Phase4-1
「もう時間がない……頼むっ」
「…………」
「リヒャルトが危ないんだ!頼む!この通りだ!!」
「………」
「待ってくれ!話をっ」
「聞く気もない」
「お前ならどうにか出来るだろう!おれは……おれは……っ」
「………………」
「頼む……アイギル……」
「………………」
「……関係ない」
Loading4
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翌日、お城の大広間でジークフリート王子のお妃選びのための舞踏会が盛大に催された。
ジークフリートは王妃と並んで玉座についた。
国中の主だった者は皆招待されており、お妃候補として外国の姫君が幾人か来ていた。
お妃候補たちは王妃に請われて可憐なダンスを披露した。みなジークフリートの気を惹こうとして精一杯の愛嬌を振りまいていた。
その姿が自分達のリーダーの気を引こうと必死になって己をアピールしている女性プレイヤーの姿と重なり、女が自然と口元を歪める。
「ねぇ、大帝もあんな風にもっと他の人に対し露骨に態度をとった方が分かりやすいと思わない?」
その皮肉が存分に含まれている棘のある言葉に、隣に立つ女は思わず眉をひそめ、思案する。
果たして自分が知っている目の前の女性は、こんな風に相手を見下すような言動をするような人だっただろうか。
大帝が床に臥すようになってから自分達のチームを包む空気が変わったのは実感していた。
それだけ精神的に大きな役目を務めていた、自分達の“象徴”がいなくなってしまったのだ、無理もないと最初はそう思っていたし、特にその1番の側近と自他ともに認めるところであるこの女性と、もう1人の男性はそれが顕著であっても仕方ないと思っていた。
けれど、この変貌はどこか目に余る。
少し前まで笑っていた新緑を思わせる笑顔は、周りの女性と同じようにどこかいびつに歪んで見える。
それにこのクエストが何にどう必要なのか、その説明も十分にもらっていない。
ただ『戦力が必要』であり、『信頼のおけるメンバーではないと受けられない』そう言われて自分に声がかかったと、無理に納得させようとしていた。
確かにメンバー的に少数である自分達のチームから、さらにある程度の戦闘に耐えられる“女性”に限定すれば、声をかけられるのは当然と言えば当然の流れである。
しかし、“彼女”はどうなんだろうか。
信長の話によれば戦闘力は皆無、ただ不思議な力があり、今までかなり高難易度のクエストをいくつかクリアしているところは知っている。
周りにいる仲間にも恵まれているのか、総合的な戦力としてはある程度評価に値するのかもしれない。
あくまで、『総合的』であるが。
彼女1人にそこまでの価値があるのか、自分は知らない。
けれど一緒にクエストをやった彼女であればその辺りの詳しいことも知っているのだろうと、あえてそれに触れることはしないでいた。
だが、どうしてもおかしい。
クエストの1つ目、それは結果的に彼女の手をわずらわせることなくクリアとなってしまったが、あの場で彼女はただ怯えているだけだった。
それが演技でも何でもないのは彼女の目を見ればすぐにわかった。彼女はそう“奇麗過ぎる”。
まるで今まで汚いものを見たことがないと、その瞳はただ綺麗な世界だけを映して生きてきたと訴えられてきたようだった。
その代わりに例えば誰かがその汚い部分を受け入れてきたと言われても何ら不思議はない程、浮世離れたその存在は初めて見た。
そんな人間など、いるはずはないのに。
目の前の悲劇に嘆くかのようにその瞳を曇らせることはあっても、それだけだ。
それが何とも奇妙で不思議な感じはしたが、さらに不思議なことにそのことに嫌悪は抱かない。
せいぜい感じる違和感と、奇異感はあれど、それ以上彼女に不快な感情を抱きようはなかった。
その彼女が武器をもって相手を傷つけることも想像しにくい。
その甘い考えはこの世界に淘汰されてしまいそうだが、それを補うために用意されていたかと言わんばかりに、周りには手練れが揃う。
それすらも世界の意思であるかのように。
そこまで考えてそれはいささか行き過ぎた考えだと思ったが、それにしても彼女は戦う意思は見せなかった。少なくともあの場ではそれは間違いない。
戦力としてまるでアテにならない彼女を、そして部外者である彼女をこのクエストに半ば強制的に招き入れる理由、結局その答えが掴めず、そしてその先にある目の前のチームメイトの意図も、掴めない。
「誰とも結婚しないって……そうやってオディールに騙される……バカだよねほんと」
「メアリー……」
それは本当にこの物語の話なのか、それとも重ねているのか。
どちらとも取れるその言葉に、うまく返せる言葉は見つからずにいた。