白い髪
「あ、おかえり」
「ただいまぁ!ツキちゃんっ!」
「ただいま」
眩しさが消えて、目を開くと見覚えのある顔が待っていました。
月妃芽・リド・ハルトデシア。通称ツキちゃんです。ツキちゃんも私たちと同じ「鬼才の寵臣」の一人で、ノルン砦と呼ばれる砦があるルンナディアの西側を守っています。
「8時から、会議よ。急いで。ちなみにヒロも起きてないわ。死なない程度に起こしておいて」
「…わかった」
ツキちゃんはそれだけ伝えると、忙しそうに歩き去っていってしまいました。その後ろをお手伝いさんのような人が追いかけています。
「忙しそうですねぇ」
「…西側も国境を開くという噂を聞いた。もしそれが本当なら忙しいのも頷ける」
「そうなんですか。…噂で終わればいいですけどね」
「ああ。陛下の考えることはわからない。……俺は1回戻ってヒロを起こしてくる。会議には間に合うようにする」
「了解です」
そういって、ツキちゃんとは真逆の方へ歩いていってしまいました。
私は…どうしましょうかね。先に会議の準備でもしておきますか。
私たちが転移によってたどり着いたのはルンナディア王国の中枢、ルンナディア城。
その中の、まあ通用口みたいなところですね。
私からみて右手側―さっき燈真くんがいったほう―は私たちのプライベートスペースもある軍事棟が。左側―ツキちゃんがいったほう―には謁見の間や応接間などの、まぁ、本館みたいなところです。
今回の会議には軍事棟の部屋を使うと伝えられていたので、そちらに向かいます。
歩いているとすれ違う人たちがみな私を見て通路のはしによります。それは私が国の中でも重要な位置にいるから。…私としては特別扱いはやめてほしいのですけどね。
会議に使われる部屋の前につくと、扉が少し空いていました。中から人の気配がします。
「一番乗りしたかったのですが」
と、落ちるテンションを無理に戻し扉を開けます。呆れるほど大きい両開きの扉なので開けるのにさえ時間がかかりますから、少し空いていてよかった。おかげでちょっと開けやすいです。
入ってすぐ。
目の前には長いテーブル。
高級そうな白いテーブルには等間隔でこれまた高そうな椅子が並べてあります。
その中でももっとも上座に当たる位置――つまり、お誕生日席に一人の人影が。
…あそこに座れるのは一人だけです。
扉を閉じて膝まずきます。長いテーブルを挟んで向こうなので見えなくなったかも知れませんが気にすることはないはずです。
「愛咲・ロゼ・フランディー、任務完了の上帰城致しました」
人影は、突っ伏していた頭をあげると眠そうな目で私を見たようです。
「はい。お疲れさまでした。僕は会議が始まるまで寝ることにします。おやすみなさい」
正輝・サク・ユースランシア。
今から2年前――彼がまだ18のとき―にルンナディア王国の国王として君臨。その際に荒れ果てた国家を立て直し、かつての弱国を他国に恐れられるほどの強国に作り替えた賢王。
そして、私の幼馴染みです。
「寝ないでください、陛下。……はぁ。寝るなら会議中にしてくださいっ!」
窓から入るすきま風が、彼の白い髪を揺らします。白い髪は、奇跡のシルシ。
それは彼が魔法を使えることを意味します。