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secret GARDEN- Lakhesis -  作者: 蜜熊
QUEST7:Zonnebloemen(ひまわり)
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SAVE4:His peace

- viewpoint change M-


煩く聞こえる人の声と、不快にしか感じない血の匂いが、すり減って疲れて眠りたいと叫んでいる心を許さないと言わんばかりに纏わりつく。


そんなものはただの幻影で、過去の禍根で、目の前にはもうないというのに。


さわさわと草木を風が撫ぜるが、気持ちは風に流されることなく濁って溜まっていく。


これが罪に対する罰だと覚悟はしていた。その罰を清算出来ない限りこの世界から逃げ出すことも許されないのはわかっている。


(……疲れた)


眠ることすら満足に出来ず、罪は一向に許されることがない。いつまでこの無限地獄のような毎日を過ごせば楽になれるのか、終わりの期限が見えてこない。


(…………)


目をつぶれば目の前で消えていく大事な者達の影がちらつく。心配なんてしなくていい、忘れる事なんて出来ようがないのだから。


手がかりを掴んだと思ったあのクエストでは、終焉を迎えることは出来なかった。それどころかとんでもない結論に対する仮説を立てるだけに留まり、今はそれを確かめる術はない。


アイギルは何かの確証を得たような口ぶりだったが、問い詰めたところでそれが確実にならない限り口に出すことはないだろう。


ひどく動揺した國鷹は下手したら暴れるかもしれないと危惧していたが、『MUD HUNTER』に動きが見られないことから、虎は致命傷にはならずにあいつをどうにか諌めた(いさめた)のだろう。

そして、男達に連れられて消えた『オリジナルのバグダスター』。


その答えを得ることだけは出来たが、その答えは絶望以外に何も残されていなかった。


一瞬だけ交わったかつての仲間は、もうどこで何をしているのかわかりようがない。


あの場で誰もが絶望に膝をつき、追いかけることは出来なかった。せいぜい残酷な現実に理性を保つのが精いっぱいで、あの後『強欲』とあいつが話した会話は何も思い出せない。


扉の中に消えていく追っていた存在を、ただ見送るだけしか出来なかった。


残された俺には振り出しに戻るどころか、またいつ終わるかもわからない道のない道を歩かなければいけない現実だけが残る。


それよりも前から長い間方々もなく歩いてきた。


(疲れた……)


ほんの少しだけ、そう、ほんの少しだけだ、微睡に身を任せてみたい。


(…………)


そうか、あの時間だけは、そんな微睡があったな。自分の中でその『時間』を懐古し、口元がわずかに緩まる。


ただ傍にいた。


理由も聞かず、傷に寄り添う。


心細そうに身を縮ませながらも、ただ真っ直ぐに、他者を信じた。ただ一途に、身を犠牲にして仲間の安寧を願った。


そしてそれに惹かれるように、同じように傷を持った奴らが集まった。そうやって出来た不格好な居場所は、ずっと求めていた『微睡』を与えた。


その『微睡』がまるで・・・ずっと欲しかったものに近いものではないかと感じた。


(……ゆずる……)


風が強く吹いた。俺の女々しい気持ちもこの風に乗って消し飛んでくれれば少しは楽になれるんだろうか。なまじいだ時間を受け入れてしまったせいか、それを手放した今は昔以上に痛みが走る。


(……大丈夫だ)

その痛みもやがて風化して、感情が鈍化していけば忘れられる。


これは『罰』で、忘れてはいけない『罪』ではないのだから。


不毛な自問自答に気を取られていたせいか、誰かが近くまで近づいていたことに遅れて気が付いたが目は開けない。


ああ、そう言えばあいつと初めて会ったときもそんな不毛な考え事をしていたときだったな。普段なら誰かが来たらすぐ気が付いて避けることだって出来たはずなのに。


(あの時目を開けて確かめればよかったか)


そして相手が気が付く前にあの場から立ち去っていれば、よかったのだろうか。


(ちっ……らしくねぇな)


木にもたれ掛ったまま腕組みし目を閉じたままにすれば、目の前の気配が動く。


危害を加える気がないのはとっくにわかっていたが、万が一危害を加えようとPKの宣言でもしてくれば破棄するアイテムを使うまでだ。


(……何でだろうな)


その気配は少し離れたところで動こうとしない。何をしたいのかは暗闇の視界からは確認しようもない。


(……何でだろう……)


今なら、少しだけ。眠れるかもしれない。


- viewpoint change -


(ありがとう……斗真くん……千尋さん)


さわさわと凪いだ風が吹く丘から広がるひまわり畑を見ながら進む。


------------------


---------


『これ!あいつの居場所』


誰とは言わなかった。言われて受け取ればそこには私が逢いたい人のデータが転送される。


『でもこれ……』


『めちゃくちゃ高かったよ。何なのマジであいつ、どんだけロックかけてるんだっつーの』


『『guardian』のリヒャルト侯が協力してくれました。彼はブラックカードを所持していますから』


『…………』


決して軽い気持ちで探そうと思ったわけじゃないけれど、その気持ちすら軽いものだと言われているかのように、駅の検索では名前がかからなかった。


お金を出して検索し直しても結果は同じで、それならメールしたらいいと言われそうだけど、怖かった。


宛先不明で戻されてしまったら、もう2度と逢えない気がした。


『私達には会わないでしょう。でもあなたなら違うかもしれない』


『……千尋さん』


『あんたが連れ帰りたいって言ってるんだから、責任もって自分で連れ帰ってこい!……そしたらもう何の文句も言わないから』


『……斗真くん』


------------------


---------


そう言えば正親さんは気が付くといつも緑が多い場所にいる気がする。それが亡くなった凛花さんが好きだった場所だからなのかもしれないけど、その姿はまるで安息出来る場所を探しているようにも見えた。


(……あ……)


小高い丘の上にぽつりとある大きな木の下に人影が見える。


その近くではここが単なる休息場所じゃなくてクエストであることを証明するかのように、ブランコがぽつんと木にぶら下がっている。


近づいてその人影がずっと探していた人のモノだとわかったときには駆け出したい気持ちでいっぱいだった。


だけどそれと同時に逃げ出したい気持ちもあって、足はどちらの気持ちも汲み取るかのようにゆっくりとしか動かない。


ざあっと風が強く吹いて、目の前の人の髪がさらりと揺れる。


浮かび上がったおかげでいつもよりはっきりと見える顔には、今まで気が付かなかったけど疲労が色濃く浮かんでいた。


眉間に皺は寄せられていて、何かを我慢するように下唇を軽く噛みしめているその表情は、心地よい風がふくこの場所でも苦痛は流されることなく、体に留まっているかのよう。


口を開いたけど、名前を呼ぶことは出来なかった。


少し離れたところで足が止まり、これ以上近づいてはいけないと教えてくれる。


その本能のままそこに止まり、そっとその場にしゃがみ込む。

手を伸ばせばもしかしたら届くかもしれないその距離は、けれど手を伸ばしても触れることは出来ないもどかしい距離で、かける言葉も出てこなければ立ち去ることも出来ない。


(…………)


せめてこの人の苦痛がほんの少しでも和らぐようにとそっと目をつぶって祈れば、その祈りが通じたのか、少しだけ表情が柔らかくなる。


(よかった……)


言いたいことはあったけど、それが傷つけるかもしれない事もわかっている。それを伝えたいと思うのは私のわがままで、そんなわがままに2人は付き合ってくれた。


だけどこの人は私が思うよりももっとずっと傷ついていて、折角つけてきた決心が鈍りそうになる。一緒にいたいけど、傷ついている姿は見たくない。


さっきの足取りと同じように葛藤した2つの気持ちが渦巻いて、その折り合いをつけた形がこんな微妙な位置で何も言わずにこうやっている理由になっているのかもしれない。


(……もう少しだけ……)


目を開ける前に立ち去るから、だからもう少しだけこうしてこのままいさせてほしい。


風が草木を撫でる音に混じって規則正しい吐息が聞こえてくる。それを聞いていると自然と涙がこみ上げてくる。


(もう少しだけ……)


そんなわがままを心に思いながら、そっと2つの音に身を任せた。

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