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Phase8
元はローマ帝国の百卒長の名前からその名前が由来している。
彼が所持していたとされる聖槍は、磔刑に処せられた十字架上のイエス・キリストの死を確認するため、わき腹を刺したとされる槍であり、イエスの血に触れたものとして尊重されている聖遺物のひとつ。
イエスが一度死んだことを強調しているともキリスト受難の象徴とも言われている。槍を刺したローマ兵の名をとって、『ロンギヌスの槍』とも呼ばれる。
それはあたかも全知全能の神『ゼウス』の如く万能で、そして人の地の及ばぬところにある力の象徴のように扱われ、キリスト教説話としての性質の濃い、アーサー王伝説の聖杯探索のくだりにも聖槍は登場しており、聖杯城を訪れた円卓の騎士らの前に聖杯とともに現れ、穂先から血を滴らせた白い槍という姿で描写される。
名前はロンゴミアントと言われている。
また、『所有するものに世界を制する力を与える』との伝承もあり、アドルフ・ヒトラーの野望は、彼がウィーンのホーフブルク王宮で聖槍の霊感を受けた時より始まるといった俗説もある。
また、ナチス・ドイツ時代に聖槍などの帝国宝物をニュルンベルクへ移管したのは、神聖ローマ帝国の後継者であることを示すためという見解もある。
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優しい世界が崩壊していく。
声色は優しいままで、顔はまだ見えないけれど笑っているのはわかった。
ずっと探していた、記憶の中の優しい微笑のままに。
その微笑が、今目の前のささやかな世界を壊そうとしている。
4年前に1度壊れて、やっと少しずつ、歪だけどもう1度作ってきた優しい世界が、1番逢いたかった人の手によって壊されようとしている。
『目をつぶっていて?』
この言葉に体が私の意志とは無関係にその言葉に従う。
疑問は浮かんでいるハズなのに、それすらも意味のない事のようにさせる絶対的な一言に、なす術もなく視界が真っ黒になっていく。
(どうして)
言葉を出して気持ちの真意を尋ねれば、優しい匡は私の疑問を解消してくれるんだろうか?
それともいつもの微笑のまま、私には何も知らせることがなく目の前の危ないことを片づけてくれるんだろうか?
(危ないもの……?)
危ないものなんて今、ここにあった?
ここには匡と千尋さんがいて、それだけしかいなかったハズなのに。
危ないものなんて、どこにもなかったのに
「さよなら、名も知らないプレイヤーさん」
その言葉は優しいのに、どうして口元が頼りなく震えているんだろう。
真っ黒な視界では何もわからないのに、今度目を開けたときは何かわかっているんだろうか?
ずっとずっと痛みを我慢して、逃げて、目をつぶってそうやって生きてきて、それが1番傷つかなくて済むことはわかっている。
匡はそうやっていればいいんだよと言ってくれているのに、どうしてこんなに怖がっているんだろう。
― シンボル ヲ 使用 シマスカ ? ―
どうして逃げることを、こんなに怖がっているんだろう?
「す…………」
声は誰かのパスのアナウンスに掻き消されている。ちゃんと言えているかもわからない。
見ていない視界の先に何が起こっているのかわからない。
それが、たまらなく怖い
甲高い耳鳴りのようなものが聞こえ、閉ざしていた視界の先に光が集まっているのを感じる。
「……これは…」
何かに驚いているような千尋さんの声が聞こえてほっとする。声を聞けたことがこんなにも安心することだったなんて初めてだ。
「夕弦」
呼び声に塞がれていた両手がずるりと力なくおろされる。
光のまぶしさに目を細めながらゆっくりと目を開くと、千尋さんの前に真っ白い石膏のような白さの十字架が見える。
それは意思を持って体に食い込もうとしているみたいだったけど、その外からの衝撃が直前で流星のごとく弾けて散っていく。
鈍い衝突音さえ聞こえてきそうな程激しい勢いが、全て弾かれて星の欠片のように砕けてはらはらと床に落ちる。
目の前に映っている仮面がその欠片の光でキラキラと照らされる。
その奥に見えている瞳はやっぱり私がずっと見たかったもので、夢だと逃げたい気持ちを通せんぼして行き止まりにさせる。
「……どう…して……?」
「『どうして』……?オレも聞きたいな。どうしてお前はこいつをかばうの?」
すいっと伸ばしていた手を挙げると、不気味な十字架がふっと消える。
腕組みをして首を傾けている仕草は匡が困ったときにする仕草で、それはだいたい私が悪いことをしてしまたときに、小さい子供を諭すようにしていた仕草と全く同じものだった。
「だ……だって……」
どうしてかばっちゃいけないの?そう言いたいのに口がいう事をきいてくれない。
それを言ったら目の前の人物が悲しそうにするのがわかっていたから。
匡が悲しむことを言う事は今も昔も私には言えない。
こっそりご飯をあげていた、近所に捨てられていた犬が保健所に連れて行かれたときも
いじめられないようにといじめるふりをしてかばってくれていた男の子が急にいなくなったときも
母親に叩かれて物置に閉じ込められていたときも
幼心にも沸いた小さな疑問を、匡に聞く事は出来なかった。
『どうして?』
『どうして私の大事なものが周りからなくなっちゃうの?』
だいじなものが匡しかのこらないのはどうしてなの?
「……ああ、この仮面のせいでオレをオレだと確信が持てない?そうだよね。ごめんね」
(違う……)
仮面に手が触れてそれがゆっくりと外される。
ちらりと見えた口元にはやっぱり笑っているのか、ゆるく微笑みの形が作られている。
その形だけでもうそれが誰だかわかっているのに、それでもどうしても信じられない。
「!」
突然目の前の執事姿が大きく弾かれるように傾く。それと同時に乾いた音が聞こえる。
「2人から離れろっ!!」
たっぷり距離があって、その先に2つの影が見える。それを見て恐怖を振り払うように名前を呼んだ。
「斗真くん!!正親さん!!」
「ダメだよ、夕弦」
「っ!」
ゆらりと傾いていた体が動き、手の中には何か小さなものが握られている。
それは鉛色の小さなモノで、それを見ていた瞳がすっと私の方へ向き直る。
外されきっていない仮面のその奥の瞳には深い悲しみが映りこんでいて、私がしてはいけないことをしてしまったのだと言われなくても訴えかけられているようで、その視線から目をそらせなくなる。
「お前は、オレ以外映しちゃ」
― シンボル ヲ 使用 シマスカ ? ―
― “怪錠”ガ 発現 サレマス ―
「ゆずるっ!!」
誰かが私の名前を呼んでいる。だけど、目が離せない。
悲しんでいるのは匡なのか、それとも私なのか、何もわからない。
ただもう悲しいのは、つらいのは嫌で、静かな世界を願った。
「スキルコード『神の加護』……」
- viewpoint change M-
目の前でふわりと亜麻色の髪が揺れる。
手を伸ばして掴めるかと思ったものはむなしく空を切り、目の前でどさりと倒れ込む。
「ゆずるっ!!おい!しっかりしろ!!」
その近くでは心配するように白い狼のようなモノがぺろぺろと顔を舐めている。
俺が近づくと威嚇するように犬歯をむき出しにしたが、それに怯んでいる場合じゃない。
床から拾い上げるようにして抱きかかえた体は異様に熱く、そして驚くほど軽い。
体からは脂汗のようなモノが浮き上がっていて、白い肌は痛々しい程青ざめていた。
オズの世界から斗真を救ったときと全く同じ状況で俺の腕の中にいるその存在は、あの時と同じように、辛うじて口から零れる短い息が生きていることを証明している以外にこいつが生きているような感触がなく、それが馬鹿みたいに気持ちを焦らせる。
(また『犠牲』か)
舌打ちしたい気持ちでいっぱいだが、今はそれを感謝することしか出来ない。
まるでうわ言のように『継続使用……』と繰り返している口を塞いでやりたい気持ちがあったが、もしこれが解かれれば、一気に4人ともやられる可能性が高い。
「皆守!!てめぇゆずるまで殺す気か!」
「そんなことはしないから安心していい。スキルが解けたらバグダスターに回収させるから」
姿は見えない。
大広間はバラバラに壊れていて、この城を支えていた細かい植物のツルが辛うじてその床だったものを不格好に繋ぎとめていたが、見えるはずの青空も雲も何も見えない。
ただ視界全てを覆うのは夜空を凝縮したような光が指さない真っ黒な空間。
ゆずるのスキルの影響でスキル対象者が照らされて光っているのは見えるためにそれぞれの位置把握は出来るが、それぞれに浮かぶのは驚愕の表情以外にない。
(これが…怪錠)