海賊一掃作戦
バトルシーンあり。
血の描写はありませんが、気になる人は………えっと、ごめんなさい?
はじめまして。
王国特別精鋭軍南部防衛団団長の、愛咲・ロゼ・フランディーと申します。
今の現状を説明することにしましょう。
一言で言うと、海賊狩り中です。
私の率いる南部防衛団はその名の通り、ここ「永世中立国ルンナディア」の南部――リード海のある地方を守っています。
ルンナディアは北側を高い山脈が囲っていて、東側には砦、西側に隣国との国境があります。
隣国とは仲が悪いため、リード海での貿易がルンナディア唯一の他国との繋がりなのです。
そこを防衛してます。
私、すごい。
そうなると、品物を横取りしようとする海賊が出るのは当然のことでしょう。
前々から海賊被害は出ていましたが、国の判断はステイ。――あ、いや、国がなんの対策もしなかったと言う訳ではありませんよ?ちまちまと出てくる度に狩りをしているようでは体力的にも、資金的にも限界があります。ですから、泳がせておいてまとめて「討伐」という指示が出たのです。討伐…って言い方も少し違います。
私は剣を鞘から抜きませんから。
そして今日、やっと国の許可がおりて今に至ります。
「フランディー団長!何しているのですか!!戦場でボーッとするなど殺してくれと言っているようなものですよ!?」
その声で私は現実に引き戻されました。
――ああ、乗り込んだんでしたっけ。
私と部下を囲むように沢山の海賊(笑)が臨戦態勢で立っています。立っているくらいなら来ればいいものを。律儀ですね。
…というか、
「私の事は愛咲と呼べと何度も言っているではないですか」
部下と仲良くなりたいのが上司の思いです。
フランディー団長などと呼ばれるのはあまり好きではないのです。一歩引かれるのは心苦しいといいますか。共に戦う身で差別などよろしくありません。……正直な話、団長だなんてダサいですよね。乙女として気に入らないのです。
「ちょ、フランディー団長!?今そんな話をしている場合ではありませんよ!?」
もう。そのような呼び方をするなと言っているのに。でも、部下の言うことは間違えてはいません。大人しく従うことにします。
「ええ、わかっています。―――後でじっくりとお話しましょう。わかりましたね?」
そう言うと、部下は軽く身震いして弱々しく返事をしました。
「おい!なんの話してるんだかしんねェがよォ!!女一人と弱そうなガキ共だけで乗り込んでくるたァ俺らもなめられてんのかァ?」
こちらの話が一段落したのを見計らってか、海賊(笑)の1人が話しかけてきました。
「むっ、酷いですね。女性差別ですか?ルンナディアでは女性差別の風習はほとんどなくなったものだと思っていたのですが…あっ、皆さんはもしかしてルンナディア民ではないのですか?隣国ワランデでは女性差別は未だになくなっていないと聞いたことがあります」
「フランディー団長!!いま世間話している暇はありませんて!!!」
世間話とはなんです。しかもまたそのような呼び方をする。何度言っても直してくれません。私は部下に嫌われているのでしょうか。
「おい!なめてんのか!?女!それとも自らエサになりにきたっていうのか?!」
「おー??よーくみるといい女じゃねぇか!」
「いい根性した女だ。だがなぁ、優しくできるとは限らねぇぜ!ガハハハハ!」
お言葉ですが、エサになる気など毛頭ありません。いい女と呼ばれるのはとても嬉しいのですが「よくみると」とはなんです?一目見てもいい女のはずですよ?
…それとも、海賊(笑)とは認識が違うのでしょうか。南を防衛するものとして海賊(笑)との認識の共有は必要かと思われます。
「……あなたのその眼帯、カッコいいですね。私に譲ってはいただけないでしょうか」
海賊=眼帯。
つまり、眼帯をすれば海賊(笑)との認識の共有がなされるのではないでしょうか!
という考えから、目についた1人の海賊(笑)に眼帯を譲ってもらうよう頼んでみました。
「……は?」
「……はぁぁ??」
前者がその海賊のもので、後者が部下のものです。
「な、なにいってんだ女!!やるわけないだろ!」
「そうですよ!1人でなにを考えてなぜそのような考えに至ったのかわかりませんが!今はそんな場合じゃないですってば!」
………怒られました。
でも、その眼帯がないと認識の共有が……。
そこまで考えてハッとしました。そうです。簡単なことです。
「だったら勝手に戴くまでです」
盗ればいいのです。
彼らは沢山のものを盗んでいたのです。ですから今私が盗ってもなんの問題もありませんからね。
そうと決まればやることは一つ。
「――ご覚悟くださぁい?」
「ひぃっ!」
部下が情けない声を出しました。まったく、だからあなたは弱そうな、などと言われるのですよ?
そして、一迅の風。
―ガキィン!!
「………は、え?」
目の前に写るのは先ほどの眼帯の男の驚いた顔。
「…なぜ、驚くのですか?いただく、ともうしたはずですよぉ?」
「ひ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
顔を真っ青に染めながら剣を振り回します。
私も応戦します。
それを合図に、突っ立っていた海賊たちが私と部下に襲いかかってきます。
……ふむ。この人数を相手に私と部下の二人だけでは少し不利ですかね?
回収班が早めに来てくれればよいのですが。
「リューク!!そちらは大丈夫ですか?ヘルプは必要ですか?」
リュークとは部下の名前です。
応戦しながら私が少し離れたところにいる彼に尋ねると、
「ぐっ、、くぅっ、だ、大丈夫、だと思いたいですっっ!」
―――ああ、ダメですね。これは。
ならばこの辺りのは早めに片付けるとしましょうか。
「せぇー、、のっ!」
掛け声と共に一閃。
次の瞬間には5、6人の男が膝から崩れ落ちます。
それを片目に次々と男を斬っていきます。
ああ、本当に斬れてる訳ではありません。俗に言う峰打ちです。いや、そもそも鞘から出していないので峰打ちというのもあまり適していないのですが。
右から、左から、前から、後ろから。
1人残さず地に落とします。
そして、残ったのは眼帯の男だけ。
「あ、あ、が、眼帯なら、やるから、い、命だけは……!!!」
腰が抜けたのかしゃがみこんでしまった男に一歩一歩近づきます。
私が近づくと、一歩ずつ後退し、また近づくと後退し………それをくりかえしていくうちに眼帯の男は船の端まで来てしまいました。
「な、なぁ、嬢ちゃん。な?眼帯、欲しがってただろ?やるから!やるからさ!命だけは……」
眼帯の男はなお、命乞いをします。
鞘からでていないので、死なないと言うのに。
あ、鞘が銀色だから勘違いしているのですかね?
男の前に着くと、
「ひぃぃっっ」
情けない声を出して私を見上げます。
「……もう、逃げられませんねぇ??」
そういって剣を振りかざしました。
見事に男は倒れ、気を失ったようです。
……死んでは、ないですよね??
脈を見て、生きているか確認します。
「生きてますね!」
よかったです。
男の顔から眼帯を外し、つけます。
これでグレードアップです。
では、部下を助けにいきましょうか。
そう思って立ち上がると、
「……人の船でよくもまぁ暴れてくれたなぁ。嬢ちゃん」
背中に剣の切っ先の嫌な感触。
あらら。背中をとられちゃいましたか。
「暴れてはいないですよ。お掃除してただけです。それよりも退いていただけません?部下が危ないんです」
「自分より部下の心配か。お前は危機感がないのか?」
「危機感くらいありますよ!!なんでそんなことを言うんですか!……でも、この状況のどこに危機感を覚える必要があるんですか?」
肩越しに男を見ます。
……右目に大きな傷。
この船の船長、ハンガー船長です。
「ははは!!!こりゃ愉快だ!背後をとられ、完璧に不利な状況でも危機感を覚える必要がないというか!!あっぱれだ。どうだ?俺の船に乗らないか?特別待遇するぜ?」
「生憎ですが、私は海賊になる気などありません。もちろん、エサになる気も」
「へへっ、そうかい。残念だ」
「はい。ですが、もしもあなたが私に勝てると言うのなら考えてもいいですよ?」
「……腕に自信があるんだな?」
「ええ。もちろんです。……でなければ団長になどなれませんからねぇ!」
そういって振り向き様に剣を振ります。
ガキィン!!
金属同士がぶつかり合う音。
「おお。危なかった」
「よくも反応できましたねぇ。誉めて差し上げましょう!」
「ははは!!海賊なめんのもいい加減にしろよクソ女ァァァァ!!」
ハンガー船長は私の剣を力づくではねとばします。
その反動を同時に後ろに下がることで減らし、再び構えます。
「私の番ですねぇ」
言い終わるが早いか、ハンガー船長に斬り込みます。しかし、ギリギリながらもそれを後退することで避け続けるハンガー船長。
しかし、その顔に余裕はありません。
………キリがありませんね。
私は不意に剣を手放します。
重力に引かれるままに落ちる私の剣にハンガー船長は釘付けに。
その間に私は空いている方の手で太股にある銃を取りだし、
バンッッ!!
「っぁ!……ぐぅぅっ、、」
ハンガー船長の腕を撃ちました。
突然の痛撃にどうしようもないハンガー船長はそのまま後ろに倒れました。
床に落ちる直前だった剣を拾い、ハンガー船長に馬乗りになって首もとに切っ先を当てます。
「ちっ、はじめからまともにやりあう気はなかったってことか」
「はい。これは決闘ではありませんし、私はあなた方を討伐するという目的の元動いていました。………その為には手段は問いません」
「なるほどな。………殺すのか?」
「いいえ。生きたまま、本部に差し出します。……抵抗されたら困るので、気絶させますが」
「はっ、なるほどな。………嬢ちゃんとはもう会わねぇだろうが、名前、聞かせてくれや」
「………名前ですか?ふふ。…名乗るもののもんじゃない…と言いたいのですが名前を告げたくてウズウズしてるので、言っちゃいます」
そういうと、ハンガー船長は目を閉じました。
「ルンナディア王国国王の『鬼才の寵臣』がひとり、愛咲・ロゼ・フランディーともうします。『あさき』とお呼び下さい」
そういうと、口のなかでなにかモゴモゴと言い、そして何かに思い至ったかのようにはっとして言いました。
「………鬼才の……ふっ、そりゃ勝てねぇ。お前さんが自信があるっていったのも、危機感を感じないっていったのも納得だ。…『アタラクシア』ならな」
お前さん……ひどいですね。愛咲とお呼び下さいと言ったのに。
というか!
「アタラクシアって呼ばないで下さいよ…本人達は認めてないんです!」
「いいじゃねぇか。カッコいいだろうが。『心の置き所』だったか?」
「そうですよ!私たちみたいのに心なんて預けちゃダメなんです」
「こまけぇことは気にすんな。そろそろ助けにいかねぇと部下が死ぬぜ?」
「気にするなと言われても…あ、リューク!忘れてました!えっと、ハンガーさん。お元気で!」
そういってハンガー船長の上から降ります。
………止めはいらないですね。
ちょうどその時、待機命令を出していた回収班が来たので身柄を受け渡し、リュークのもとへ向かいました。
「ははっ!相変わらず面白い嬢ちゃんだ!罪人にお元気でって言うかよ、普通!!!――――お前こそ元気でな!愛咲!!」
リュークのもとへ走る私の背中に、ハンガー船長の声が。
ふふっ。呼んでくれましたね!
「はい!!」
返事をして、リュークの回りの海賊を一掃しました。
「大丈夫でしたか?リューク」
「は、はい。……って、あ、あ、あの!!!」
回収班が気絶した海賊を回収しているあいだ、一掃してすぐに倒れてしまったリュークのもとへ向かいます。
「あの!ひざ、ひ、ひ、ひ、ひざまくっ」
「痛いですか?…鎧はつけてないので痛くないはずですが…それにしても、ハンガーさんいい人でしたねぇ。あれで海賊なんてやってるんですから人間わかりませんねぇ」
「お、おろしてください!大丈夫です!そのあとお話しましょう!ね?!フランディー団長!!」
真っ赤な顔で訴えますが、疲れているのか体は動いていません。
まあ、動いていたところで下ろしませんけどね!
「リューク!私のことは……」
「愛咲」
愛咲と呼べ、と言う前に誰かに名前を呼ばれました。
……誰か、なんてわかっているんですけどね?
「ああ…………処刑だ……」
リュークがさっきとは一転、真っ青な顔で言います。表情豊かですね。
「愛咲。いつまでそうしている」
「いつまででしょう?リュークが動けるようになるまでですかね?」
「…………ナルンシス」
「は、はいいいっ!動けます!退きます!おつかれさまでした!!!」
ナルンシス、とはリュークの名前です。
リューク・ナルンシス。たしか、18でしたか?
私とひとつしか変わらないのにしっかりした子です。
じゃなくて!
自分のことながら、こういう他のことに思考が揺らいでしまう癖を早く直したいものです。
「リューク!!あなたまだケガ……」
「愛咲。………帰るぞ」
思い出して呼びかけるももうすでに遠くの方にいってしまいました。
左側に立つ彼を見上げ、初めて視界にいれます。
目に入ったのは想像通りの王国特別精鋭軍の制服。
しかし私と同様、多少違った作りになっていますが。
遠くから見てもわかるように、団長クラスは少しデザインがカッコいいのです。それに、団長クラスでも一人一人デザインがちがうので(ベースが黒と言うのにかわりはありませんが)オンリーワンなのです!
日に当たり若干青く光る髪をもつ男の人は知り合いには一人しかいません。
「お迎えを頼んだ記憶はありませんっっ!それに、リュークはまだ動いてはいけなかった。そんなに私のことが嫌いですかっ!?燈真・ヤト・ランデルク!!!」
そういうと、彼は私の前にしゃがみこみ私のあごを指であげました。視界に入ったのはきれいな黒青の宝石。
俗に言う顎クイです。
あれですね、萌えるか萌えないかはシチュエーションよりも相手によるのですね。
「…なんです」
「お前の言い方に合わせると、俺の名前は燈真・ヤト・ランデルク。―――とうま、と呼べ」
「呼び方にこだわるんですか?ちっちゃい」
ニヤリと笑って言いました。
どこから見てたんですか。見てたんなら加勢に入ってくれても………いや。だめですね。貸しなど作りたくありません。
私が反論するとこめかみにピキッとしわが入りました。そして、口許に浮かんでいた笑みを消します。
「その言葉そのまま返すぞ?」
「う…それは辛い!」
「ならば大人しく言うことだ」
あー、めんどくさい。
こうなるとキリがありません。わかっているくせに。
「…………燈真くん」
「…団員達の前でそんなにキスしてほしいか?」
「何をバカなことを。そんなものをするくらいなら首を跳ねて自決します」
そばにおいてあった愛剣に手をやり、脅します。
「…………かわいくねぇ」
そういうと、スッと立ち上がりました。
反論しながら私も立ち上がります。
立ち上がると、身長の差が歴然としてちょっとショックを受けます。
私が155㎝とちょっと。
燈真くんが180㎝くらい。
約30㎝の差は大きいです。
昔は同じくらいだったのに……
「オメメ腐ってんじゃないですか?」
「ちっ」
「あっ!舌打ちしましたね?!いーけないんだぁー!」
「……ガキ」
「なっ、ひとつしか違わないのに!」
「…なにか言ったか?未成年」
「あと2週間で成人しますぅー!」
「よかったな」
そういうと右手で私の頭をぐちゃぐちゃにします。
絶対に思ってないくせに!!!
「うわぁぁぁぁぁ!ちょ。やめて!ボサボサになる!」
「おまえは本当に落ち着きがないな」
「ひどいっ!」
だれのせいだと思ってるんですか!!
思う存分ボサボサにされたあと、海賊船を降りて私の部下が用意した船に乗り込みました。
その時すれ違った部下たちが、
「……ランデルク団長は……あれだな?」
「ああ。あれだな」
と会話していたので、
「あれ?あれとはなんです?……燈真くんの弱味ですか?!ぜひ教えて―――」
「駄弁ってる暇があるなら持ち場に戻れ。今後一切無駄話はするな。首がとぶぞ」
彼らに弱味を教えてもらおうと意気込んだときに、背後から冷気が。……私の邪魔ばっかり!
「す、すみません!戻ります!!」
「ご無礼をおかけしました!」
燈真くんが脅すと、逃げるように走り去ってしまいました。
「……燈真くん?なにか言うことは?」
「特にない」
このわからず屋!!頑固者!ひとでなし!!
心のなかで貶すと、
「ほう。なんだ、文句でもあるのか?言ってみろ愛咲・ロゼ・フランディー」
「ダイジョブデース。ナニモアリマセーン」
そう誤魔化すと、ふたたび舌打ちをして歩き出しました。ふと、後ろを歩いていた私に振り向き、
「愛咲」
「はい?」
「俺の名前を呼べ」
「燈真くん」
「………もう一回」
「燈真くん」
そういうと諦めたように、また私の頭をぐちゃぐちゃにします。
「頑固」
そう、一言言うとまた、前を見て歩き出します。
背中を負い、歩き始めました。
心のなかで、燈真くんに謝ります。
直接言うと怒られるからです。
ごめんね。
私はきっと、いつになっても呼び捨てにはできないよ。
それが、自分の犯した罪を忘れないためのルールなのですから。