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影操師 ―始まりと終わりの物語―  作者: 伯灼ろこ
第四章 アルファとオメガ
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 3節 覚悟

 轟々と燃え盛る炎は、禰佐村という存在、それにまつわる歴史や思いを全て灰にした。影人の発見が遅れ、蔓延してしまうとこういう一途を辿る他ない。

「17時30分、禰佐村の焼き討ちは完了です。生存者はゼロ。はい……はい……え? このまま次の任務へ向かえと?」

 リーザス隊長が組織に任務完了の報告をしている最中、連続して次なる指令が下ったようだ。茴とゆうは顔を見合わせ、リーザス隊長の通信が終わるのを待った。

「……諸君、どうやら今晩のドラマに間に合いそうにないらしい。次なる任務だ」

「あー、別に大丈夫っすよ。俺はあのドラマ、別に見たくないんで。……で、また焼き討ちですか?」

 女たらしのマオが、非常にだるそうではあるが任務続行への意志表示をする。続いて七叉、ゆうと茴も意志表示をした。

「ああ、次の任務も焼き討ちだ。場所は……ここからはかなりの距離があるな。蓮華村、というところだ」

「…………!!」

 焼き討ち場所の名を聞いた瞬間、茴は立ち眩みを覚え、背後に倒れそうになるところをゆうに支えられる。

「どうした茴、大丈夫か」

 一応の心配をしてくれる七叉に大丈夫と言い、蓮華村が何故焼き討ちの対象となったのかをリーザス隊長に聞く。

「蓮華村が隠れシャドウ・コンダクターの里だからだ。君は組織の人間ではないから知らぬだろうが、組織に属していないフリーのシャドウ・コンダクターが独自に団体を結成することは禁じられている。影人という1つの敵と対するのに、コンダクター側がいくつもの派閥に分かれていては統制が取れないからな。総帥に反旗を翻す可能性もある」

「では、この焼き討ちは、禰佐村のように汚染を浄化するのではなく、組織にとっての不安因子を根絶やしにする為の……」

「そうだ。次の敵はシャドウ・コンダクターの集団。これは激しい戦いとなるぞ――無論、組織も応援を送り込む予定らしい」

 これで蓮華村の悪事が世に出ることとなる。組織によって蓮華村のコンダクターたちが根絶やしにされれば、現在のように怯えて暮らす必要など無くなるし、フィーネだって敵意を剥き出しにする相手がいなくなって安定してくれるかもしれない。

(けど、本当にそれで良いの?)

 蓮華村は茴が生まれ育った村。辛くて悪い思い出しかないところだが、自分が16年もの間、過ごした村の焼き討ちを他人などに任せて良いのか。

(駄目よ。それだと、心の重りは取れないわ。自分自身の手でカタをつけなくては、この先いつまでも蓮華村の陰が付きまとう気がする)

「どうする? 来るのか、来ないのか。無理強いはせんぞ。お前は組織の人間ではないからな」

 自身のシャドウに跨るリーザス隊長は、いつでも出陣出来る準備が整っていた。

「――行きます」

 茴は自ら進んでアルイェンの背に跨った。ゆうは「本当に大丈夫なの?」と茴に小声で尋ねるが、茴はハッキリとした口調で「平気」と言った。

「そう、わかった。でも耐えられなくなったら、僕に言うんだよ」

 焼き討ち部隊は、新たに追加された任務の戦地――蓮華村へと出陣する。

 いくつもの山を飛び越え、蓮華村へ近付くに連れて意志とは関係なく震える茴の身体。身体に染み込んだ恐怖と絶望が、蓮華村へ行くことに拒絶反応を起こしているのだ。無意識的に握り締めていたゆうの手。ゆうはそんな茴の手を握り返す。

「なんだぁ? 村が燃えてるぞ」

 伊佐薙マオは白虎から身を乗り出して地上を見下ろしている。黒々とした煙が行く手を阻み、その発生源は、地上にて村まるごとを飲み込んでいる炎だ。しかし炎は後発のもので、それよりも先に落雷による被害を受けた模様だ。

「あれは蓮華村か?」

「――青鹿村です」

 即答する茴に、リーザス隊長は訝しげな表情を向ける。

「隊長、青鹿村は蓮華村のかなり近くに位置しています。何故、燃えてるのはわかりませんが、蓮華村は目と鼻の先ですよ」

 七叉は蓮華村の座標を測定しながらリーザス隊長に説明をする。

「うむ。ではそろそろ地上に降下するぞ」

 全員が地上に足を着けたのとほぼ同時刻、組織からの応援と思われるシャドウ・コンダクターの部隊も現れる。だが、様子が少しおかしい。

「リーザス隊長、これよりは我々の指示に従って頂きます」

 応援部隊を率いてきた隊長がリーザス隊長に頭を下げ、しかし高圧的に命令をする。リーザス隊長は不服そうではあるが、総帥の命令ならば――と聞き入れた。

「では、焼き討ち部隊と我々応援部隊は異端審問班として、そのリーダーには相模七叉殿に就いて頂きます」

 メンバーの中にどよめきが起こる。組織の応援部隊と合同で蓮華村を壊滅させることだけが目的であったのに、まさかのリーダー変更、しかも七叉を指名するなど、そんなこと聞いてないとざわつく。しかし当の相模七叉には知らされていたようだ。

「申し訳ございません、リーザス隊長。これも総帥の御命令ですので」

「……うむ」

 七叉は焼き討ち部隊と応援部隊の間に立ち、自分がリーダーであることを示す。そして新たに結成された異端審問班の面々に向けて本来の目的を語る。

「実は蓮華村を壊滅させねばならない理由が、もう1つあるんだ」

 七叉は片手に腰を当て、茴を見る。

「それは――……呪われしアルファとオメガを司りし2人のシャドウ・コンダクターを始末すること」

「?!」

 すぐさま茴の前に立ち、庇うゆう。2人は、応援部隊として派遣されてきたシャドウ・コンダクター20名に取り囲まれた。焼き討ち部隊の面々は未だ状況が理解出来ていない。

「七叉さん! これは、なんの茶番ですか?」

 ゆうの右手には黄金の弓が握られている。七叉はゆうからの殺気を悲しげに感じ取る。

「柊……俺をあまり失望させないでくれ。俺はお前の実力を認めているし、総帥だってお前の能力を買っている。そんな呪われた女なんかの為に人生を棒に振る必要なんてないんだぞ」

 七叉の冷酷非情な物言い。ゆうは茴を手放すどころかしっかりと抱き寄せ、叫ぶ。

「まず理由を聞かせてください。何故、組織がアルファとオメガを呪われてると判断しているか――尤も、何を聞いたところで僕は茴を渡すつもりはありませんが」

(ゆう……)

 七叉を鋭く睨むゆうの横顔を見て、茴は呑気にも喜びを覚える。

 この状況において、茴は冷静であった。心のどこかで、組織を信用していなかった茴にとってこの事態は想定の範囲内に過ぎなかったのだ。

(やっぱり、私、呪われてるのね)

 しかし、組織の認識は蓮華村とは違い、アルファまでもが呪いの対象となっている。

「七叉さん、私の存在が呪われているのは……言われなくともよく分かってます。でも、どうしてアルファもなんですか? 蓮華村にとってアルファは希望の光であり、神に近い存在――」

「笹楽坂茴。お前と蓮華村の関係についてはすでに調べさせてもらった。それまでの人生については十分に同情されるべきものであるが、ただ司っている属性が悪い。笹楽坂家は終わりを司る者だけを不吉の予兆としていたが、俺たち組織にとって始まりも終わりも同一だ。終わりがなければ始まりは無い。始まりがなければ終わりは無い。つまりどちらも始まりであり、終わりであるんだ」

 七叉の説明は難解で、焼き討ち部隊の面々は首を傾けている。

「つまり……こういうことね。本来、始まりと終わりは1人のシャドウ・コンダクターに宿るものであり、そもそも別々になっていることがおかしい。アルファとオメガを1人が司ることにより調節がしやすいのだけど、片方だけを司る不完全な私と兄では、どちらにせよ世界を危機に晒すだけだ――と」

 だから、そんな不完全な出来損ないは殺してしまえ。

 光だけを汲み取り、闇を閉じ込めてきた笹楽坂家とは間逆で、清々しいほどさっぱりとした考え方だ。

“どうしますねん? ゆう様。今回は相手がお悪いですなぁ”

 組織の恐ろしさも、ゆうが茴をどんなに大切に想っているかも、どちらも知っているアルイェンにとって頭が痛い問題だ。

“せやけど、わしはゆう様の下僕です。ゆう様が組織を敵に回すと決めたんなら、それはそれで全力で協力致しまっせ”

 アルイェンの覚悟。ゆうは自分の足元を見つめ、穏やかに微笑んだ。

「僕は――」

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