)

 浴場での一件で彼女が優秀な魔術師マジシャンだというのはわかっていたが、ムツキは正直彼女がここまで規格外だとは思わなかった。


「……受付を百年以上やってきたけど、レベル40やAAランクの能力ステータスの持ち主は初めて見たわ……」

「私もよ……。魔王様でさえ、最近の方々は政治ばっかりをやっていたり、代替わりのせいで能力ステータスはB程度の方が多いという噂なのに……」

「一体何者なの……」 

呆気にとられた受付嬢達も愕然としている。

 幸い周囲の冒険者のほとんどはそれぞれの雑談に夢中でルナの異常性に気づいていないようだが、それでも何人かの勘のいい冒険者はこちらを訝しげにチラ見している。



「る、ルナさん。実は凄い魔法使いだったんですね……」

「ふふっ、当たり前よ。これでも別の大陸じゃちょっと名のしれた魔法使いなのよっ」

 ルナがフフンっと得意気に鼻を鳴らしながら胸を張る。

――いや、張る程の胸は無いのだが。


「――お風呂での醜態的にてっきり残念な感じの人かと思ってました。すいません」

「う、うぐっ。そ、その話は忘れなさいって言ったでしょっ!」

 ルナがムツキへ子供っぽく頬をぷくーっと膨らませながら抗議をする。

「あはは、ごめんなさい」

――すっかり萎縮してしまった受付の人と空気を和ますべく、ルナを茶化したのだが、どうやらそれは成功だったらしい。

 みるみるうちに張り詰めていた空気が緩み、ムツキの視界の端で彼女たちがホッと、安堵の息を吐いているのが確認出来る。


「で、では準備の方が整いましたので、えっと――」

「あ、ムツキです」

「失礼しました。ムツキ様はこちらの新規の冒険者カードの上に置かれた魔石へ、自身の魔力を流し込んで下さい。するとこの専用の魔石が、自動的に冒険者カードへ魔法刻印を行ってくれますので」


「はい、わかりました」

(とりあえず気を取り直そう……。あのとんでもない結果を見た後だと、自分の能力ステータスを見ても少し残念な気分になりそうだけど――これでもこの日のために毎日鍛えてきたんだ。やっぱりワクワクはするな……)

 ムツキはリーズの言葉に軽く頷くと、内心で胸を躍らせしながら魔石へ自身の魔力を流しこんだのだった。


――これが終われば、元の世界に居た頃から夢だった冒険が出来る。

 体調が悪い日は歩くことすらままならなかった自分が、自分自身の足で世界を歩ける。

 それはムツキにとってどんなに豪華なデザートよりも甘美な響きだった。


 


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