Phase3-2
― side guardian ―
「それで……姫はなんて?」
「答え聞く前に帰ってきちゃった。でも多分来てくれると思う」
細身のフレームをかけた女性が申し訳なさそうにそう答えると、それを聞いていた大柄の男性がその女性以上に申し訳なさそうに顔をしかめた。
出来れば身内の問題であったため、他人を巻き込むことなどしたくなかった。いや、別の言葉にすれば『信用出来ない他人など入れられるようなものではない』とも言い変えることは出来る。
やっと方法を掴んだ。ただその道を進むにはいささか問題も付き纏ってきた。
日付はちょうど明日。
『蛇は悲しみに暮れ、男子禁制の場にて悲しみを知らぬ者に同じ悲しみを与えるべく舞い降りる』
それを予言したのは“LARK”と呼ばれているこの世界の知識の源泉。
底が読めないという点では確かにこの世界の根幹に近い存在であると言えるが、過去に1度しか会ったことがない自分達の名前や今の状況を間近でみているかのようにつらつらと答える姿は、もはや不気味としかいいようがないと思ったのが2人の共通の印象であった。
世界はどんな些細なことも把握している。まるでそう言わんとせんばかりに。
アイテムコードを譲渡されなくてはいけなくなったとき、男は今にも泣きそうな表情でその相手を見た。
その相手は今や、あの優しい瞳で見つめ返してくれることは出来ない。
早くしないと、そう気持ちが焦ってしまうのは仕方のないこと。
ただ手当たり次第というわけにもいかない。
状況が状況なだけにデリケートな問題であったし、下手にこのことが漏れてしまえばやっとの思いで保っていた均衡が崩れるのは明らかであった。
こういうときこそ実働として動ける“女性プレイヤー”が少ない自分達のチーム構成を悔やんだことはない。
確かにチーム運営として長けている女性プレイヤーがいることはいるが、ある程度の危険を孕んだクエストで率先して動くことが出来るもの・・・となるとぐっと絞られてしまう。
それを考えて考え抜いた末、ある1人の人物に白羽の矢が立った。
彼女であれば秘密は秘密のまま守ってくれるし、土壇場で私利私欲に走ることも可能性的に低い。
そして何より彼女の力は、役に立つ。
“ある”抑制力として。
残念ながら彼女の安全性までは確保出来ないが、それも仕方のないこと。
これは緊急事態であって、緊急事態であるのならある程度の犠牲は覚悟しなくてはいけない事なのだから。
そこまで考えた上で彼女に選択拒否の状況を追い込んでしまった、人知れず世界の力によって思考を毒されてしまったことに、その案を考え、提案した女性はまだ気付けずにいた。
― side MUD HUNTER ―
「LiLiCo」
そう呼ばれた相手はその呼んだ相手が声でわかり、うれしそうにその声の元に駆け寄る。
「なんや、うれしそうやな『LiLiCo』」
その声の持ち主の近くにもたれかかるようにして携帯ゲームで遊んでいた別の声が、同じような声色で相手を呼び止めるが、それを聞いていないふりをする。
「なぁに?虎」
ふわふわの黒いゴシックスカートは彼女のお気に入りだ。黒はいい、血で汚れても大してわからないし、それにゴシックスカートと言えば黒が1番よく似合う。
それをわからないやつは死ねばいいし、制服なんてくだらないものが1番だとぬかしている同世代のやつらもくだらない。
わかるやつだけ傍にいればいいし、わからないやつは死んでしまえばいい。そうやって彼女は生きていくために“選別”し、この居場所を手に入れた。
ここはとても居心地がいい。何かと張り合って競い合ってくれる“チームメイト”もいる、自分と価値観が似ていて一緒に戦ってくれる“魂の双子”もいる、それに・・・
「ちょっと頼まれてくれへん?」
「いいよぉ。虎のお願いはあたしの『絶対』だもん」
「明日……」
この世界で明日の確約など出来ない、それを知っているこの世界で1番大事な存在から、1番聞きたくない言葉を放たれた。
瞬きを数回繰り返した。
それを見て隣でキツネがにんまりと目を細めて見せた。
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港まで迎えに来てくれた2人の顔は昨日見たよりももっと緊張しているように見えた。
私よりもずっと強い2人がこんなに緊張しているなんてどんなに強いクエストを受けようとしているんだろう。
その内容すらまともに教えてもらっていない状態でのこのこやってきてよかったものなのか、それを考えるのはもう遅いのだろうけど。
「おはよう!あ……そっち(日本)ではもう夜か。とにかく今日はよろしくね」
「あ……は……い」
どうしてここに来ちゃったんだろう。確か昨日みんなに報告したとき、確か正親さんはやめろと言っていたのに。
熱も下がって、感じる倦怠感もかなり治まってきた。けれど頭に広がる自分の気持ちはどこか捉えどころがない。
まるでとぐろを巻いてしまった毛糸のように、始まりも終わりも区別がつかない。
「ゆずるさんが来てくれてよかった……」
はっとすると、ナイチンゲールさんが優しい瞳で私を見つめてくる。それが同情によるものから来ているのか、純粋に心配してくれているのか、それとも信頼なのかはっきりしないけれど、もしかしたらどれにも当てはまるし当てはまらないのかもしれない。
「それじゃあ行こうか」
白いパンツ姿にホースシューズを履き、これでカウボーイハットを被れば西部開拓時代の人のような恰好をしているメアリーさんは、私達と話をする時間すら惜しいとどこか急かすように船に乗り込むと、いつもの爽やかな笑顔の中にも別の感情を忍ばせながら、大きく手を振っている。
(乗ってしまえば戻れない……)
船にかかっている小さな橋に足をかけると不意にそんな気持ちが降って沸く。
それはわかっていたことなのに、何かの悪い予感を知らせるかのように私に最終意思を確認させようとする。
「はい」
そんな私の気持ちを見透かしているかのように、メアリーさんが手を差し出す。
その手をとってしまえば戻れなくなると、もう1度確認しているかのような何かがふっと浮かんで
「ありがとうございます」
消えた。
― 出航します。クエスト『オデッドとオディール』に参加の方はお急ぎください ―
船がゆっくりと岸を離れていく。その様子を甲板でぼんやり見つめながら、離岸した岸にぼんやりと光る銀色の何かをただ見つめていた。
STORY:オデッドとオディール START
PARTY:3/4
STORY1: NOT CLEARED
STORY2: NOT CLEARED
STORY3: NOT CLEARED
TIME:00:00:09/ 11:13:44 (0/ 1)
SPEED: AFFRETTANDO