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11.裸の付き合い



「――あらっ、貴方の後ろを歩いている時にまさか、とは思ったけど同室だったのね。よろしくね、ムツキ」

「よ、ヨロシクオネガイシマス……」

(さ、最悪だぁあああぁぁぁぁ!!)

 


――時間は少しだけ遡る。

 食事の後精療亭に到着したムツキは『早速お風呂へ行きましょうっ』と言って手を引いてくるルナの猛攻に対し、遅滞戦闘を行うべく『ご飯を食べ過ぎたので、少し部屋でお腹を休めてから行きます! ルナさんは先にお風呂に入っていて下さい!』

――と言って時間を稼ぐ作戦に出た。

 だがいくつかの階段を登り、やがてムツキの宿泊階に辿り着いても尚ルナは着いてくる。

(もしかして同じ階に宿泊しているのか……?)

 そんな思考がムツキの頭を過ったが、それはそれで仕方ないと諦めて自身の宿泊階の廊下を歩く。

 だがどれだけ廊下を歩いてもルナは引き続きムツキの後ろを着いてくる。



 そうしてやがて部屋の前に辿り着いたムツキが立ち止まると、ルナもそこでピタッと立ち止まった。

(うん……嫌な予感がするぞ)

「……まさか、とは思いますがルナさんの部屋はここですか?」

 今にも泣き出しそうな顔をしながらムツキは恐る恐るルナへと問いかける。

「ええっ、その通りよ」

 それに対しルナは満面の笑みを持って答えるのだった。



───────────────────────────────────────────────────────────



――ガチャッ

「うふふっ、偶然宿が被っただけでも凄い偶然なのに、同じ部屋なんて運命すら感じちゃうわね」

「ソウデスネ」

「……な、なんで棒読みなの? というかムツキ貴方今にも死にそうな顔してるけど大丈夫……?」

「ダ、ダイジョウブデス」


「そ、そう。ならいいけど……。とりあえずムツキのお腹が落ち着いたらお風呂に行きましょうか。ここまで偶然が重なったのも何かの縁でしょうし、今日は寝ちゃうまで沢山お話しましょうね」

「……ハイ」

 熟練の冒険者かつ、美少女と同室という状況は本来なら非常に喜ばしい事態だ。

 だが今のムツキにはそれを喜ぶ事など到底無理だった。

 




「…………はぁ、どうしよう」

 ムツキは今温泉の前の脱衣所に居た。

 この温泉は混浴だ。それはこの宿には職業柄羞恥心なんかが比較的少ない冒険者が泊まる事が多いからなのだが、問題はルナだ。

 温泉に入れば間違いなく男だとばれるだろう。

 そしてあれだけ自身の長年の勘とやらに自信を持っていたルナが、もしムツキが男で、さらに上位冒険者どころか、駆け出し以下の存在だとわかればどんな行動に出るか全く予想が出来ない。

 

(いっそこのまま逃げ出そうかな……)

 ちなみにルナは脱衣所で手早く服を脱ぐと、服を入れた籠へ防犯用の防護魔法をかけ、タオルを持って一足先に温泉に浸かりに行っている。

 つまり今なら気づかれる事無く逃げられる。そんな考えが一瞬だけムツキの脳裏を過るが慌てて振り払う。


(まぁ世界中を旅している冒険者と話せる機会なんて多分早々ないし……行くか)

 そう決意したムツキは腰にタオルを巻くと、温泉へと続く扉に手をかけたのだった。



――ガララッ


(そこそこ混んでるな……)

 元の世界での銭湯程の広さの空間には既に三十人程の魔族の姿があった。

 男女の割合は半々、といった所だろうか。ムツキのようにタオルを巻いている者も居るが、そうでない者も居る。その辺は種族毎の文化なのだろう。


 ちなみに大浴場には三つの湯船と複数の洗い場と元の世界でのサウナに近い個室が存在している。

 湯船の中の温泉は地下から引いているのだが、洗い場の水やサウナの蒸気はこの宿にある魔石の魔力を利用している、という事を以前にここを利用した時にムツキは隣に居た魔族の客から聞いていた。

 実に魔石万歳である。

(それもそうか。やっぱ浄化魔法とかである程度は体を綺麗に出来るって言っても、お風呂に入るのと入らないのじゃ結構変わってくるし、精神的にもやっぱりお風呂ってのはいいものだよな)


 冒険者は一見清潔感等に無頓着なイメージがあるが、逆に一度冒険に出れば中々お風呂に入れないからこそ、討伐任務等を終えてこういった拠点に帰ってきた者は入浴を好む傾向があるらしい。

 元の世界でも紀元前五世紀頃にはギリシャで温泉や鉱泉を活用したという記録が残っているし、それらが今尚ヨーロッパで著名な温泉地として残っている事を考えれば、お風呂が好きなのは世界や種族が変わっても共通なのだろう。


「な~に入り口でボーッとしているのよ、ムツキ。早くこっちへいらっしゃいっ」

「……わ、わかりましたっ」

 半ば現実逃避も兼ねてそんな思考をしていると、浴場という環境故によく響くルナの声がしっかりとムツキを現実へと引き戻してくれた。

 ちなみに彼女は今、三つある浴槽の内の一つからこちらに向かって手をぶんぶんと振っている。

 その際に湯気に隠れながらも彼女の非常に控えめな桃色の頂がチラチラと見え隠れしていた。


――無防備な美少女が全裸でこちらに手を振っている。

 本来ならゆっくりとその光景を味わいたいのだが、生憎と今のムツキにそこまでの余裕はなかった。


(うん。覚悟を決めるしかないな……)

 内心で色々と覚悟を決めたムツキは、ルナが待っているゆっくりと浴槽へと向けて歩き始めたのだった。





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