2話 戒めからの解放
「……あなたは自分の捨てた奴らが憎くないの?どうしてそんな他人事の様に言えるの?」
「憎いし殺してやりたいさ。ただ、俺にもいろいろあったのさ。」
自分の内側から、憎しみなどの感情が流れ出てくる。そして、それとは別の何か暖かい気持ちが一緒に溢れだしてきた。
それが心に染み込んでくるのを感じながら、少女に気になっていることを尋ねた。
「お前のそれは………呪いか?」
「え?! どうしてそれを!!」
(やはりか、だとするとこれは………)
「その様子だと、当たりか。 何があったのかは聞かない。ただ、一ついいか?」
「………なによ?」
「お前がそれをそのまま放置しておくと、この大陸が消し飛ぶ。さらに、お前が死んでも大陸が消し飛ぶ。
お前のそれは、一種の封印だ。それはお前の魔力を貯めつづけ、許容量を越えたらその魔力を何十倍に増幅させ、爆発させるものだ。 お前の魔力許容量があり得ないほど高いため、大陸なら軽く消し飛ばせるほどの威力になってしまうのさ。」
「……それで? あんたは結局何が言いたいわけ?」
「お前が望めば………
俺がその呪いを解いてやろう。」
「ただし、今まで味わったことのない激痛を伴うが………………どうする?」
「…………どうして? どうして、私なんかを助けようとするの? あなたなら、私を普通に殺すことだって出来るんでしょ?
なのに、どうして誰にも必要とされないこんな私なんかを助けるのよ!!!」
少女は俺に詰め寄ってそう泣き叫ぶ。今にも肌が触れ合いそうなほど近づき、俺の顔を見上げる。
身長差のせいで、丁度俺が少女を見下ろしている様な格好になってしまう。そんな少女の蒼い瞳をしっかりと見据え、言葉を紡ぐ。
「………………俺が必要としている。 それじゃぁ、ダメなのか?」
「っっっつ! 」
少女は俺の言葉に驚いた様子を見せ、やがて泣き出してしまった。その細い体を震わせ、弱々しく泣いている少女を優しく抱き寄せる。一瞬抵抗をしたもののそのまま俺に体を預けてきた。
腕の中の少女の体温を感じながら、少女が泣き止むのを待った。
やがて、少女が顔をあげる。その青い瞳からは強い決意が伝わってきた。
「私は………生きたい。 だから、お願い!」
「…死ぬほど痛いぞ? 死んだ方が楽かもしれないぞ?
それでも?」
「やります!
私を必要としてくれる人がここにいるから!」
「…分かった。覚悟しろよ。」
少女が頷くのを確認すると、俺は抱きしめている少女に『解放』を行使した。
「全てを破壊し、解き放て。 『戒めからの解放』!!!」
「んっっっ! くっ!」
少女が苦悶の声をあげる。
少女は身を引き裂くような激痛を味わっているはずだ。顔を俺の胸へと埋めて強くしがみついてくるが、決して弱音を吐こうとしない。
俺は、そんな少女の痛みを静める様に、少しでも早くそれから解放される様にと願いながら、もう一度優しく抱きしめた。
どのくらい時間がたっただろうか? 少女の腕の力が弱まっていく。そして少女自身に力が漲っていき、白銀の光に包まれた。それはとても綺麗な光だった。そしてなにより、温かかった。涸れていた俺の心に安らぎが生まれ、ポッカリと空いた心の隙間を埋めていく。
やがて光が消えると、俺の腕の中の少女の髪は綺麗な銀色になっていた。
「ねぇ、貴方の………名前、教えて?」
「俺はシュウ。 『紅き月の滅龍師』」
「シュウ……… ありがとう。」
少女が俺を抱きしめてくる。その少女の瞳は蒼く澄み切っていて、そこには先程までの負の感情は見えなかった。
「どういたしまして。 君は?」
「私は、カナ。ただのカナ。」
「そうか……… カナ、君はただのカナじゃない。
俺のカナだ。」
そして、俺もしっかりとカナを抱きしめた。それは数秒だったかも知れない。けれど、俺には永遠の様な長さに感じられた。
『「なぁ、カナ。」 「ねぇ、シュウ」』
俺とカナの声が重なる。
「なんだ?」
「私はシュウと一緒にいたい。だからもしよかったら………私も連れてって?」
「あぁ、当たり前だ。 一緒に行こう。」
「…ウ、…ュウ、シュウ!!」
「………ん?どうした? 」
「どうした?じゃないよ。さっきから呼んでも返事しないから、嫌われちゃったかと思ったんだよ?」
「ごめん、ゴメン。 ちょっと昔のことを思いだしてただけさ。俺がカナを嫌いになるなんて絶対にないから大丈夫だよ。」
俺は、ご機嫌斜めのカナにそう言ってキスした。
「っっん」
「………いきなりはやめて//」
顔を赤くして、恥ずかしそうにしている。ぅう、可愛い………
「じゃぁ、今度からはちゃんと言うよ。」
「もうっ!! ほら、早く行こ!」
そう言い、カナは歩く速さを少し速めた。カナがここにいる。そう思うだけで俺の心はいつも軽くなる。何故か、前に踏み出す足も軽くなった様に思えた。
「分かったから、そんなに引っ張るなよ。」
そして、二人でまた歩き始めた。
ここは、ヴァーエン中央魔法学園。ヴァーエン大陸に5つ存在する魔法学園のうち、最も広い敷地を有し、魔法を学ぶために必要な設備が充分過ぎるほど備わっている学園だ。1学年400~500人ほどからなり、3年間学ぶことができる。
俺たちが今歩いているのは、とても広い校舎(ディ○ニーランドを4等分した位の広さ)の修学塔と教務塔をつなぐ渡り廊下だ。
俺たちの前から、数人の生徒が歩いてきたため、廊下の端の方に移動した。
そして、その生徒たちと無事すれ違った………っと思ったのだが、後ろから声をかけられた。
「おいっ! そこの新入生!!」
今はまだ3月で春休み中のため、俺たちはまだ新入生ではないのだが、該当する生徒が他に見当たらなかったため、仕方なく返事をした。
「何か用でも?」
すると、
「お前、シュウか?」
と、全く予想外の返信がかえってきた。
「………ええ。 そうですが、何か?」
「やっぱりか!! お前のその髪と瞳ですぐ分かったぜ!」
「それで?」
「ここに何しに来たんだよ、無能!!! お前みたいな落ちこぼれが来るようなとこじゃねぇんだよ、ここは!!!」
あぁ、思い出した。こいつ、俺がまだシュナイザー家にいたとき、俺に魔法とか打ってきた、シュナイザー分家の野郎か………
「あぁ、誰かと思えば、あのクズ野郎か。で、結局何が言いたいわけ?」
「てめぇ… お前みたいな落ちこぼれが、俺たちにそんなに口をきいてただで済むと思ってんじゃねぇよな?」
「言いたいことはそれだけか? 」
「くそがっ! 」
そう言うと、シュナイザー分家のクズは俺に向かって魔法を打ってきた。 一応、学園内での魔法無断使用は禁止されてるんだが………
「相変わらず、腐った連中だな。」
俺はそう言いながら、相手の魔法を片手で消し飛ばすと、それを見て驚いている奴の頭を掴んだ。
「っう、ぁぁぁあああああ!!」
そして、指を顔面に食い込ませる。グチュグチュと気持ちの悪い音をたてながらゆっくりと指を静めていく。
「二度と俺の前に出てくんじゃねぇ!」
痛みによって死んでしまう前に、そいつを放り投げた。だが、その先には………
「何をやっているのですか!! 貴方、あの落ちこぼれのシュウよね? 私たちのような選ばれた人間にこんなことをしていいと思っているの?!!」
そこには、俺と血の繋がった、実の姉がいた。
………のだが…
「え? ……誰?」