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secret GARDEN- Lakhesis -  作者: 蜜熊
QUEST6:Grimoire
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「あ。」


間の抜けた声が聞こえるのと自分のスポーツウォッチ型パスが鳴ったのはほぼ同時だった。


早くもパスを操作し、中身を確認している姿を横目に見ながら同じように自分のものを確認すると、そこには運営側から緊急メンテナンスの文字とともに、ある『クエスト』から早急に引き揚げるよう警告する一文が書かれている。


(まぁ、そうなるのはわかってたけどな)


これで考えていた仮定が証明されたことになるが、問題はそれだけではない。


俺と同じような仮定を考えていた虎が俺と同じようなリアクションをしていたが、それを見ていた國鷹が面白くなさそうに刃物についていた緑色の血のような液体を振り払う。


「おれ、還らへんで」


「誰も還るとは言ってねぇよ」


(むしろ、目的はこれからだ)


目の前の台座にはさっきと同じような祭壇に、今度は肌色とも赤黒色ともとれる不気味な色をした本状のものが置かれている。


無機質だったさっきのセラエノ断章とは違い、今度はまるで生きて呼吸をしているような生ぬるい吐息のようなものを感じさせるそれは、近づくだけで生物が腐ったような、鼻につく悪臭が立ち込める。


「ルルイエ異本……」


確か人の皮で作られたものという噂はあるが、それを丁寧に再現されているとそれはそれで迷惑だ。同じように考えていた虎も、微妙な顔をしている。


それを取らないと先に進む階段出現しないし警告も流れないが、直で触るのも何となく抵抗がある。

そう考えてどうしようかと選択肢を考えていると、それを器用に拳銃で持ち上げた虎が、事もあろうにそれを投げつけた。


「うわ!てか臭っ!!!何!?」


それは見事にあいつの頭の上に乗ると、今まで残っていた敵を踏んで遊んでいた大人子供が大げさにでかい声を張り上げる。


「持っといて」


「嫌やっちゅーねん!うわ!何かざらざらしよる!キモ!」


ちらりと横目でそれを見れば、どこからともなく聞こえてくる不気味な笑い声と、それを聞いて嫌そうな顔をする國鷹と、あくまで自分はやらないスタンスを貫く虎。


(……放っておくか)


下手に何かを言えば俺にとばっちりが来る可能性が十分にある。どうして本から気味の悪い笑い声が聞こえてくるんだとつっこみたかったが、それ以上にあの異臭をどうにか出来るものがなければ触りたくない。


潔癖症という問題でなく、単純に気持ちが悪いものには触りたくないとのは当然だ。


「く……アイテムコード『ブラックホール』」


別にパスにそのまま入れても問題はないのかもしれないが、外見が外見なだけに呪われている可能性もある。


そう考えなのか、単にそのまま入れるのが生理的に嫌なだけなのか、渋々と國鷹が使ったアイテムは、それを1つ持っているだけでパスの所持制限が無限になるアイテム。


持っているプレイヤーはそれこそほとんどいないレア中のレアであるが、それをあの本に使うというのも何ともシュールな話でもある。


名前の通り出現した黒い渦の中に笑い声とともに吸い込まれると、黒い渦もそれに反応してその場で消失する。


「トラの鬼!鬼畜っ!」


「お前そのアイテム持っとるんやから文句言うな」


それに、臭いから近寄るな。とまるで害虫のように扱っているが、それに対して子供の様なリアクションはとっても、決して怒ることはない。


虎と一緒にチームにいたのはほんの少しの間で、それ以降はごく稀に会って挨拶を交わす程度であったが、そんなほんの少しの間でも、こいつと國鷹の関係性はある程度理解しているつもりだ。


単なるいとこ同士・・・國鷹が誘って参加した身内・・・で片づけるにはその関係性はいささか妙というのが結論だ。


チームが解体してから程なくして虎を中心に発足された『MUD HUNTER』、そのチームに誘われたこともある。


断ったときも國鷹は苛立ちにも近い感情を向けてきたが、それも虎が了承すればあっさりと引き下がるものだった。


基本虎が決めたことにこいつは抵抗しない。口だけは勿論あるが、それはこいつの性格を多少なりとも知っている俺にとっては今も謎の一部でもある。


元々わがままで自己中心的な考えで動くことがほとんどであったし、自分の中で絶対の価値観と判断の基準を持っているヤツだと思っていた。それが覆されたのが、しばらくして知り合うことになったこいつの存在だ。


それまで好き勝手にやっていたあいつがそこで初めて他人にも懐くことを知った。


皆守でさえあいつが一度決めたことを覆すのに手こずっていたのに、それをあっさりと手綱をひいてまとめている。


『それは仕方ないよ。オレはあいつの“半分”じゃないから』


あいつが言っていたように血のつながりは半分あるようだが、不思議と実兄弟よりも近いような存在でもあるようにさえ思えた。しかしそんな関係性を奇妙に思いながらも今までは特に気にすることもなかった。


きっと何か事情はあるんだろうが、そういうスタンスならはそれでもかまわない。こっちに害が及ばない限り、目障りであろうが行き過ぎたモノであろうが特に気にすることでもないと思っていた。


『早く戻らへんと、あんたが大事にしとる人形、盗られて壊されるで』


興味を持っているのはわかっていた。だから牽制もしていたし、警戒もしていた。


そうやってあからさまにしておけば、無関心とはいえ損得勘定をしっかりとしている虎がそれを諫めて(いさめて)くれるだろうと考えていた。


(ちっ……)


そのアテははずれだから気をつけろ。と、はっきりと断言されても、もう戻ることなんて出来っこないのに。



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