暖炉
雪月の29日にマリオーネ闘技場で「鬼才の寵臣」が演武を行うという情報が直接、国王の口から発表されました。
雪月は新年が始まって2番目の月。
まだ雪が降る日も多く、暖炉の前から離れたくない時期です。
夜なんかは特に。
「あー、もう…なんでですか」
「愛咲。諦めなさい」
「負けるのが怖いなら尻尾巻いて逃げ出せばいいだろ」
「そんなことするはずないじゃないですか!」
「はは、だよなー。まぁ、たしかに驚いた」
それは私達も例外ではなく。
軍事棟の最上階にある私達「5人」のプライベートスペースにある暖炉の前で温かいスープを飲みながらお話し中です。
ここに帰ってくるといつの間にか入っていた体の力が抜けるのか、皆、素が出ています。
…といってもそんなに大幅には変わりません。特に私は。
私とツキちゃんは暖炉の前で二人くっついて毛布にくるまっています。
燈真くんはその後ろのソファーに寝ころがって本を読んでいるようです。
ちらりと振り返り、燈真くんを見ました。
…え、なんでそんなに薄着なんですか。
私なんか何枚も着こんで、ツキちゃんとくっついて毛布にくるまってやっと温かい位なのに。
ああ、あれですか。肌がバカだから寒さを感じないんですね。納得です。
ゴッ
「痛いっ!」
「…なんか、ばかにされた気がした」
「……暴力反対です」
ふっ、勘が鋭いですね。
私が心の中でバカにしたのに気付いたのか本の背表紙で頭を殴ってきました。
「それにしても、いいのかね?」
「なにがだ」
「俺らの戦うところを見せちゃって。対策を練られる可能性があがるだろう」
「あー、たしかにそうね。その考えにまでは至らなかったわ」
燈真くんのさらに後ろからヒロくんの声が聞こえてきました。おそらく、ソファーの後ろの椅子に座っているのでしょう。
暖炉はいつもご飯を食べる…そうですね、ダイニングみたいな部屋にしかありません。
暖炉の前にふわふわのクッション(私が選びました!)を置き、ソファーをおいて冬場専用の溜まり場になるのです。
寒いうちは、部屋にいるよりもここにいた方が暖かいので眠るまで暖炉の前で話すことが習慣になっています。
「ヒロくんはどこにいるんですか?」
「んー、椅子に座ってる。すげぇ寒い。テーブル冷たい」
でしょうね。
暖炉から離れているのですから。どうせ燈真くんと同じような服装なのでしょう。
テーブルが冷たいと言っていることから、椅子に座ってテーブルに突っ伏していることがわかりました。まぁ、だからといって暖炉の前を譲る気はありませんが。
「対策うんぬんはきっとあいつも考えてるんじゃないか?じゃなきゃこんなことに巻き込まれてたまるか」
「そうねー、まぁ、そろそろ来ると思うから聞いてみましょうよ」
私とツキちゃんがうとうとしだした頃、
「寒いっっっ!暖炉!スープ!!!」
今いる部屋の扉が勢いよく開いて、そう叫びながら人が入ってきました。
「お帰り」
「暖炉はいま占領中です」
「自分で…はぁ、待ってろ。いまスープ持ってくる」
「まさきー、聞きたいことがあるんだけど」
「わかった。答える。だから早く僕を温めて」
「えー、どうしましょうか」
「愛咲、ツキ!そんなこと言わないで僕も入れて」
「仕方ないわね…ほら、おいで」
「え、間!?…まぁいいや。燈真ー、スープ早くぅ」
「うるせぇ、黙れ」
「僕の心はブリザード」
「寒さで壊れてるぞ、こいつ」
ぶるぶる震えながら私とツキちゃんの間に入ってきたのは、白い髪の青年。このプライベートスペースを使う「5人」のうちの1人。
真輝・サク・ユースランシア。
説明するまでもないかと思いますが、彼は私達の唯一の上司であり、ここルンナディアの国王です。
さまざまな縁があり幼い頃から私達5人は共に歩んできました。
「真輝。ほら」
「ありがとう。…あぁー、あったかぁー。」
燈真くんがマサくんのカップにスープをよそって渡しました。それをマサくんは両手で受けとりました。そして、ひとくち飲むと
「ふぃー、温まるぅ。」
普段―といってもこれが素なのですが―の姿からは想像できないくらい気のぬけた姿です。
………絶対に国民には見せられません。
国王としての威厳はいずこ?
きりのいい10話でようやく国王の名前が出ましたね!!
いやぁ、よかった!可愛がってやってください。
次の更新では、人物紹介をしようと思っています。
……予定は変更するかもですけど。




