SAVE3
Phase3
青年は1枚のパスを見ながら考えていた。
全てを打ち明けていたら変わっていたのかと
打ち明けていたら楽になっていたのかと
しかし、青年の胸の内にある『罪の意識』がそれをよしとさせなかった。それが2人をいたずらに傷つけ信用を無くす行為へ繋がるとわかっていても、そうすることが出来なかった。
危険を冒してついて来て欲しいとは、言えなかった。
それに彼らはわかっていたのかもしれない。
いざ危険が訪れたとき、真っ先に青年がその犠牲になろうとすることを。
危険と犠牲を全て伝えれば、彼らは何も聞かずについて来てくれただろうとわかっていながらも、青年は言うことが出来なかった。
その先に手に入れられるものを、自分のエゴだと勘違いしたままの青年には、それを伝えることが出来ずにいた。
守りたいものはみな同じだというのに。
Loading3
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『オレはずっとお前の傍にいる。変わらないままずっとお前の傍にいるから』
『忘れろよ…匡さんはもういないんだから……』
『匡さんは死んだんだ。そいつは違う!匡さんじゃない』
あの言葉は全部私がどこかで誰かに肯定してもらいたかった言葉のはずだったのに、それを言ってもらえてうれしいと思う気持ちはなかった。
まるでそれは匡を否定してしまうようで、私の思い出の全てを否定しているようにも聞こえた。
(私は……)
匡の事に誰よりも固執していた。
そのくせ自分には都合が悪い部分は見ないフリをして、飛翔くんも正親さんも私よりももっと匡をわかっていたのに、なのに私が1番だと思い込むことを止めなかった。
思い出が壊されるのが嫌で、駄々をこねていただけかもしれない。
匡は辛かった私にどこまでも優しかった。匡だけが優しくしてくれたから、過ぎてしまった昔も懐かしく思うことが出来る。
だからその思い出ごと否定されるのが怖くて、みんなが言う匡を信じたくないと目をつぶっていた。
匡がいなかったら、きっと昔も今も変わらずじっとうずくまって、自分自身を否定してしただけだったと思う。
誰かと一緒にいたいと思うよりも、その場所を妬んでいただけだったかもしれない。
母親と、同じように。
(匡……)
ずっと守られていたことに気が付いて、思い出も都合のように書き換えて、匡の腕を振り払って、それから私は何をすればいいんだろう。
あるがままの匡を受け止めればいいんだろうか。優しい口調のまま、大事なものを全て奪おうとする匡を。
『この前は本当にごめんな!でも、お前を守りたいって気持ちは本気だから』
(飛翔くん)
(飛翔くんは……強いな……)
ちゃんと自分の気持ちを言葉に出来て、相手に伝えられることは否定されることだってあるし、傷つくことだってある。
だけどそれを逃げようとしないで真っ直ぐに私を見てくれるその瞳は、力強くて優しい。
(私は…)
その気持ちを言葉にしたときは無我夢中で、ただ離れてしまうのが怖くて寂しくて、その思いだけで後先も考えなかった。ただ向き合った。
それを受けて入れてくれたみんなは、こんな私でも居場所をくれようとしてくれる。
(それに……応えたい)
私の心の中で1番否定するのが怖い部分。それに向き合わないと折角追いついたみんなの背中を黙って見送ることになってしまうかもしれない。
どちらか1つしか選べない、今まではそのどっちもが大事だと言って、切り捨ててしまうもう1つを失うのがずっと怖かった。
だから今はまだ時期じゃないといいながら、選ぶことから逃げていた。
(今でも怖い……けど)
だからと言ってちゃんと見ずに仕舞い込むのはもうやめよう。
ちゃんと見て、ちゃんと話して、それでも選べなかったらそのときはまた考えよう。
少なくとも今の私は天秤に乗せようとしているものをちゃんと見ていない。
「匡……」
今の私には匡を否定することも出来ないし、切り捨てないという選択肢を選ぶことも出来ない。
だけど、もう1つのものも大事で、それを切り捨てることも出来ないのなら、どちらも大事だと胸を張って言えるように向き合っていかないといけない。逃げていちゃだめだ。
最後の最後で選ばなくてはいけなくなったとき、それを後悔しないように。
それまではどちらも大事だとちゃんと言えるように。
「逢いたい……」
匡に逢いたい
匡に逢うのが怖い
だけど、それでも匡に逢ってちゃんと向き合いたい
もう自分に都合の悪い部分だけを見ないようにすることをやめたい。今匡が何を考えて、何を想っているのか、ちゃんと聞きたい。
否定するのも肯定するのも、全てはそれからでしか答えが出せない。
答えがどんなに残酷でも、もう匡から逃げるのはやめなければ、ずっと思い出は壊れたセピアのまんまだ。
やっと少し見えた道は思ったよりも険しくて、その先に進まなくていいと言ってくれるモノが後ろにあったことに気が付いたけど、そのままその場に立ち止まることはきっと出来ない。
もう道の先に追いかけたい後ろ姿が見えている。
1度振り返って手を差し伸べてくれているその背中に、手を伸ばしたいのなら自然と足が前に出るしかないから。
外を眺めるとぼんやりと月が空を照らしていた。その柔らかい光が、私の心の中にもあればいいのにと、乳白色の半円を眺めた。