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secret GARDEN- Lakhesis -  作者: 蜜熊
QUEST2:Escape From The Darkness
21/155

Phase3-1

- viewpoint change M -


闇に沈みし花を摘むには 幾多の問いの先にあり


一度進めば戻れぬ道に獣なし 


急いて選んだその道は進めば重なる 深淵の闇




「どうしてこの状況を謳ったものがあるのかわからないけど」


そう前置きしながらも斗真は、さっき信長が書かせた詩の一部をとんとんと指し示す。


「呪いで昏睡状態になっているゆずるを『花』だと置き換えて、それを助けることを『摘む』とすると、幾多の問いの先にあって一度始めたら中断が不可能で、デスペナも敵も出ないものは前にやったことがあるからわかってる。『迷宮からの脱出』だ」


「なるほど……」


「『急いて』選んだ道が重なるってあるから……現時点で最速で受けられるそのクエストが、一見ランダムでしか開催されていないそのボーナスクエストの当たりになるはずだ」


「いつになる?」


リヒャルトが短く尋ねると、さっきナポレオンにチケットの有無を聞かれていたチームメンバーの1人が「2時間後、ここからだとミュンヒェン地区から出ます」と答えた。

そこでやっと少し前に“あいつ”が俺にした不可解な行動の意味を理解した。


どうしてあいつがそれを知っていたのかはわからないが、もしかしたらゆずるの様子とどこかで見ていたソロモンの鍵の情報を重ねて考えたのかもしれない。


ただその答えを考えるよりも、この先のことを考えた方が大事だと判断し、それ以上の思考を止める。


「邪魔したな」


「待ってくれ。後2名行ける。誰にする?」


チケットを持っていたメンバーは1人、さっきオークションで落としたチケットが1枚あるからここには後2枚あることになる。


譲り受けたものとは言え、元から持っている俺が行くのは決まっていたが、残り2名は移譲の形になるため誰が行っても同じことになる。

デスペナルティーはないとは言え、前回はたまたま戦闘がなかっただけかもしれない。現に前回もトラップ系ではあったが敵は存在していた。何せクリア者がチケット配布枚数に対して極端に少ないクエストでもある。


「オレは行くからな!」


突然大声とともに目の前に立ちはだかる男にしては小柄なシルエット。その目は強い不安と悲しみを映しながらも、いつもの意思の強さはそのままにじっと俺を睨む。


「…………」


「ぜっ……前回だってオレがほとんど解いたようなもんじゃんか!だから……」


そこで言葉を切ってベッドに眠る姿を見る。これだけ大声を出してもぴくりとも反応しない姿は、さならが眠りの森の姫そのもののようだった。

ふとその姿にちらつく影があったが、頭を掻いてそれを振り払う。


「オレも……ゆずるを助けたい……」


最後は消え入りそうな声だった。地面を見つめるその表情がどんなものだったかはきっと無理やり見ようとしてもこいつは見せようとしないんだろう。

子供のようでしっかりと男なヤツだ。


「私も同意見です」


すっと歩み出るその瞳は相変わらず自分の主観を言おうとしない。


ただ客観的に判断することに徹しようとしている。胸の中にはかなり熱くて揺るぎないものを持っているヤツなのは端々に感じることはあった。


本人もそれを自覚していて、その上で自分の目的を果たすためにあえてそれを控えるように自制している風がある。

そいつが今、真っ直ぐに俺を見る。


客観的に考えて信長の方が自分よりも戦闘力は高い、そして精神力はリヒャルトの方が高い。それをわかっている上で、それでも自分が助けたいと発言するのはその自制心に反しているんだろう、瞳にどこか迷いは見える。


(やめよう)


そんな言葉を並べたってあいつは喜んだりしない。あいつはいつだって他人のために自分が分不相応で足手纏いだとわかっていても、その歩みをやめようとしなかった。こっちがいくら心配したって大丈夫だと頼りなさげに笑ってみせて、そうして俺達をただ純粋に信頼していた。打算も見返りも何もなく、ただ傍にいてくれた。


そんなあいつを、こいつらは助けたいんだろう。


「誰も来るななんて言ってねぇよ」


その言葉にぱっと上がる顔にはいつものように強い意思が見える。


「わかった、彼女のことは任せてくれ。こちらで責任を持とう」


「頼む」


リヒャルトが俺達の意思を尊重するようにうなずく。


「任せておけ。何とか期限延長のカードが他にも手に入らないか手配してみる」


言葉を受け取ってここのチームのヤツが自分のすべきことをしようと次々に部屋を出ていく。

流れに続くように、短く言葉を交わし出口に進もうとすれば、背中から意を決したように女の声がかかる。



「あの……すみません」


顔だけで振り返ると、目に毒そうな恰好をしたナース姿の褐色肌の女が、今にも泣きそうな顔をしながら俺達を見つめていた。


「メアリーは……ただ大帝が心配だったんです……お願いします……彼女を……救ってあげてください」


お願いします、そう繰り返しながら深々と頭を下げる姿に、同じチームメイトが沈痛な顔をする。


結果として変わってしまったが、元は純粋なものだったんだろう。それ位の想像はつく。


ただこの世界は、純粋でいればいるほど、歪んでしまったら元に戻れない。それもおそらくこいつらはわかっているんだろう。


“無事”という言葉は使おうとしなかった。“救って”ほしい、それが悲劇の連鎖を生んだチームメイトに対する、最後の祈りであるかのように。


この世界はどこまでも腐っている。いや、腐っているのは人間の性根かもしれない。


「……後は頼んだ」


ただ女が深々と下げた顔から嗚咽をこぼしているのは、腐った人間の性根なら出来ないものだと思いたい。

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