3話 学園長は愛人?
「貴方、あの落ちこぼれのシュウね? 私たちのような選ばれた人間にこんなことをしていいと思っているの?!!」
「は? ……誰?」
シュウは目の前で叫んでいる女が誰なのか、本当に分からなかった。実はシュウは、自らの能力を解放したときに、無意識で憎しみや悲しみといった負の感情を封印したのだが、その時にそれらと一緒に家族との思いでも封印してしまっていたのだ。
尤も、思い出という名の家族達の情報だが………
だが、それは完全な封印ではなかったため、時間の経過とともに封印が解け始めていた。
そのため、シュナイザー分家の人間のことは分かったのだが、実の姉のことは名前しか知らず、顔は覚えていなかった。
けれど、そんなことなど知るよしもないシュウの姉は、その返事を挑発と受け取ったみたいだ。
「そうね。 落ちこぼれには仕付けが必要なようね。 知らないというのなら、あなたの姉であるこのミレーニア・シュナイザーがっ?!」
「シュウは落ちこぼれなんかじゃない!!」
ミレーニアが言葉を言い終わらないうちに、今までずっと静観していたカナが、そう叫びながら青白い光の槍を放ち、ミレーニアを吹き飛ばした。
「きゃあっ」
〈ドッゴーン!〉
カナの魔法で吹き飛ばされたミレーニアは、俺達とは反対側の壁に激突した。ミレーニアは壁に頭を打ち付けたらしく、頭から血を流して気絶してしまった。さらに、その衝撃で壁には結構大きな亀裂ができている。
「カナ………」
「シュウ、大丈夫?」
カナは俺の顔を下から覗きこみながら、心配そうに声をかけてきた。そんなカナを安心させる様に、頭を優しく撫でてあげる。
「……あぁ。 カナ、ありがと。」
カナの表情から察するに、俺はどうやらかなり深刻な表情をしていたらしい。
(自分の身内に会っただけなのにな。それに、カナにまで心配かけてしまうとは……
それにしても、あれが俺の姉なのか? 仮にもシュナイザーの直系ならあれぐらい避けれるだろ……)
その事に思考を傾けながらも、自分の封印が弱まっていくを感じていた。封印の一部が解けたことで、あれが自分の姉だとは分かるのだが、それでも未だに信じられない。そんなミレーニアを凝視しながら、カナに問いかける。
「カナ、そこに倒れてる奴の顔を軽く治してくれないか? 一応、記憶は消しといたから。」
カナは少し渋るような素振りを見せる。カナもこんなやつのを治すのは嫌なんだろう……
「………分かった。シュウがやって欲しいなら私はやる。あっちの女はどうするの?」
「何もしないさ。 あいつのおかげで俺の記憶も多少は戻ったし、それにあいつは何もできないだろうしね。」
「……そう。 じゃあ、ちょっと待っててね。」
カナはそう言うと、治癒の魔法を発動させる。すると、カナの周囲に白銀の光が立ち上ぼり、それがクズの体を次第に覆っていく。そして、顔面の傷をある程度再生させた。
「これくらいでいい?」
「あぁ、充分だよ。 ごめんな、カナにこんなことさせて……」
「私は何も気にしてないから大丈夫だよ。 シュウも早く元気出して!」
「ありがと。 よし、人が来ない内にさっさと行こうか。」
カナの言葉で少し立ち直った俺は、壁に激突して気絶しているミレーニアを一瞥してから、カナの雪のように白い手を取り一緒に歩きだした。
《コンコン》
『入りたまえ。』
俺がドアをノックするとすぐに返事が返ってきたため、重厚な扉をあけ、中に入った。
その部屋は学園長室だけあって、綺麗な装飾が施された物品がいくつもある。壁には大量の本棚が配置され、部屋が狭いようにも思えてしまう。
しかし、天井から下げられた豪華なシャンデリアの優しい光が部屋全体を照らしているためか、圧迫感は感じられない。それどころか、逆に居心地がとてもいい。
そして、扉と向かい合う様にして置かれた机には、こちらと向かい合うようにして綺麗な黒髪を腰まで伸ばした、美女が腰かけていた。
「久しぶりだな、シルヴィア。」
「お久しぶりです、シルヴィアさん。」
「そうだな。1年も連絡をしてくれないからシュウに見捨てられたかと思ったぞ。」
そういい、シルヴィアは綺麗に整った顔をしかませる。というか、1年も連絡していなかったか?
「あぁ、それに関してはホントにごめんな。 ただ、こっちもいろいろあってな。 帝の方はどうだ?」
「そんなに大変ではないぞ?」
「そうか。国は絶対的な抑止力というものが欲しいだけだろうからな。 まぁ、あんまり無理はするなよ。」
「……ありがとう。 さて、その話はアトでゆっくりするとして、今日は何しに来たんだ?」
(あと、のところが…… まぁ、元気そうで良かった。)
ちなみに、帝とは五大貴族とは別に、五大属性と二つの特殊属性を合わせた7つの属性の頂点に君臨する7人の存在のことである。帝は、ギルドランクがSS以上ある実力者しかなることが出来ない。
シルヴィアの本名は、シルヴァース・エルベール。7人の帝のうち、最強と言われている闇帝を担っていて、SSSランク【二つ名『黒炎の破壊者』】として恐れられている。しかし、その魅惑的な美貌により男からの求婚が絶えないらしい………………
尤も、今は俺の女なんだがな………
「手紙で連絡した通り4月から俺らはここに通うだろ?
まぁ、いろいろと手をまわして下さった学園長先生にお礼と挨拶をと思ってね。」
「そうか。 その割には態度が大きい様に思えるのは私だけか?」
「あぁ、お前だけだな。
まぁ、そんなことより、4月からよろしくな。」
「………まぁいい。 それで、シュウはどうするつもりだ?」
俺の言葉に、呆れたように溜め息をこぼしながら聞いてきた。
「どうとは?」
「どのくらい力を抑えるかということだよ。」
「あぁ、それなんだが、一応、炎と闇のみでいこうと思ってる。
俺の事情を知ってる奴等はそういないだろうしな。」
実際、俺のことを知っているのはシュナイザー家とそれに親いものだけだ。わざわざ、身内の恥をさらすとなれば、他の貴族からなめられて、自分たちの権威が失墜する結果は目に見えているからだ。
「そうか。 それと、シュウは入学するのが多少遅れると言っていたが、どうしたのだ?」
シルヴィアが不安そうな顔でそう言ったので、俺は彼女に近づく。そして、彼女の細い腰に手をまわして俺の方に抱き寄せ、
「そういうことも含めて、今夜二人だけでどうだ?」
と、シルヴィアの耳元でそっと囁いた。
シルヴィアは頬を少し赤く染め、
「えぇ、嬉しいわ。」 と呟いた。
俺はどこか遠い目をしているシルヴィアから離れる。
「じゃぁ、迎えに行くから、今夜はしっかり空けとけよ。」
と、意地の悪い笑みを浮かべながら言い、カナと一緒に部屋を出た。
カナが学園長室から出て少し歩いたところで、俺にいきなり抱きつき、
「シュウ、今度あたしも………」
と、俺に甘えるようにおねだりしてきた………
ヤバいヤバいヤバい………
反則だろこれ………
俺は、カナの誘惑により昂った気持ちをなんとか、落ち着かせて、カナの頭を優しく撫でた。
「分かってるよ。今度はカナと………」
その頃、学園長室にいるシルヴィアは………
「ふふふ。 久しぶりにシュウと……… あんなことやことを……… 」
と、1人で少々過激な妄想をしていた。
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俺とシルヴィアは、二人だけで超高級ホテルのレストランの最上階で食事をしていた。
この世界にはそれなりに高い魔法建造物がいくつかあり、ここもそのうちの一つだ。ただ、いろいろな魔法や貴重な魔法具が多く使われているため、食事をして泊まるだけでも相当な額になる。けれど、SSSランカーの俺にはあまり響かない。
「こうして二人きりになるのは本当に久しぶりだな。」
「えぇ、ホントね。
それにしても、シュウは初めて出会ったときから全く変わらないな。」
シルヴィアは食事の手を止め、俺をうっとりと見つている。アルコールのせいで頬が紅潮して、目はとろんとしている。
それが妙に色っぽいのだから堪らない……
「まぁな。これも、ルナの権能の一つだしな。 そういうシルヴィアこそ、あの頃のままだな。
いや、あの時よりも綺麗になってるよ。」
「ふふふ、ありがと。 けど、それはシュウのおかげだぞ?」
「そうだな。」
『ルナ』とは、俺の使い魔である神獣精霊の内の1人、不死鳥のことである。俺は、『血の紋章』と『解放・封印』を使って自分の血液と使い魔の血液を融合させ、使い魔のもつ力を自分という器と100%同調させることによって使い魔と契約をしている。
つまり、俺の中には不死鳥の血液も流れているため、俺は不老なのだ。まぁ不死ではないけど………
さらに、不思議なことに、ルナと契約した直後に俺の体が紅蓮の炎に包まれ、それが消えたと思ったら俺は大体17歳ぐらいの体に成長していたのだ。
それから、俺の成長は止まってしまったのだが、今ではそれをありがたく思っている………
まぁそういう訳で、俺はシルヴィアと出会ったときと全く変わっていないのである。そして、俺はシルヴィアとも血の交わりをしているため、シルヴィアも不老なのだ。
尤も、俺の能力である血の紋章はあらゆる体液を操ることが出来るため、血の交わりと言ってはいるが、実際はキスでもいいため、そんな怪しげな儀式のようなことは一切していない。
そうこうしている間に俺らは食事を終えてしまい、シルヴィアと二人で部屋にいた。シルヴィアは俺の横に座り、甘い声音で誘惑してくる。
「シュウ……… 私はシュウがいない間、毎晩1人で慰めていたんだぞ? だから、今日は………」
「………分かってるさ。
愛してるよ、シルヴィア。」
俺はそういいと、シルヴィアをベッドに押し倒した。
シルヴィアの豊満な胸を貪るように揉み、唇を奪い、俺はシルヴィアと交わった。
腕に女性特有の柔らかさを感じながら目覚めた。
そして、ベッドを見渡すと、ベッドは大量の白濁色の液により汚れ、シルヴィアにもベッタリと付いている。
(またやってしまった………)
俺たちは、SSSランカーでもあるため、ほぼ無限に近い体力有している。そのため、休むことなく朝まで情事に浸っていたのだ………
「おーい。シルヴィア。」
「ぅん? おはよ、シュウ。」
「あぁ、おはよ。」
そして、シルヴィアは自分の状態を確かめ顔をしかめる。
「お風呂に連れてってくれないか? まだ、うまく力が入らなくて………」
俺はシルヴィアを俗にいうお姫様だっこでお風呂に連れていき、一緒に体を洗った。
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シャワーを浴びてさっぱりしたところで、ホテルを出た。
「じゃぁ、シルヴィア。 行ってくるよ。ちょっとの間カナをよろしくな。 」
「えぇ、分かってるよ。 気をつけてね。 待ってるから。」
シルヴィアは、本当に心配そうな表情で俺を見ていた。
「あぁ。 じゃあな。」
俺はそう言うと、シルヴィアを優しく包み込むようにして抱きしめた。そして、紅い刺繍のはいった漆黒のロングコートを纏って、フードをかぶり、目的地に向かって音速を越える速度で飛翔した。