Phase4-2
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「ベンノ、これを見てくれ」
「なんだこれ?鳥の羽か?」
ジークフリートに見せられたオデットの羽に、ベンノが首をかしげる。それをどこか得意げにかざすその頬はうっすらと紅潮していた。
「昨日私は美しい姫に出会ったんだ」
「その姫とその鳥の羽はどんな関係があるんだ?」
「約束したんだ」
昨日の不思議な出来事とオデットとの約束を話して聞かせているのを聞きながら、ほんの少しだけほっとする。
『私が永遠の愛を誓ってあなたにかけられた呪いを解いてみせます』
『あなたが来られないのなら、私は決して他の女性を選んだりしません』
「へぇ……そんなに君の心を掴む女性がいたとはな……」
「私も自分のことながら驚いているよ。けれど、あのとき私の心は彼女に奪われてしまったのだ」
2人の様子をこっそり盗み見て、王子の言葉に嘘がないのが伝わってくる。
(よかった……)
あの惨劇の後でそんなことを思うのは奇妙かも知れないけど、あの人達の中であの惨劇が『ないもの』として扱われているのなら、それに超したことはないのかもしれない。
あんな風景は、ゲームの中だけで十分だし、それを見ない選択が出来るのなら、私もそうやって目をつぶって忘れていたい。
今王子はただ目の前の白い羽を見て、オデットを想っているんだろう。
「ほら、あなた!ちゃんと掃除をなさい!」
「す、すみません」
手元が疎かになってしまったために止まっていた箒を再び動かし出す。物語のクエストの中ではどのような役割になっているのか、どのクエストを受けるのかもわかっていなかったから緊張していたけど、こういう役割なら何とか話についていけそうだ。
そう思いながら昨日のことと、もうすでに物語の中では過ぎ去ってしまったあの『なかったことにされた』シーンを頭から振り払うように箒をかける。
メアリーさんとナイチンゲールさんは城に招かれた別国の客人という役柄で、今は城のどこかにいるようだったけど、同じようにクエストを受けていてもそんな役柄の違いがあるなんて、本当にその点だけはこのゲームの仕組みのすごさに驚くしかない。
(後1人って……いつ合流するんだろう……)
昨日の夜、あのシーンが焼き付いて離れず、少しでも綺麗なものを見て気持ちを紛らわせようと夜の廊下を歩いていたとき、それはメアリーさんからまるで秘密を打ち明けられるように教えてもらった。
(でもなんで秘密なんだろう……)
ここにいるのは3人だけで、秘密ということは自然とナイチンゲールさんには知られたくないだというのはわかることだけど、秘密にする理由がわからない。
4人定数のクエストで、1人増えるというのは喜ばしいことであっても特に警戒する理由もないはずなのに。
『彼女は心配し過ぎるから……』
そう言っていたけど、それで安心することはあっても心配するようなことはないと思う。
それに、肝心の1人については誤魔化すように笑われるだけで教えてくれなかった。
「…………」
何だろう、この気持ち。どうしてこのクエストが始まる前からずっと続いていて、今も治まることがないんだろう。
昨日のようなことがまたあると、警告を鳴らされているんだろうか。
昨日のは結局あの大量の烏が悪魔の手先で、それを殲滅させないと王子と白鳥達に危害が加えられてしまうと考えてみれば、確かにかわいそうだったけど納得も出来る。
ただ、納得出来るものにそれでも警告を鳴らしてくるのは、どうしても納得出来ない。
まだ、何かあるのだろうか。
(……わからない)
自分の事なのにわからないなんておかしいかもしれないけど、今までわからないこの警告がずっと私を守ってきてくれたのも事実なわけで、それをあっさりと無視することも出来ない。
ただそれがひどく気持ちが悪く、収まりがつかないだけ。
「……今夜……何かわかるのかな」
広い廊下にぽつりと零した自分の言葉だけが、やけに大きく聞こえた。