8話 滅龍師の片鱗
『血塗れの邪龍』
それは、『炎竜』の亜種。
竜の突然変異種は邪龍と呼ばれ、それらは例にも漏れず、全て獰猛だ。
尤も、絶対的に個体数が少ないために安全な討伐法が確立されていない。故に、討伐推奨ランクSSに指定されている。
『血塗れ』。それらの邪龍の中でも特に好戦的で、生物の血を好むことに由縁する。
(ちっ、奴等に気をとられていて接近に気付かなかった………… 俺としたことが…………)
回りを確認すると、シャサ、ジンは『血塗れの邪龍』の圧倒的な存在感に威圧され、腰を抜かしている。しかし、ヘレンは驚きはしているものの充分戦えそうだ。
「カナ、頼む!!!」
「うん。シュウも気を付けて………」
たったそれだけの言葉で、カナは俺の意図を察してくれた。
「ヘレン! カナの援護を頼めるか!!」
「え??! ………… 分かりました。」
いきなり頼まれたことに随分と驚いていたが大丈夫そうだ。
「よし、ヘレン。 任せたぞ!」
ヘレンにそう言うと、カナは魔獣の群れを殲滅するための魔法の詠唱に移った。そして、俺も『血塗れの邪龍』に向き直る。
「さぁ、『血塗れの邪龍』。
殺してやるよ。」
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シュウと、龍は向き合う。その相対する様は、アリと象を連想させる。龍が相手を威嚇するように、鋭く咆哮した。しかし、シュウに怯んだ様子は全く見られない。
シュウがなにやら呟くと、赤く煌めく炎がシュウを包み込む。それは、思わず見とれてしまうほど幻想的な炎だった。
しかし、龍はそれをただ見つめているだけ。それは、余裕の顕れか。
シュウが左手をつき出すと、そこに煌めく炎が収束していく。顕れたのは、あの炎と同じ色の鞘に納まった、一本の長刀。それをシュウは静かに抜き放つ。
刀身は禍々しく光輝く紅。それは血を欲するように妖しく光っている。
「行くぞ。」
シュウがそう呟くと、龍に向かって走り出す。
《グルアアァァァァァアアア!!!》
龍が雄叫びをあげながら灼熱の火炎を口から噴き出が、構わず突っ込んでいく。シュウが刀を一閃。
〈ズバン!!! 〉
剣風の斬撃が炎を切り裂く。散っていく炎が木々へ燃え移ると、一瞬にして灰へと変わる。生い茂る森に、その場所だけポッカリと穴が空いたように見えてしまう。
シュウがその惨劇を見ていると、龍の両手の鉤爪がシュウを引き裂こうと高速で振るわれる。それを右へ左へと華麗に捌いていく。
龍が苛立たしげに大きく振りかぶった。その隙を見逃すほどシュウは愚かではない。
シュウが龍の懐へとスっと潜り込む。下から上え切り上げると、龍の胸元から首筋にかけてパックリと開き、辺りに鮮血が飛び散った。しかし、龍にはあまり利いた様子はない。
だが、龍が一瞬だけ怯んだ隙に刀を地面に突きたてた。すると、刀から紅蓮の炎が立ち上る。
そこを中心として、炎が大きな魔方陣を描きながら広がっていく。それに合わせるように、シュウが詠唱を始める。
「我が炎よ。囚われし龍に永遠なる絶望を。
『束縛の紅蓮』!」
シュウがそう叫ぶと、その魔方陣が浮かび上がったかと思うと、無数の炎の鎖となって龍に襲いかかった。龍は鋭い鉤爪を荒々しく振るい、迫り来る鎖を攻撃するも、実態の持たない炎の鎖には何の意味も成さない。
果たして、炎の鎖は龍へと巻き付いた。炎の鎖は次第に大きく、そして更に燃え上がり、龍の体を締め上げていく。
《グギャァァァァアアアア!!!!!》
龍はもがき苦しみながらも、必死に鎖を引き千切ろうとするが、もがけばもがくほど鎖は食い込んでいく。
「諦めろ。 お前ごときがその魔法を破れるわけ無かろう。」
そう言うと、おもむろに右手を上げた。すると、シュウの体から黒炎が迸る。そして、シュウの周囲に黒い塊ができ始めた。
光沢のある、しかし何処か禍々しさを感じさせる球体が龍の回りに無数に浮かんでいる。
「さぁ、これで終わりだ。
貫け、『終焉の流星!!』」