5話 なによりも愛しい人
「貴様!! 俺のカナになんてことするんだ!!!」
「……………… は?
お前………………今なんて言った?!」
俺は、禍々しい殺気を放出しながら、内から留めなく流れ出す激情に身を任せ、奴を………………
「シュウ! ダメ!!!!」
カナは、今にも奴に飛びかかろうとする俺の体に必死にしがみつき、そう叫んだ。
「カナ! どうして!! 俺は奴を………………」
「ダメ、シュウ!! ここは学園なんだから!!!!」
………カナの叫びで我に帰った俺は、殺気を抑えて心を落ち着けようとした………
俺殺気に充てられて完全に腰を抜かしている奴を睨んで………
「おい、そこ!!! 何をしている! さっさとグループを報告しにこい!!」
「………ちっ」
空気を読まない、あまりにも無神経な先生によって、その一触即発の雰囲気はぶった切られた。舌打ちをし、先程まで腰を抜かしていた奴を一瞥すると、そいつは………
「い、命拾いしたな!! カナさんはお前なんかに絶対渡さないからな!!!!!」
そいつの取り巻きなのであろう奴らと一緒に急いで離れて行った。
「カナ、ありがと………」
「シュウは悪くない……… 悪いのはあっち。」
カナはそう言うと俺をギュッと抱き締めてくれた。それだけでも嬉しくなる。
「カナ、あいつらは誰? カナのことを知っているようだったけど………」
「さっきシュウに殺されかけたのは、エルドレット家の長男。
この学年ではかなり強い方だって聞いたよ。」
「なるほど。あいつが………」
エルドレット家とは、五大貴族のうち、炎の属性を担っている家である。炎の扱いにおいては特に秀でており、単純な攻撃力では五大貴族の中でも一番高い。
故に、自分たちが最強だとし、自分以外の他者を蔑む。
「シュウ? そんなことよりグループは決まった?」
俺が先程のやつらについて考えていると、カナがそんなことを聞いてきた。
「あ、忘れてた。 カナ、もしよかったらカナのとこ、入れてくれないかな?」
「シュウ、私が断ると思ったの?」
「……ちょっと不安だっただけさ。 で、いいの?」
「ちょっと間が合ったけど………
みんないい人だから大丈夫だよ。 さ、早く行こ!」
「うん。じゃぁ、案内よろしく。」
俺がそう言うと、カナは歩き出した。
「カナ? そっちの人は?
随分仲がいいみたいだけど………」
「じゃぁ、みんな。紹介するね。
私の隣にいるのは、シュウ。 私の彼氏。」
カナがそう俺を紹介すると、カナの友達だと思われる目の前の2人は目を丸くした。
「初めまして。 シュウって普通に呼んでくれ。」
そこで、赤髪の男子生徒と水色の髪の女の子はようやく我に帰り、自己紹介をしてくれた。
「あ、俺はジン・オルガ。
これからよろしくな、シュウ!!」
「初めまして、シュウさん。
私はシャサ・ルミネリアです。よろしくお願いします。」
「よろしく、ジン、シャサさん。
3人共カナの友達?」
(ジンとシャサか。二人共、いいやつみたいだな。実力もなかなかだし、カナにもいい友達ができて良かった………)
と、大分過保護なこと考えていると、カナが俺を紹介してくれた時、他の二人とは少々違う驚き方をして、俺をずっと見つめていた、もう一人の女の子が自己紹介をし始めた。
「………私は、ヘレン・リーデルタです。よろしくお願いします」
ヘレンはそう言うと、どこかぎこちないお辞儀をした。
(さっきのはなんだったんだ? 俺の勘違いか?)
そう思いながらも、俺は違うことを聞いた。
「リーデルタか………
俺は生憎、相手を敬うってことを知らなくてな、普通に接してもいいか?」
「えぇ、普通に話してくれると嬉しいわ。」
ヘレンが言質を取ったので、俺は普段通り振舞うことにした。
「それで、3人ともカナの友達ってことでいいのか?」
「そうですよ。
それで、シュウさんに一つ聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
「いいぜ。
で、何が聞きたいんだ?」
この質問はヘレン。先程のこともあったので、少し気を引き締めてから返事を返したのだが………
「それでは、カナさんとはどういう関係なのですか?」
(あ、そんなことか……… 警戒して損したな………)
「ん? カナと?
さっきカナが言った通りの関係だがどうかしたか?」
「いえ、少し気になったので………」
と言って、どこか寂しそうな表情をした。
(?? 俺はこいつになんか不味いことでもしたか?)
ヘレンの態度に何事かと訝しんだが、ジンによって思考を中断させられた。
「なぁ、シュウ。 もし良かったら俺らのグループに入らないか?」
「ん? あぁ、入れてくれると有難いが、他の2人はいいのか?」
「私は全然構わないわよ。」
「シュウさんとはもう少しお話してみたいので、入っていただけると嬉しいです………」
「だ、そうだ。 シュウ、どうする?」
俺は断る理由もないので、素直にいれてもらうことにした。
「じゃぁ、お言葉に甘えて入らせて貰うよ。 カナもいるしね。」
「じゃぁ、シュウ。 改めてよろしく!!」
ジンが手を差し出してきたので、握手をした。
「なぁ、先生に報告しに行かなくていいのか?」
先程の先生の言葉を思いだし、ジンに聞くと………
「あ!! 忘れてた! じゃぁ、俺が行ってくるよ。」
ジンはそう言って、何処かに走って行ってしまった。
Side ヘレン
私達が男の子たちに囲まれていると、突然カナがどっかに走って行ってしまった。
私はカナの走って行った方に視線を向けようとしたのだけれど、さっきとは違う男の子に声をかけられてしまい、少し目を離したらカナを見失ってしまった。
男の子たちからの勧誘を一通り断り終えたところで、カナが帰ってきた。
カナはとても楽しそうに、隣にいる男の子と話をしながら私達のとこまできた。
(あんなに嬉しそうなカナ、今まで見たことない………)
そう思い、隣の男の子の方に意識を向ける。その男の子は、黒髪で、引き込まれるように綺麗な赤色の瞳が特徴的だった………
「え…………… シュウ…様?」
あのときからずっと思い続けていた、私の目標であり、そして、なによりも愛しい人がそこにいた……………