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10.勘違いは後になればなる程ややこしい


「……ふぅ。――そういえば冒険者って言ってましたが、ルナさん職業は何をやっているんですか?」

「見ての通り魔術師マジシャンよ」

 ルナはそう言って身に着けている薄紫色のローブの袖をクイッと持ち上げる。

 さらによく見ると背中には一目で一級品と分かる長杖ロッド背負っており、服装も如何にも魔術師マジシャンらしい。

 どうやらムツキは彼女の事を気にするあまり、服装にまで目が行かなかったようだ。


「そ、そうですよね……。見ればわかりますよね……」

(見惚れてて服装まで見ていなかったとか言えねえよな……)

「そういう貴方は……剣士……よね? それにしては随分と魔力量が多いような感じがするけど……」

 ルナが自信なさげにムツキの職業の予想を言ってくる。

 だが流石は熟練の冒険者、とでも言うべきか正解だった。

「その通りです。一応魔法も少しだけ使う事が出来ますが、剣の方が得意ですね」


――もしムツキの魔法の実力を知っている者がこの会話を聞いていたら飲んでいる酒を盛大に吹き出していたであろう事をさらっと漏らす。

 何故なら彼は一応使える、と言っているが詠唱無視チャントネグレストや、第八位魔法を使えるような冒険者はこの酒場にほとんど居ないのだから。

 

「……なるほど。魔法剣士マジックフェンサーに近い感じかしら?」

「そうですね」

「ふーん。魔大陸ではさぞや高名な冒険者とお見受けするわ。ランクは……そうね。上位冒険者、或いは最上位冒険者って所かしら?」

「えっ、いや――」

 ――まだ冒険者登録すらしていない一般人です。

 とムツキは付け加えようとするが――

「――みなまで言わなくて結構よ。私は観察眼ステータスチェックの魔法を持っていないから貴方のレベルや、能力ステータスの詳細は見れないけど、長年の勘と感覚で貴方の魔力総量や能力ステータスがずば抜けている事くらいは見抜けるのよ。ふふっ、凄いでしょ?」

 ルナがドヤ顔をしながらムツキの方を真っ直ぐに見詰める。

「あははっ……」

(やべぇ、なんか本当の事を言いづらい。ルナさんのその長年の勘、それめっちゃ錆びてるよ。ぶっちゃっけ俺は上位冒険者はおろかまだ下位冒険者ですらないんだけど……!)


「……うふふっ、実は気づいていたのよ」

「え? ああっ!やっぱり気づいてましたかっ」

(さっきのは俺をからかうための冗談で、まだ俺が駆け出しの冒険者以下って事を気づいてたみたいだな……。良かった、これならなんとか――)

「――冒険者の格は武器にも現れる、とは言うけど貴方のその剣、中々の業物よね。つまり――実は最上位冒険者どころか、その上の聖位冒険者だったりするんじゃない?」

「…………え゛?」

 ムツキの顔が笑顔のまま硬直する。

「ふふっ、何故か駆け出しの冒険者が着るようなイマイチな男物の防具で男装をして実力と一緒に性別も隠そうとしているようだけど、その程度のカモフラージュで誤魔化せる程私の目は甘くないわよっ?」

 

 ルナがフフンと得意気に鼻を鳴らしながら、徐々に椅子を近づけこちらに身を乗り出してくる。

 その目にはキラキラとした光と、興味から来る興奮の色が見え隠れしている。

「あはははっ……」

(甘い、甘すぎるよ! ルナさんの目めっちゃくちゃ甘いよ!? 俺はそもそも男だし! つーか聖位冒険者とか魔大陸にいる無数の冒険者の上位一パーセント以下の、選ばれた存在じゃないかッ! 今はまだ冒険者登録してすらいない一般人だからッ!)


「さぁ、なんでそんなカモフラージュをしているのか正直に答えなさいムツキっ! さぁさぁっ!」 

「ちょっ、顔が近いですルナさんっ!」

「別にいいじゃない。女同士なんだからっ♪」

 気づけばその距離は互いの鼻息がかかり合う程に接近していた。

 そのため今ムツキが少しでも顔を動かせば、触れてしまう程に目の前にルナの非常に整った顔があるので色々と気が気じゃない。

 

 だがルナにはそれをまるで気にした様子は無く、どうやらルナは何かに集中すると周りが見えなくなるらしい。

――そんな時、救いの神が舞い降りた。


「――お待たせしました。 お二人分のポースシャークのステーキになります」

(ナイスタイミングッ!)

 ムツキは内心でガッツポーズをしながら運ばれてきた食事を受け取る。

 ちなみに店員は先程の風精シルフの少女ではなく、大人びた睡魔族の人だった。

 動きやすさを重視しているのだろうが、その豊満な胸を強調している水着のようなデザイン服装が中々に刺激的だ。

 


――モケノーの特徴だから仕方ないとはいえ、悲しい程に断崖絶壁なルナと、豊満な胸を持った彼女が隣同士に居ると、見ているだけで非常に悲しい気分になるが、ムツキは敢えて何も言わないように務めた。

 


「あらっ、食事が来たならそちらを優先しましょうか」

「はい! それがいいと思います!」 

 ムツキは上手く事を運べば話が逸らせそうだったので、全力で乗っかる。

(とりあえずぱぱっとご飯を食べたら、これ以上追求される前に宿に逃げよう……!)

 ムツキはそんな作戦をこっそり脳内で練りつつ、まるで流しこむように食事にがっついた。


「そういえばムツキの宿は何処なの?」

「もぐもぐ……ごくん。えっと馴染みの宿の精療亭という所ですね。あそこは温泉もあって値段も手頃なので」

「あらっ、奇遇ね。私も今日はそこに宿を取っているのよ。混浴だけど、温泉が気持ちいいって噂を聞いてねっ」

「へぇー…………え゛?」

 ピタッと食事を進ませている手が止まり、ギギギとまるで油が切れたロボットのような動きでルナの方へと顔を向ける。

   

「ふふっ、まさか同じ宿だなんて。これもきっと何かの縁ね。食事が終わったら一緒に温泉に浸かりながら女同士、ゆ~~っくりお話をしましょう?」

(や……やっぱり不運だ……)


――絶望を顔面に貼り付けたムツキと対象的にルナの顔には満面の笑みが浮かんでいた。




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