ガタッ
「一応、言い訳なら聞いてや―」
燈真くんの言葉に被せるように前のめりになってヒロくんが叫びます。
目の下には大きなクマがあるのがわかりました。
「俺が怒鳴られる筋合いはない!!お前の尻拭いに追われてたんだよ、燈真!お前が仕事が終わってないまんま愛咲のところにいくから、代わりに徹夜で俺が終わらせてたんだよ!なのになんだ!なぜ俺が責められてるんだ!この場合、悪いのは俺じゃねぇだろ!」
と一息で言うと、そうだろう?と言いたげな目付きで私とツキちゃんを見て訴えてきました。
「ええ、同感です。あなた、なにやってるんですか?」
「まさか燈真がそんなことをする人だと思わなかったわ」
チャッ、と実弾が入っている方の銃を燈真くんのこめかみに当てます。
確かに燈真くんが来てくれたことで仕事は早く終わりました。しかし、自分のことを蔑ろにしてまで手伝ってもらうほど落ちぶれてはいません。
どれだけ私をばかにすれば気がすむんですか!
「……すまん。だが」
「有罪です。言い訳は聞きません」
言訳無用。
私は怒っているのです。
燈真くんが剣をしまって、うなだれました。
諦めが早いのは良いことだとおもいますけど。
しかし次の瞬間には私たちは指定の椅子に座っていました。
もちろん武器は全て仕舞われてしまったようです。
「ケンカは余所でやりなさい。今やるべきことじゃないだろう?なぁ、ランデルク」
声が聞こえた瞬間、私達は目線を反らして精一杯の去勢を張りました。
…あ、これ、ヤバイやつです。
室内なのにおかしいですね。とても寒いです。
陛下の方から冷気が流れてきている気がするのは気のせいでしょうか??
陛下は氷の魔法でも使えるようになったのですかね???
え、現実逃避しすぎだと?
…あっはっは。この場面で逃避せずにいつするというのですか!
「……はい。失礼しました、陛下」
燈真くんが代表でおこられました。
まるで借りてきた猫のようです。
ここから説教地獄がはじまるのか、と覚悟を決めた時、陛下が小さくため息をつきました。
…助かった?助かった??
「……はぁ、まぁいい。では気を取り直して会議を始めようか。フランディー南防衛団長、海賊狩りの報告を」
助かったぁぁぁ!!
内心ガッツポーズをして報告するために椅子から立ち上がりました。
3人を見ると、安堵の表情を浮かべていました。
…いや、隠しましょうよ。バレバレですよ?
早く始めなければせっかく収まった?陛下の怒りが再熱してしまうかもしれないので、小さな深呼吸をして気持ちを入れ換えます。
「はい。リード海で頻発していた海賊の被害は―」
その後はなんの滞りもなく会議が進みました。
主に私の報告でしたが。
これでは眠れません。
ちらりと陛下を見ると船を漕いでいました。
もちろん、ヒロくんも―――ああ、こいつはテーブルに突っ伏してガッツリ寝てました。
浩暁・レオ・ナランヒル。
彼も「鬼才の寵臣」の1人で、唯一の国境がある東側を守っています。以前は隣国のワランデとの争いが絶えず起こっていましたがヒロくんと陛下の手腕によるところもあり、現在は平和そのものです。
――上辺では。
実際はどうかわかりません。ワランデの王は好戦的で国境を広めようといまでも様々な国と戦争をしているようですから。
「――フランディー南防衛団長ありがとう」
「いえ、私は任務を遂行したのみです」
寝てたくせに寝てたくせに!!!
と言いたくなる気持ちを押さえて陛下に頭を下げました。
「そういえば、もう少しで成人の儀だね。あの話は……決まったのか?」
「話…?…あぁ、はい。リューク・ナルンシスにしようと思います」
「そうか。…彼はよくやってくれるだろう」
「はい。今まで何度も助けられていましたから」
話が終わったと思い、着席します。
これで退屈な会議は終わりのはず。
部屋に戻って寝ましょう。やっぱり自分のベッドで寝るのが一番ですよね。
「ああ、そうだ。いい忘れていたんだけど」
と、陛下が思い出したように言い出しました。
「フランディーが成人したら君たちの存在を大々的に披露するというのは前から言っていたね?」
私を除いた3人は既に成人しています。
ふふ、ようやく燈真くんの「未成年いじり」から解放ですね!悔しがる姿が目に浮かびます。
………本人を見ると澄ました顔をしてましたが。
どうせ心のなかでは悔しがっているんでしょう!知ってるんですよーだ!!
現在の私たち「鬼才の寵臣」は陛下の私兵団のような扱いです。
しかし、4人の成人という節目で国民に披露し「あなた達を守るのはこの人たちだ」と言い表すことで正式に認めて貰おうというのは当初から言われていました。
それでも既に正式の場に出たりはしていたので知名度は低くありません。
――名前は出していなかったので「アタラクシア」というあだ名がついてしまいましたが。
ですが、一応正式な場で伝えるのが大切らしいのです。
「そこでだ、君たちの中にはリーダーがいないね?」
「はい。特段と必要な場面に出会いませんでしたから。それがなにか、陛下?」
燈真くんが代表して答えます。
何も異論はありません。私たちにリーダーなどいたところでまとまらないというのは本人たちが一番よくわかっています。
陛下はその答えを聞いてニヤリと笑うと、
「じゃあ、決めようか。不便だし」
「………なにをおっしゃっているのですか」
「ん?いや、御披露目するときにリーダーみたいのいた方がいいんじゃないかと思ってね」
……ふむ、なるほど。名前だけでもリーダーを作っておこうということですか?
そういえば、昨日も言われましたね。リーダーは誰なのかみたいなこと。
燈真くんの言う通り、不便は感じませんでしたし特に必要だとも思いません。実際、2年間はやってこれています。
ですが……
ガタッ
「必要であるのなら私、愛咲・ロゼ・フランディーが――」
ガタッ
「陛下。ここは私、浩暁・レオ・ナランヒルにお任せくだ――」
ガタッ
「私こそ適任だと思いませんか、陛下。ぜひ月妃芽・リド・ハルトデシアに――」
ガタッ
「既に私がそのような役目を果たしております。リーダーはやはり燈真・ヤト・ランデルクが―」
全員がそれぞれに立ち上がり、陛下に売り込みます。
『………………………………………』
ふふ、みんな考えることは同じなんですね。
いやぁ、欲にまみれている!!これだからもぅ!
ふふ、人のこといえないだろう、というツッコミはなしでお願いしますね?
「一番、剣の使い方が上手いのは私です」
「だが、事務仕事が一番早いのは俺だ」
「私は唯一、諜報の命を受けています」
「俺はお前らの尻拭いばっかだよ…」
うっ、ごめんなさい。ヒロくん。
ヒロくんが悲しそうにいいました。
で、でも好きで後始末を頼んでいる訳ではないのです。えっと、そのなんか、なりゆき?でそうなってしまうのです。
「そうなると思っていたよ。だから、手は打っておいた」
陛下は立ち上がり、窓際へ向かいました。
窓の外には城の敷地と、少し向こうに城下が見えます。
ここ、城下町マリオーネはルンナディアで最も発展している町です。国の北部に位置しており、高く険しい山脈が他の国の侵入を防ぎます。
北側は燈真くんの防衛域。
主に山賊狩りや政の手助けをしているようです。
「もうすぐ、ここマリオーネに闘技場ができる。目的は、国民の娯楽のためだ。強いもの同士で戦っているのを見て楽しんでもらう。もちろん、強いものが戦っているのを見て勉強にしてほしいという狙いもある」
城からのびる、マリオーネのメインストリートの少し外れたところにあった広い空き地に闘技場を建てようという計画が決定されたのは確か革命のすぐ後でした。
陛下が王座についた記念として建てようというものでしたね。
それから2年。ようやく完成するようです。
「そこの初の演武は君たちにしようと思う」
はじめの頃の方がいい文章かけてたとおもうなぁ、、、
………精進します。