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影操師 ―始まりと終わりの物語―  作者: 伯灼ろこ
第四章 アルファとオメガ
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 5節 市蓮

 崩れた壁の外には、笹楽坂家の裏庭が広がる。一歩、足を踏み出すと同時に振り下ろされる一筋の刃。

「……誰?」

 刃は空を切り、悔しげに離れていく。

「茴よ。何故、戻ってきたんだ。お前までが市蓮様に取り込まれれば、世界は一体、どうなると思ってる!!」

 茴の行動を監視していた、蓮華村のシャドウ・コンダクターたちがぞろぞろと姿を現す。

“貴様らは、茴を殺す派か?”

 フィーネが問い掛けている内容に、茴は首を傾ける。

「そうだ。茴を亡き者にし、市蓮様にはオメガの能力を諦めてもらおうとしていた。しかし組織の介入により失敗を繰り返し、この有り様だ」

 焼け焦げた村を見渡し、シャドウ・コンダクターの男性は自嘲する。

「やはり先に泪を殺すべきであった。赤子の頃より我々に懐き育ってきた少年に、情けなど、かけるべきでは……」

 蓮華村のシャドウ・コンダクターは、その攻撃範囲に意識の無い泪までをも加えている。

「蓮華村の中で、君を殺す派と生かす派に分かれていたんだよ」

 黄金の弓ヴュリズ・アルケットを構え、ゆうが裏庭へと出て来る。

「殺す派はこいつらと、あの叶里八汚染の夜に茴を襲った集団。その理由は、そいつが言ってる通り――市蓮にアルファとオメガの能力を与えない為。生かす派は、市蓮側についてる人間。市蓮に狂信し、神となる手助けをしている」

「ふうん……私と兄の命は、こんな人たちの掌上で弄ばれていたのね」

 ぎろりと睨む茴の眼は鋭く、右手には変容剣フェルツァがしっかりと握られている。

「1つ、言っておくわね」

 茴はフェルツァを振り上げ、<自分を殺す派>のシャドウ・コンダクターたちの首に狙いを定める。

「心配してもらわなくとも、父は神などになれないわ。何故なら、私がゼウスを解放した後――父を殺すから」

 剣と弓が幾つもの首を吹き飛ばす。舞い上がる血飛沫の下を潜り抜け、茴とゆうは木の根元へと走る。

 根元は、蓮華村の裏山の奥深く――フィーネが封印されていたあの祠のすぐ後ろにあった。

 茴はその場所で、見たことのない、しかしそうだと確信出来る男性を発見する。

(お父……さん)

 立派な口髭をたくわえ、着物がよく似合う厳格そうな男性。

 茴から世界平和という名の下にシャドウを引き剥がし、16年のもの間軟禁。そして今は、その兄からシャドウを奪い――蓮華村を焦土とした全ての元凶。

「お父さん……お願いがあるの。ゼウスを――」

「おい! そいつは組織がなんとかするから、お前らは下がっていろ!!」

 茴を<生かす派>のシャドウ・コンダクターたちを始末した七叉たち異端審問班が合流する。

「なんとかする? この笹楽坂市蓮も舐められたものだ」

 低い笑い声を絞り出し、市蓮がこちらを振り返る。

「絶対神であるゼウスを得た私に、貴様ら組織が刃向かえると思うておるのか」

「その言葉をそっくりそのまま返させてもらう。本来アルファの器でないお前に、組織が屈するわけがない」

 七叉は白く輝くシャドウ――白輝はっきを召喚し、無数の破魔矢を巨大化した木へと放つ。神々しい爆発が辺りを包み込むが、木へのダメージは皆無であった。七叉の眉間に深い皺が寄る。

「ふん、立派なのは口先だけか。片腹痛いぞ、小僧。――我が名は笹楽坂市蓮。木を司るシャドウ・コンダクターにして、ベネデット・アラーの力を継ぐ者!」

 市蓮の指示により、木の枝が刃となって次々と上空より降り注ぎ、山肌に突き刺さってゆく。異端審問班の数人が串刺しにされ、悲鳴が巻き起こる。

 茴は迫り来る枝を避けて、肩に乗るフィーネと共に市蓮に接近する。

「お父さん! お願いよ、ゼウスを解放して! このままじゃ、兄さんは死んでしまうわ――!」

 市蓮は茴に向けて、父親らしい微笑みを捧げる。

「……茴。ああ、私の可愛い娘」

「そっ……そうよ。私はあなたの娘よ。大好きなお父さん、その娘の頼みを――」



(ゼウスを解放した後、お前は私を殺すつもりなのだろう?)



 直接脳に響く、とてつもなく低い声。笑いを含んだ、父の念話。

「う……!」

 首を鷲掴みされ、宙吊りにされた茴は足をバタつかせる。

「ありがとう、茴。まさか自ら私の元へ帰ってきてくれるとは思わなかった。私に、神となる力を与えに」

 茴はフェルツァを振り上げるが、それは巻き付いた枝によっていとも簡単に奪われる。

「妹の芳乃にも感謝せねばならんな。わはははは」

“やめろ、市蓮! 貴様は勘違いしている。その器でない貴様では、アルファは操れんぞ! いや、そもそも本来司っている属性ではない属性を無理に取り込むこと自体が”

 吠えるフィーネを見下ろし、市蓮は「ハッ」と笑う。

「なにを見て言っている? 事実、私はゼウスを取り込むことに成功をした。次はお前だよ、フィーネ」

“愚者が!! 今に見てみろ、<ゼウスの暴走が始まる>……”

 フィーネのその言葉が、合図であった。それまで市蓮の指示によって動いていた木は突如として止まり、一瞬の静寂が訪れる。

(え……?)

 本当に、静かなのだ。自分の呼吸すら、聞こえないほどの、無音。

 その次の瞬間――。

“ああぁぁあぁぁあぁあああ!!”

 ゼウスの絶叫。

 目に見えない波動が蓮華村を襲い、茴たちは散り散りに吹き飛ばされた。

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