Phase3-2
だけどそれを抜いても今までと同じようにとは言えないかもしれないけど、こうやってはっきりと線引きされると悲しくなる。
傍に置いてくれるものと考えていることが、1人よがりだと言われているようで切なくなる。
それを尋ねる勇気も持っていないくせに。
「今日はあいつらと何かするのか?」
「あ…いえ」
その言葉にわずかながら違和感がある。
(正親さんは違うのかな?)
「正親さんは2人と別のクエストをするんですか?」
「ぁー…まぁな」
確か千尋さんはこの前解放されたバベルの塔にしばらく籠ると言う話は聞いている。
誘われたけど、絶対迷惑をかけるだろうし、今回はレベル上げとアマテラスを使いこなすために頂上を目指すと言っていたから余計にそれの足手まといにはなりたくなかった。
(斗真くんは迷宮からの脱出をやるとか言ってたっけ)
前にナポレオンさんから譲り受けたクエストをやってから千尋さんと合流するとか言っていたけど、あのクエスト程自分の無力さを感じるクエストもないかもしれない。
(斗真くんは別にいいって言ってくれたけど)
譲り受けたチケットはナイチンゲールさんの分も含めて2枚だったけど、1人用より2人用の方が難しさは上がるし、斗真くん1人でも私と2人でも戦力的には1人のようなものなのを考えると、やっぱり遠慮したのは正解だったと思う。
「1人なら無理なクエストはするなよ」
「あ、はい……」
『正親さんはどんなクエストをするんですか?』と尋ねるよりも前に話を打ち切られると、ゆるりと手を振りながら雑踏へ消えていく。
その後ろ姿にどうしてだか胸騒ぎを覚えながらも、視線はぼんやりと背中を追っていた。
けれどそれとは対照的に、足は行き場を探すかのようにふらふらと前に進み出していた。
- viewpoint change M-
最近では少数PTのクエストばかりやっていたからか、大規模のPTクエストは久しぶりかもしれない。
「それではよろしくお願いします」
その内声をかけたのがこの野良PTの発起人なのだろう、ちらりと集合場所に集まった人物を見て声をかける。
そこに見知ったプレイヤーの姿を見なかったことに内心でほっと息を吐いた。
このクエストの正規は15名。掲示板の話だとその内1名が欠になったとあったが、パスを見る限りその欠員も補充出来たのだろう。
本当かどうかわからないが全員がシークレットコードを持っていることから、全員がそれなりのレベルかつ、ある程度の覚悟を持ってこのクエストに参加してきたことがわかる。
「『MUD HUNTER』が乱入してくる可能性もあるから、みんな脱出用のアイテムの準備はいいですか?」
その呼びかけに何人かは反応したが、何人かはそれとは明らかに異なる心持ちでこのクエストに来ていることもすぐにわかる。
(俺も人の事は言えないか)
例え乱入してこようが、相手が何人だろうが、こちらにいくら被害で出ようがそれは俺の知ったことではない。
目的を果たすまではどんなことだって利用するつもりだし、そのための犠牲は覚悟している。
(やはり正解だったな)
このクエストにあいつらを巻き込まなくて。
「本当に危なくなったら逃げますからね」
「ぁー、わかってるよ。何度も確認すんな」
「だ、だって正親さん目が怖えぇもん」
「うるせぇ」
「すっげぇ久しぶりにクエスト誘ってくれると思ったらこれだもんなぁ。大体正親さんがその目の時は激ムズクエストなの自覚してます?」
「……」
言われなくても最初から巻き込むつもりはなかった。ただ1人位はいざという時の保険が欲しかっただけだ。
最後まで逃げるつもりはないが、1人で全てを欺いてどうにか出来るだなんてことも思ってない。
だからいざと言う 時はちょっとした時間稼ぎをして欲しい。それだけだしそれ以上説明もしていない。
それでもこうやって渋々ながらついて来てもらったこいつに多少なりとも感謝しつつ、視線だけは向けて主催者の注意事項を聞き流す。
どうせ綺麗事を言っても欲しいものを手にいられるのは1人だけだ。
所詮この集まりはそこに到達するまでの間の一時的な同盟なだけであって、それだけが共通事項でもあり注意事項でもある。
「それじゃあ行こう」
呼びかけとともに先頭に立つヤツが地下鉄に乗り込んでいく。
神話クエストは全部地下鉄で移動になるから、どんな国の特殊クエストであろうと移動時間が短縮出来るのはありがたいが、風景も見えないものに乗るのはどうも気が滅入る。
まるで地獄に向かっているかのように時折接続部分が軋む他に目ぼしい変化もなく、着いた先には駅すらないのがほとんどだ。
電車のドアが開けばだだっ広い場所が広がるだけで、パスだけがそのクエストの開始を無情に知らせる。だからか乗っている全員の表情は早くも緊張で堅い。
「出てすぐ戦闘とかざらですもんね」
「まぁな」
「大人数でもだいたい半分くらいにばらけてスタートとかあるし、人数意味あるのか疑問ですけど」
そう言いながら俺の傍に立ちきょろきょろと辺りを見回す。
ある程度の顔見知りなのかそれとも一方的に金銭で雇った間柄なのか、立ったり座ったりしているヤツらはある程度の塊で寄り添うようにしている。
最初から分断されることもあれば、途中のトラップで分けられることもあるが、今回のクエストは完全ランダムだと言われているから気を抜くことは出来ない。
「そう言えば最近正親さん固定PTで動くこと多いってうちのリーダーびびってましたよ。あれだけチームに誘っても全然興味なさそうだったのに」
「……」
「やっぱあの子が心配なんすか?確かにかわいいなー、間近で見たの初めてだけど……年下でもいけるかもしんない」
「…ぁ?」
確かにこいつらの所属するチームの規模から考えればあいつがやっていそうなクエストのレベル帯のプレイヤーまで網羅しているとは思うが、それでもはち合うのはせいぜいクエストを受けるまでで、こいつらのチームが積極的にPKに加担しているとか、あいつが公式イベントで『酒呑童子』以外に目立った動きをしたことはなかったはずだ。
こいつの言葉にひっかかりを感じて眉間に皺を寄せれば、俺の顔がよほどおかしく映ったのか、目の前の瞳が面白い位に泳いでいる。
「え?それでこれ受けたんじゃないんすか?」
ほらっと指を指せば、大人数のプレイヤーの中で唯一とも言っていい位やる気も覇気も感じられない、おおよそこのクエストの主旨とは合いそうもない人物が、大柄なプレイヤーの影に隠れるようにしてぽつんと座っていた。
「ゆずる!?」
思わず場をわきまえず大きな声を出せば、そこでやっと今いる場所を把握したのか、瞳に光彩が戻る。
その大きな瞳がこちらを見て俺達を捉えると、自分の立場や置かれている環境を丸ごと無視し、ただ俺達の無事を安堵するような表情をする。
「わー…かわいいー」
場違いな声が隣から上がったが、生憎それに同調出来る程心理状態は万全とはおおよそ言い難かった。
いくつもの疑問が浮かんでは瞬時にはじけ飛び、何1つ明確な言葉として表現されることはなかったが、焦る思いとあり得ないものを見ている視覚を信じられないと思う気持ちを持て余しながらも、足は自然とあいつの方へ進む。
無意識に守るべきものを知っているかのように、いつもは理性で蓋をしている気持ちのままそっと前に立てば、ただ俺を無条件に信頼している瞳が俺を映した。
目の前にある『希望』は眩しくて直視することは出来ないくせに、傍にあって欲しいと願ってしまう俺は、後どれだけ罪を意識して犠牲を払えばこいつの傍にいることを許せるんだろうか。
硬い表情ではあったが、俺の気持ちをも許すかのようにほほ笑むその顔に、手に力を込めながらゆっくりともう1歩距離を縮めた。
STORY:ゴルゴンの首 START
PARTY:15/15 FULL
STORY1: NOT CLEARED
STORY2: NOT CLEARED
TIME:00:00:01/ 53:37:41 (0/ 1)
SPEED: PRESTO