7話 サバイバル 後編
俺は、4人を撃退したと認識し、意識を通常状態に戻したところで、カナがこちらに走ってくるのが見えた。俺がカナに笑いかけると、カナが抱きついて来た。
「シュウ。かっこよかったよ………」
「ありがと、カナ。」
俺はそう言いながら、カナの綺麗な銀色の髪を優しく撫でた。すると、嬉しそうに目を細めた。
「さ、早くヘレンたちのとこに行くか。大丈夫だとは思うが、少し心配だからな。」
「………うん」
俺が撫でるのを止めると、物欲しそうに見つめてきた。そんな何気ない仕草なのに可愛く見えるから反則だ………そんなカナに軽くキスをしながら、俺ってカナに甘いのかなぁ……… などと考えていた。
俺達がヘレンたちの気配のする方に走っていくと、そこでは既に戦闘が行われていた。
俺は3人の実力を確認するため、しばらく傍観することにした。
ヘレンたち3人に対して相手側のグループは4人と、既に一人が脱落していた。
「ジン!!」
「よっしゃ!!!」
「タイミングを合わせてくださいね!」
そう言うと、ジンが、綺麗にきらめく炎を拳に纏わせ、一人で相手側に突貫していった。
一見無謀に思えたそれは、次の瞬間納得へと変わる。
「フラッシュ・インパクト!!!」
「ウィンド・コネクト!!」
女性特有のよく通る声が辺りに響く。そして、シャサの光魔法とヘレンの風魔法が発動した。青白い閃光。さらに、絶妙なタイミングで放たれるジンへの風の補助魔法。
その刹那のタイミングを見極めたジンは、風の補助魔法の効果で得た速さに物を言わせ、光の閃光によって視覚を潰せれた相手の背後へと一瞬で回る。
ジンを見失った4人は、急いで魔法の障壁を張って奇襲に備えるるが、彼らのすぐ後ろから放たれた炎には意味をなさない。さらに、前方から無数の水の槍と光輝く風の斬撃が飛来する。ようやく目が回復した彼らは、目の前の光景に目を疑う。
驚きながらもそれらを相殺しようと魔法を使おうとする者、悲鳴をあげて逃げ出そうとする者、そんな彼らに容赦のない魔法が襲いかかる。
目の眩むような激しい爆発が発生し、辺りに熱風が巻き起こる。その衝撃により、周囲の木々が盛大に倒れていく。爆発により発生した煙が晴れると、そこには4人の姿はなかった。しかし、その代わりだと言わんばかりに、そこだけ地面が大きく抉れているのが見て取れた。
それは、先刻の爆発に、凄まじい威力が籠めらていたことを如実に物語っていた。
その戦闘の一部始終を見ていた俺達は、ヘレンたちに労いの言葉をかけるべく彼らの下へと向かった。そこには、精魂尽き果てたと言わんばかりに地面に転がっているジンとシャサがいた。
ヘレンはというと、安堵の表情を浮かべていたが、全く疲れを感じていないようだった。
(流石だな。 ヘレンはギルドランクSのやつらと比べてもなんら遜色ない。この歳でここまでとは………
相当辛い修行をしてきたんだろうが、何がヘレンをそこまで突き動かしているんだ………
気になるが…まぁ、俺には関係ないことだな。)
そう思っていると、3人がこちらに気づき、シャサが声をかけてきた。
「シュウ、カナ!! 大丈夫??」
「あぁ。 カナもいたから余裕だった。」
「シュウが助けてくれた………」
そう言って、3人と合流を果たした。
「お疲れ、みんな。 さっきの連携すごかったぞ。」
「ありがとうございます。 結構練習したんですよ?」
と、ヘレン。どこか誇らしげだ。
「あぁ、ヘレンはすごかったぞ。 あ、ジンもシャサもな。」
俺がそう言うと、ヘレンは顔を赤くしながら俯いてしまった。
(あれ? もしかしてヘレン………?)
「俺たちはついでか! シュウ!!」
「まぁまぁ、そう怒るな。 それより、早く行った方が良くないか?」
俺のその言葉に、ハッとした2人は勢いよく立ち上がり、服についた土をパンパンと払い落とした。
「みなさん大丈夫そうですね。 あともう少しだから、早く行きましょう。」
ヘレンはそう言い、小声で素早く詠唱をすると、辺りにそよ風が吹いた。
ヘレンは、自分の魔法の効果を確かめると早速歩き出した。
しばらく歩くと、拠点として使うにはとても良い場所が見つかったため、俺達は早速準備に取りかかった。テントなどを張り終えたところで、いい感じに暗くなって来たので、今日はもうゆっくりすることにした。
「なぁ、ここに来る途中で一度も魔獣に会わなかったが、そんなことはあるのか?」
先刻からずっと気になっていた疑問を口にすると、全員の視線が俺に注がれた。
数秒ほど無言で見つめられ、居心地が悪くなったので、この沈黙を打ち破るべく俺が口を開きかけた。だが、俺の言葉はヘレンによって遮られてしまい、喉まで出かかった物を呑み込むことになった…………
「そういえばそうですね。ずっと順調に来ていたから気付きませんでした…………」
「まぁ、そんな気にする事でもないだろ。運が良かったって事でいいじゃないか!!」
ジンがそんな事を言ってしまったため、全員がそれについて考えるのを止めてしまった。
(まあ、考えすぎか………… )
そう思い、俺もその事は忘れる事にした。
しばらく雑談をしていたが、大分夜も更けてきたため、俺達は寝ることにした。
「なぁ、シュウ達は本当にテントを使わなくてもいいのか?」
「あぁ、全く問題ない。 というか、テントで寝ると中々寝付けなくてな。 俺達は木上で寝るから問題ないよ。」
「いや、でも………」
「ジン。シュウがそう言ってるんだから別にいいでしょ。」
「そう言う事だ、ジン。 心遣いは有り難いが、諦めてくれ。」
「はぁ、分かったよ。 けど、シュウ。もしテントを使いたくなったら何時でも言えよ。」
「わかった。ありがとな。 それはそうと、お前達は今日の戦闘で結構疲れてるだろ? 俺達はそんなでもないから先に不寝番をやるよ。 交代の時に起こしてやるからしっかり休め。」
「…………あぁ、ありがとな。そうさせてもらうよ。」
ジンは余程疲れていた様で、あっさりと折れた。
それはシャサも同じだったようで、大きく頷いていた。ヘレンも少し考え込んでいたが、二人と一緒に休む事にしたしたみたいだ。
「それでは、シュウ、カナ。 お願いします。」
ヘレンがそう言うと、テントに向かって歩き出そうとしていたジンを呼び止めた。
「おい、ジン!」
「どうした、シュウ?」
「可愛い女の子と一緒のテントで寝るんだ。間違っても、シャサに変なことをするじゃないぞ。 しっかり時と場所を考えろよ。」
「おい、シュウ!! 俺がそんな奴に見えるから?!」
「まぁ、そんな事しないとは思うけど一応な。」
「ったく。何を言い出すかと思えば……… 」
ジンはブツブツ言いながらテントの方へ行ってしまった。しかし、俺とジンのやり取りを聞いていたシャサは、顔を真っ赤にしながら俺を睨むと、急いでテントに入って行った。
そんなシュウをよそめに、
(少しからかってみたが、シャサの反応が実に面白いな……… )
などと考えていた………
その次の日も、いくつかのグループを撃退し、順調にサバイバルをこなしていった。ちなみに、食べ物は、森に住む野生の動物を狩りそれを調理して食べている。
そして、3日目に突入した。
日が沈みはじめたので、拠点へ戻ろうとしていたところ、例の貴族たちと遭遇した。
「カナさん!!」
そんな声の聞こえた方へ目を向けると、そこには、カナを俺のものだとか言っていた、エルドレット家の長男がいた。
「お前、まだ残ってたのか。 なかなかしぶとい奴だな。」
「くっ、黙れクズが!!! お前なんかに俺のカナは渡さない!!!!! 」
などとほざいているので、今度こそ再起不能まで痛め付けてやろうとしたのだが………隣には、それだけで人を殺せてしまうのではないかと思うほどの怒気を纏ったカナがいた。
どうやら奴は、カナの逆鱗に触れてしまったらしい。
「シュウはクズ何かじゃない!!」
カナは奴に向かってそう叫ぶと、無数の光の槍を光速で放った。それを全方位からまともに受けた奴は、地面へと這いつくばった。転移されなかったとこをみると、カナはどうやら力を加減していたらしい。
「っぐはっっっ?!!
ひぃ……… ごめんなさい!!」
「私に謝らなくていいわ。 それに、今さら謝ったところで、もう遅いから。 とりあえず、死んで………」
カナはそう言うと、一発一発が先程の数百倍の威力が籠められた槍を無数に作りだすと…………………
『ギャアアァァァァァァアアアア!!!!!!!』
突然、回りからそんな叫び声が聞こえてきた。俺は驚きながらも周囲を見渡すと、俺達は大量の魔獣の群れに囲まれていた。そして、その叫び声が聞こえた方をみると、そこには…………
血のような赤い鱗に覆われた、『炎竜』の亜種、
『血塗れの邪龍』がいた。