SAVE4
Phase4
噂と言うものは厄介だ
それは一度動く術を見つければその行く先を己で決めることは出来ない
一度言葉として成り立てば、それは思いもしないスピードで広がってゆく
それが面白ければ、人の興味を駆り立てれば、その歩みを止めることは不可能である
噂と言うものは面白い
いるもの・いないもの、あるもの・ないもの、その実態は関係ない
噂であると言えば『在る』
噂でないと言えば存在し『ない』
噂には真実も、偽りも関係しない
ただそこに人の興味があり、人の欲望がある限り
噂は消えない
それが人を傷つけようとも、人を貶めようとも、噂には罪はない
だから噂と言うものは実に厄介である
Loading4
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- タダ今ヨリ クエスト内 ノ 清掃 ニ 入リマス -
そのアナウンスがどこからともなく聞こえたが、それに4人は反応を示さなかった。
いや、聞こえなかったのではない。その言葉の通り反応しなかったのだ。
つまりは、その先に出現すると言われている『敵』に対して警戒する必要がなかったとも言い換えることが出来る。
決して4人はそれを軽視しているわけではない。
けれどそれをしなかったのは、4人の共通の目的こそがそのアナウンスによって引き起こされる事象そのものであって、その過程は取るに足らないと考えているからに他ならない。
程なくしてセピア調であった風景がモノクロへと変化する。それとともに目の前に対峙する異形の者もまたモノクロに染められていたが、色調の変化を気にすることなく敵を殲滅する手を休めることもしない。
一層寂しくなった風景を、それも気にせず進めば、寺院の本堂に辿り着く。
中は神聖な空気で満ちていたが、時折上から風化による建物の劣化ととれる石の破片が頭上からぱらぱらと落ちてくる。
敵の殲滅数もある程度まで数えていた者も数え飽きたのか、それを口に出すことはしなかった。
さすが討伐クエストを謳っているだけあって敵の数が多いと言うのが共通の認識であったが、数は多いがその強さ自体はそれほどのものでもないのが救いとでもいうべきなのだろう。
効率よく倒していけばさほど疲労を感じることなく奥へ奥へと進む。
時間的には余裕があったし、休憩を入れても差し支えはなかったが、それを提案するものはいない。
誰もがクエストクリアよりも望んでいるものがあり、それは共通のものであることは、誰が言わなくても察することは容易かった。
しかし、それがいつ起こるものなのか、はっきりとしたことがわからなければ、その歩みも手も休めることが出来ない。
辿り着いたのは前の2冊と同じように祭壇が奉られている1つの大広間のような場所。
そこもまた“清掃”の関係でモノクロの世界へ変わっていたが、祭壇の上に祭られている1冊の本だけはその中で異色を放っていた。
誰かがそれを見てその本の名前を口にする。
そして誰かが部屋に入ろうと足を踏み出したときに、望んでいたものは起こった。
- viewpoint change M-
「やっぱあんたらみたいなのが揃うとあっという間にクリアされちゃうな」
そう言うと、祭壇に祭られている他の2冊に比べれば何の変哲もないととれる古びた本らしきものを手に取る。
そしてそのまま祭壇に腰掛けるようにしてぱらぱらとめくり、「何書いてあるんだかわかんねー」と間の抜けた感想を言う。
顔全体は羊とも悪魔ともとれる異形の者を象ったマスクで覆われていて、着ている洋服だけはフォーマルな場でも使えるような白と黒の衣装。
その姿と声色では男だという事だけしかわからない目の前の乱入者は、俺が望んでいる者とは違ったが、それでもそれと繋がる者であることは間違いなかった。
あちらも俺と会うのは予想通りだったのか、合ったのかもわからない視線をこちらに向ける。
「また会ったね、あれからあの仲間達とうまくやってる?」
「てめぇ……」
あからさまの挑発なのはわかったが、それでもいつものようにうまくかわすことは出来なかった。
どちらにしても俺が反応すれば相手はうれしそうにするんだろう。そんな想像が簡単についていたが、無視も反論もせず淡々に答えることなんて芸当は生憎選択肢に入っていない。
予想通りというか相手は俺の反応を見て面白そうに前のめりになりながら、膝に右腕を乗せて見下すような姿勢を取る。
「ま、よかったんじゃないの?あいつらもあんたの本性を知れてさ」
「…………」
「まさちーのことはどうでもええから、さっさとそれを寄越すかかかって来るかしてくれへん?」
國鷹が挑戦的な目で相手を見定めるが、それも面白いと言ったように受け入れると、ぶらぶらと弄んでいた本を懐にしまう。
「これは欲しがっている人がいるから勘弁してよ。その代わり遊んでやってもいいけど……」
そこで言葉を区切ると後ろをすっと指す。そんなことをされなくてもここにいる奴らは全員気が付いている。
その上で睨んでいることをこいつはわからないでもないだろう。
それでも順番だと言わんばかりに立ち上がるそぶりを見せないままでいると、隣から重たい質量を伴った金属音が聞こえる。
見ればアイギルが斧をおろし低く構えている。斧が床の石にこすれてかすかな音を立てたかと思うと、そのまま一直線に敵の懐に飛び込んでいく。
そのスピードは國鷹には及ばないものの十分速さを伴ったもので、そこから振り上げられる一撃は、あいつの攻撃力を遥かに超えたもの。
風すらも押し潰すように振り上げた大斧にも動じず、着ていたシャツとベストだけがはためく。
「!」
それを受け止めたのは黒いフルフェイスを被った全身黒づくめの影。右腕で受け止めた影からはみしみしと骨のようなものが軋む音が聞こえたが、表情は全くわからない。
「ほら、先に遊んでくれってさ。順番守ってやってよ」
のんきな仲裁が入り、空間を挟んで白銀と漆黒が対峙する。黒い影はその数をいつの間にか3つに増やしていて、さらにそれを守るように不気味な黒い泡のような球体がその周囲にいくつか浮かんでいる。
その中でもさっきアイギルの攻撃を受け止めた影は今まで会った“バグダスター”の気配とは違うのを肌で感じ、そこで初めて全員が警戒を始めると、その様子を見ていた『強欲』を語るヤツが驚きの声を出す。
「へー、全員わかるんだ。“そいつ”が『オリジナル』だって」