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女々しくて、棚ドン


図書館はメインストリートを挟んで闘技場のほぼ真反対の所にあります。

メインストリートに面している訳ではないのでそこまで人で賑わっている訳ではないようでした。


ルンナディア王立図書館は国で最も古い建物です。年期は入っているものの、それが良い味となっていて観光スポットの1つにもなっているようです。


中に入ると一気に静寂が私を包みました。外とは全くの別世界。

中は1階から最上階である4階まで吹き抜けになっています。


「さすがに少ないですね」

お祭り?が近づいている時に図書館に来る人は少ないのでしょう。いつもそこそこ人がいる図書館ですが、今日はほとんど人の姿は見えません。

司書さんに軽くお辞儀をして、目的の階へ向かいます。

石の階段を上って2階へ。

2階は私世代の人たちが好むような軽い読み物がおいてあります。

普段から利用者が多い階です。

まぁ、そんな階も例に違わず人の気配はなし。


ゆっくり選べるからいいんですけどね?


特に目的の本もなかった私は端っこからゆっくりと本棚を見ていきます。


エリゼの花は騎士と町娘だったので…

おとぎ話みたいな王子様が出てくるようなものにしますか。


…もうすぐ成人だというのになんていう乙女趣味なのでしょうね。でも、読みたいものを読むんです!!


本棚見て歩く途中に何冊か気になった本を取り、また次の棚へ…を繰り返していくうちに手元には6冊ほどの本がありました。


さすがに多いですかね。

読むのは好きですが、時間がないのです。

なんせ私、忙しいので!……効率が悪いから。


本棚を物色するのをやめて閲覧用のテーブルに向かいます。

すると、

「…っ!?」

バサバサと手元にあった本が床に落ちてしまいました。

しかし、それを拾うことはできません。

突然後ろから腕を引っ張られて近くの本棚に押し付けられました。

そうです。

俗にいう壁ドンです。


そのまま私は少し見上げた位置にある深青の瞳に捕らえられます。


「…突然どうしたのですか、燈真くん。しかも制服じゃないですか。誰と戦う気でいるのです」


…こういう乙女が好きなシチュエーションはなんでか大体燈真くんなんですよね。


燈真くんは仕事の時に着る制服を纏っていました。

以前も話しましたが、私たちはオンリーワンの制服です。ベースは黒で左胸の所にルンナディアの紋章を。そこにそれぞれの戦い方や守る場所にあった付属品がついています。


燈真君は私たち四人の中でも最もベーシックなものになっています。服に所々派手にならない程度の青い刺繍が入っていて、北側を守る都合上トレンチコートとブーツを身に付けています。

全体的に黒い。暑そう。

だってトレンチコートをきてブーツはいて、頭には(すぐになくすから戦うときには外してくれと部下に言われておきながらいつもそれをわすれてあとで迷惑をかけると噂の)制帽、それに黒い手袋!!

しかも、襟で口元を隠しているので近づかないと顔が見えない!


なんなんですか、不審者ですか。というかなんでその格好なんですか。


と心の中で批判する暇があるほどに先ほどの私の質問以降から沈黙が続いていました。


「あの?…燈真くんがなんでここにいるのかとかなんでその服なのかとかそういうのはいいので、とりあえず本を拾っていいですか」


自分の本ならまだしも、図書館の本なので何かあっては困る。そう考えて落ちた本を拾おうとしゃがみこんで――

「愛咲」

「…はい」

できませんでしたよ。

しゃがみこもうとした瞬間に片手だった壁ドンが両手になってよりいっそう動きが制限されたのですから。

それによって縮まる燈真くんとの距離。

え、まって、私なにされるの?


私の名前を呼んでからまた何も言わなくなった燈真くんはじっと私の事を見てきます。

なんだかよくわかりませんが、目をそらしたら負けですね!?いいでしょう、受けてたちます。


そのまま至近距離で見つめあっていると、先に動き出したのは燈真くんでした。

「…俺は男なんだが」

「は?…存じていますよ?まさか私と同じ女性だとは思いません。燈真くんが男性だからこそこんなに体型差があるんじゃないですか。だから私は逃げられない。そうでしょう?」

「…お前なら逃げられるんじゃないのか」

「それは私の体術の腕を知っておきながらの発言ですか」

「すまない」


そういうとまた黙りこんでしまいました。

もう!なんなんですか、女々しい。

「もう、いい加減に」

「相手は誰だ」

「……え?相手?」

待ちきれなくなった私は意味がないとしりながらも燈真くんを押し返そうと両手を動かしました。

しかし、その言葉によって私の手はゆく場所を失いその場で止まってしまいます。


「デートの相手。誰だ」

「え?デート?………あ、ああ。フィーナです」

デートなんてした記憶がありませんでしたが、今朝自ら面白い半分で言った発言を思いだしました。

「…本当か」

「本当ですよ。それだけですか?いい加減にしてください」

「…………っはぁぁぁ」

「むっ、なんですかそのため息」

燈真くんは大きなため息をつくと私の肩に額をくっつけます。

「ちょ、燈真くん!?何を…」

「…なんでもない」

さすがに照れます!!

燈真くんの胸を押して離そうとしますが、非力な私ではなんの意味もありません。

なんでもないならなんで離れてくれないのです。

「…………よかった」

「は?……もしかして燈真くんは私にはデートをするような男性もいないとバカにしているのですか」

「実際いないだろう」

「うっ」

図星です。

なぜだか皆さん私から離れていくのです。団員の皆さんは私を妹のように見ている節があるのでそもそもデートなど考えたこともありません。


あっ!いるじゃないですか、私にも!!

マサくんとヒロくん。もちろん燈真くんも。

「残念!!いるんですよ!」

そう自慢げに伝えた瞬間、あれ、なんだか寒いですね。


「………言ってみろ。誰だ。処刑する」

いやいや、何をいってるんです。

寵臣が主君を処刑などいけませんよ。

「いいません!!燈真くんが殺されちゃいます」

国家反逆罪で!!

「……俺より強いのか、そいつは…」

そりゃつよいでしょう。

向こうは魔法を使うのですよ?それに権力も上です。ヒロくんはどうだか知りませんが。


それから沈黙が流れ、私の肩に置いてある額をグリグリと押し付けてきます。

いたい、いたい。

「演武で」

「はい?」

「演武で俺が優勝したらそいつと出掛けるのをやめろ。俺とだけにすること。わかったな」

そう早口でいうと、私から離れて落ちていた本を拾い渡してきました。

「いいな?」

「はあ」

そのまま私に背を向けて去っていってしまいました。


ん?

いつの間にかすごいことを約束されてませんか?これ。

燈真くんとだけって……独占?

私を独占しても無駄ですよ……はあ。


そこでようやく私は燈真くんが誤解をしていることに気づいたのですから全く使えませんね。


「…昔から本当に不器用なんですから」


そのまま借りる本を選別するために閲覧机に向かいました。


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