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secret GARDEN- Lakhesis -  作者: 蜜熊
QUEST10: Γοργwν(支配する女)
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SAVE1:Who are you

There are moments when one has to choose between living one’s own life.



人生には選ばなければならない瞬間がある。



- オスカー・ワイルド -


Phase1



40過ぎには見えない上背の高い整った顔の男が仕事の準備をしようと自宅のリビングに下りると、そこにぼんやりと座っている1人の姿を見つける。


声をかけようとしてその少女の表情がどこか虚ろであったことに訝しみ(いぶかしみ)、思わず開いた口を閉口した。


少女はどこかを見つめながらぼんやりと外を眺めているようにして座っていたが、その瞳にはいつもの柔らかい光はなく、その姿はまるで精巧な人形のようにも見える。


その存在感の希薄さに今も行方不明になっている2人の家族の姿を思い出して、自然に震えようとしている声を誤魔化すように音を立てて冷蔵庫を開けば、音に反応して少女が男の方へ向く。


そして少女の口から男を呼ぶ声が確かに聞こえたが、不気味な程その声に存在感がない。


まるで、その呼びかけすらも誰かに咎められているようだ、男は胸に湧いた感情のまま問いかければ、それもぼんやりと返されるだけであった。


『ねぇ、パパ』とやや間を置いて少女は男に問いかける。そこにはいつものおどおどとしたものはなく、独り言のようにも聞こえた。


『匡にね……逢ったよ』


嘘かどうかはわからない。しかし、少女が男よりもその匡という存在を大事にし、依存していることはわかっていた。だから傷つけないように「よかったな」と答える。


『どうすれば…いいのかな……』


それは独り言であったが、まるで今にも消えそうな程心もとなく、ぽつりと落とされた。


Loading1


------------------


---------



『迎えに来たよ、夕弦。オレと一緒に行こう』


『目をつぶっていて?夕弦』


『『どうして』……?オレも聞きたいな。どうしてお前はこいつをかばうの?』




(どうして……?)


仮面の奥はわからなかった。だけどもうそれを確かめなくてもそれが誰だかわかっている。だけど、それをどうして認められないんだろう。


(あれは……匡なの…?)


『……ああ、この仮面のせいでオレをオレだと確信が持てない?そうだよね。ごめんね』


違う、そんな理由じゃない。


(あれは……誰……?)


変なことを言っているのはわかっている。匡があんなひどいことをしないと思っていて、だから受け入れきれないからなのかもしれないのも、どこかで認めている。


だけどその気持ちや可能性を受け止めても、やっぱり私の気持ちはすっきりしない。


答えはそのどれも当てはまらない気がして、本当の答えが何だか見当もつかない。


(逢って……話がしたい)


だけど逢ったとして、ちゃんと聞けるかどうかも自信がない。


今まで匡に異議を唱えたこともなかったし、そんな気持ちもなかった。それを今さらしたいだなんて思ったところで、その方法がわからない。


ずっとただうなずいていればよかったから、自分で何かを考えと言うのがすごく難しいことを今さらながら突きつけられている。


今さらだから、どうやって確かめていいのかわからない。


わからないまま逢ってしまえば、きっと今までと変わらず私はうなずくしか出来ないかもしれない。


(……どうすれば…いいのかな……)


誰にも相談出来なくて、相談のしようもなくて、ただ時間の感覚を忘れてしまう程同じ疑問を繰り返す。


母親のときは考えることを放棄した。匡が死んだと聞かされたときはただぬくもりが永遠に戻ってこないことが悲しくて泣いた。


正親さんに真実を告げられたときは、どちらが大事か自問自答して、結局答えが出なかった。


(あのときと同じ)


ぼんやりと頭に靄がかかっていて、真実も自分の気持ちもその靄の向こうにあるような感じがする。晴れた気でいた霧は、振り払ってもまだ私の周りを漂っている。


こんなこと繰り返したってどうしようもないのもちゃんとわかっているのに、どうして振り払うことが出来ないんだろう。


どうしてどちらか1つをちゃんと選べないんだろう。


ふとリビングのテーブルに置いた携帯電話が味気のない音を出す。


さっきも父親と話す機会だったのに、ちゃんと話せたかどうかも思い出せない。


心配そうに見つめてくれた気はするけれど、どんな顔をしていたのかもわからない。


ゆっくり瞬きをしてから緩慢な動きで手を伸ばす。


(…飛翔くん……)


話すのはいけない事だし、きっとこんな話をしても飛翔くんはよくわからない。

だけど1人で考えても、きっとこれ以上答えは出ない。


逃げ出したくない。だけどこんな後ろ向きで決めきれない気持ちは、もう疲れた。


匡を知る人に、私の変な感覚を早く否定して欲しかった。


誰かに寄りかかりたくて、ゆっくりと携帯のボタンを押した。

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