SAVE2
Phase2
テトラドラグマは、古代ギリシアの銀貨で4ドラグマの価値があり、紀元前510年から紀元前38年まで広く流通していた共通硬貨である。
現存するテトラドラグマ貨の多くは、紀元前5世紀中ごろ以降からアテナイで造幣されたもので、この硬貨は古代ギリシア世界での取引に広く使われていた。
アテナイは国有の銀山を持っており、そこから銀を得ていたため、貨幣鋳造にはもってこいであった。
アテナイのテトラドラグマ貨は表面にアテーナーの頭部が描かれ、裏面にはアテナイのポリスを象徴するフクロウとオリーブの小枝と三日月が描かれていた。
このデザインは約2世紀以上に渡って基本的に変化せず、最後にはかなり古臭いスタイルになっていたが、同時にアテナイの象徴として広く民衆に知り渡るところとなった。
ちなみにアテナイとは、ギリシャ共和国の首都アテネの古名。
中心部にパルテノン神殿がそびえるイオニア人の古代ギリシアの都市国家で名はギリシア神話の女神アテナに由来する。
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― クエスト ヲ クリア シマシタ ―
それと同時に自分のパスを見る。
目的のモノはレアであったがこのクエストで揃うのは知っていた。入手元が特定出来れば入手自体はさほど困難ではない。
アイテム『テトラドラグマの銀貨』、これが“あの”クエストに必要なものだとわかり足を運ぶことになったが、足取りはこの上なく重たい。
これを手に入れて、それから行うべきことを考えればもっともな反応だと思っていたが、残されている道がないとは言えどうしてこうも残酷なものばかり用意するのか。
「じゃあこれ、約束通り」
「あぁ、悪いな」
知った顔馴染みにそう返せば、面白いものを見るような顔をされる。
「正親さんがそんな風に言うなんて珍しいっすね。しかもめちゃくちゃ高額で買い取るだなんて……明日は雪っすかね」
「うるせぇな、さっさとパスを出せ」
突き合わせたパスを通してアイテムとKの交換を済ますと手元には2つの同じアイテムがアイテム欄に映し出されていたが、それを望んでいたとはいえ溜息が零れる。
「でも何でこれを?正親さん『魔に連なるもの』に興味ありましたっけ?」
「ねぇよ」
「ですよね」
ないが、ないと困る事態ではある。とまで説明する必要はない。
多少なりとも知った仲だとは言え、こいつとあいつは関係がない。これ以上巻き込むつもりも話すつもりもない。
「何かイカレ狩人が『魔に連なるもの』の争奪戦でチーム内で動いているらしいっすから気を付けてくださいね」
「あぁ」
注意喚起してくれることはありがたいが、だからと言ってやるべきことが変わるわけでもない。目の前に邪魔なものがいてもそれは関係ない。
『夕弦に…夕弦を傷つけないものだけが存在ばいいのにな……』
言葉の意味に込められた二重の意味はわかっている。
『夕弦に身を守れる何かがあればいいのに』
(皆守……)
『夕弦を傷つけるお前たちがいなくなればいいのに』
また同じ目に遭ったとしても、あいつは同じように俺達を守るために自分のシンボルを使おうとするだろう。
精神的に壊れてしまいそうなリスクを無自覚に自覚していたとしても、それを見ようとすることはないだろう。ただ俺達を守って、静かで穏やかな手に入れたことのない世界を願い続ける。
俺達全員が欲しいと思っている世界を、守るために。
「……」
守ると言いながら守る資格がないと自覚している。
守ると言いながら、守られている。
(くそ……)
足掻いても無力だと突きつけられるのには慣れているが、それに伴う痛みが決してなくなることはない。
守る資格がない俺に、それでも傍にいて欲しいと願うあいつの願いだけは叶えてやりたい。
許された罪は痛みを起こしたが、その痛みは確かな傷とともに希望を植え付けていった。
全ての罪を償うまで歩いていける力とともに。
含められた“本当”の意味は、『そのとき』まで見ない事にして目をつぶった。
- viewpoint change T-
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「もう大丈夫なの?」
そう言いながらとんとんとこめかみを軽く指すと、心底嫌そうに顔が不愉快そうになる。
(別にいいじゃん)
治したの、オレだし。と出そうになったけど、プライドが高いこいつのことだから(オレも人の事言えないけど)指摘されるのは嫌なんだろうなと思って黙っている。
「……ああ」
短く答えるそいつの顔には傷がない。
最初見たときこれは確実に痕が残るかなと心配していたけど、どうやらシンボルも成長というものをするものだったことをそのとき初めて知った。
頭は相変わらず痛かったし、少し吐き気もあったけど我慢出来ない程じゃない。
治る速度だって前に使ったときよりもずっと早かった。
(それに)
最初は自分が意識して発現することが出来なかった。シンボルを理解してからも出るときと出ないときがあった。
だけど前は違った。
(精神的な成長……とか影響されんのか?)
確かにレベルの概念とか身体的成長とかで力が変化するのは知っていたけど、それにシンボルも含まれないのはおかしな話だったかもしれない。
精神的に成長すればそれだけシンボルも強くなる。考えればわりとすぐに行き着く答えだ。
(精神的な成長……)
「ゆずるさんは……?」
「ああ、あいつは今日はリアル(現実)でちょっとあったらしくてパスだって」
お前のとこにも来てない?と言えば、やっとその可能性に気が付いたのかグローブ型のパスを見ている。
どれだけメール不精なんだこいつ。
「何もないといいが」
最近やたらとこいつがゆずるの心配をしたり気にかけたりする心情の変化は、おそらく自分のトラウマを乗り越えられたきっかけがあいつのおかげで、だからなのかもしれないけど、こうも今まで無関心だったヤツがあいつの名前を出すのは気持ち悪いを通り越してかなりムカつく。
俺だってあいつには絶対言わないけど感謝しているし、大事に思ってるんだ。
しかもそれもこいつよりもずっと前から。
(恋とか言えばもっとひどくなったりでもすんのか?)
それがそんな気持ちかどうかはどうでもいいし、絶対言ってやらないけど。
(ゆずる……)
それならゆずるのシンボルは何なんだろう。
あれは精神的成長と言うより“精神的苦痛”を与えて内側から壊そうとしている力にしか見えない。
あれからさほど驚かないマサに問い詰めればあっさり見たことがあるなんて言いやがって。
(しかも『箱舟』だなんて)
初めて見た。
情報として一番少ないし、プレイヤーとしても一番少ないスタイルでもあったし、実際に見たこともあれが初めてだったから他のヤツと比べようもないけど、一般的な攻撃とか防御型に比べれば圧倒的な力があること位は理解出来る。
それだけ『罪』と『犠牲』が高いヤツじゃないとそのスタイルにならないというのも知識では知っていたし、ゆずるの背景を考えれば妥当なものなのかもしれない。
どうしてあいつがやたらと癖のある上級プレイヤーに目をつけられていたのかも、やたらとレベルに似合わないスキルを使えるのかも納得がいったけど、それでももやもやする部分は当然ある。