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Home Sweet Home  作者: ミナ
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タクシーを降りても、有衣はまだどこかぼんやりとしていた。

まだ、直輝とのことが現実ではないような、そんな感覚が続いている。

それでも、と有衣は思う。

帰ってくるまでずっと見つめていた携帯に視線を戻すと、直輝のデータが映っている。

今までは、お互い携帯のデータを知らなかったが、さきほど交換したのだ。

そのメモリが、確かに現実のできごとだと証明している。

じわり、と嬉しさがこみあげてくる。

家に向いていた体を、反対側に向け、みどりの家に向かった。


またしても、土曜の夜の有衣の訪問。

みどりは、またあの男か!と心の中で悪態をつきながら、玄関へ向かう。

けれどみどりの予想に反して、有衣は泣いてはいなかった。

むしろ、どこか夢を見ているような、そんな雰囲気すら漂っている。

「どうしたの」

「ごめんね、また夜遅くに来ちゃって」

「それはいいけど。とりあえず上がって」

有衣に先に部屋に行かせ、みどりはとりあえず飲み物を用意しようとキッチンへ向かった。


ベッドの端に座って待っていた有衣は、ドアが開いた瞬間、コーヒーの香りが漂ったのに気づく。

みどりがトレイにカップを2つ載せて、部屋に入ってくるのが見えた。

有衣は、その香りでさきほどのことを思い出して、ひとり赤面してしまう。

様子のおかしい有衣に、みどりは首を傾げた。

「みどり、どうしよう」

「…また、何かあったの」

「好き、だって」

「え?」

「直輝さんが、私のこと、好きだって」

その言葉にみどりは、ようやく有衣の様子がおかしい理由に納得する。

現実なのに、信じきれない気持ちのほうが大きいらしい。

みどりとしては、どちらかと言えば直輝のことはあまりよく思っていない。

有衣が前回のようにまた手ひどく傷つけられるのではないか、と心配でもある。

それでも、有衣の本気の想いを知っているだけに、嬉しそうな有衣を祝福してやらないわけにはいかなかった。

結局、有衣を幸せにできるのは、今のところ直輝だけなのだ、とみどりは自分を納得させる。

古典的だとは思ったが、現実だとわからせようと、みどりは有衣の頬をぐにっと左右に引っ張ってやった。

「痛っ、痛い、痛いって!」

「痛かろう。夢じゃない証拠だね」

「…ひどいよ。ちょっと信じられないだけじゃん」

「でも、よかったじゃん。両思い」

「うん。ありがとう」

「で? なんで、赤面してたのかなぁ? 他に何があったの?」

興味津津のみどりの追及に、有衣は洗いざらい白状させられる羽目に陥った。

と言っても、コーヒーまみれの密着と、告白しあった後の密着しか、進展らしいものは無かったのだが。

今まで恋愛ごとに疎い面のあった有衣としては、それだけでも大照れものだった。


みどりと話したことで、ようやく現実的に感じられるようになった有衣は、ようやく家に帰った。

有衣が廊下を歩いていると、ちょうど清香がバスルームから出てくるところだった。

「ただいま」

「遅かったわね」

「うん。帰りにみどりん家寄ってきた」

「どうだったの、お弁当の評判は?」

「大好評! ハルくんも直輝さんも、慧さんと妙さんも喜んでくれた」

おや、と清香は知らない名前に内心首を傾げた。

2人分にしては大きなお弁当を作っていると、朝不思議に思ったのだが、どうやら誰かが来ていたらしい。

だが有衣の表情からすると、大変なことは無かったのだろうと思えた。

「なんだか、嬉しそうな顔してるわね」

「え!?」

有衣は咄嗟に大きく反応し、手で頬を抑えたが、その後あからさまにしまった、という顔をした。

清香は、これは何かあったな、しかも西岡 直輝絡みで、と予想する。

「ちょっと、いらっしゃい」

清香のにっこりとした笑顔に、有衣は逆らえない。

笑顔の裏に、実は誰にも有無を言わせない凄味があるのだ。

結局、清香の追及にも有衣は堪えられず、関係が変化したことを白状した。

但し、みどりには話せた密着の件は、清香に言うのは憚られたため、割愛する。

「基本的に、有衣がいいなら私はそれでいいわ。

 まぁ、年頃の娘を持つ親の気持ちは理解してほしいところね。

 これまで通り、外泊は許可制。遅くなるときは連絡すること。

 相手が年上だからって、流されないのよ」

「わかってる。ありがとう」

案外あっさりと話が終わったことに、有衣は少しだけ拍子抜けしたが、安堵もした。

あまりにも年上だから、何か言われるかとも思っていたのだ。

話が終わると、もう休むと言って部屋を出ていく清香を見送りながら、有衣はほっと一息ついた。


自分の部屋に入り、バッグを下ろすと、中で携帯のライトが点滅しているのが見える。

青色のライトは、メール着信があったときのものだ。

もしかして、もしかして、と逸る気持ちのまま携帯を慌てて取り出す。

『無事に、着いたかな?』

目に飛び込んできた、直輝からのメール。

よく見ると、1時間ほど前に受信していた。

みどりのところにいて、まったく気づいていなかったのだ。

『すみません。帰りに向かいの幼馴染みのところに寄ってて、遅くなりました。さきほど無事帰りました』

慌てて返信する。

初メールにしては、ちょっと色気が無さ過ぎる、と苦笑していると、すぐにまたメールが来る。

『それならよかったよ。遅かったから、ちょっと心配した。その幼馴染みって、もしかして“みどり”ちゃん?』

なんで、知っているのだろう、と一瞬思い、それからすぐに思い出した。

あの晩、というか深夜に、みどりが携帯に電話をかけまくっていたのだった。

『そうです。その節は深夜に迷惑電話をかけていたようで、すみませんでした^^;』

『俺、挨拶に行ったほうがいいかな。菓子折り持って』

そんな、くだらないと言っていい話が続いた。

メールを繰り返していると、今までになく親密になっていく気がして、有衣は嬉しかった。

少しでも途切れさせたくなくて、人生で初めて、お風呂場にまで携帯を持ち込んでしまった。

『明日は、どんな予定?』

『特には予定入れてません。直輝さんは、何する予定ですか?』

『そろそろ衣替えしようかな、と思ってるところ』

『あの、もしよかったら、手伝いに行きましょうか?』

『実は、そう言ってくれるかな、と思って言ってみたんだ。来てくれる?』

『行きます』

『じゃあ、衣替えはまたにする』

『えぇ?』

『日曜にも会えたらいいな、って思っただけなんだよ』

遠まわしだった誘い文句の割に、ストレートな最後の文章に、有衣の体温は一気に上がる。

日曜にも、いつでも、会いたいと思ってくれているのだとわかって、嬉しかった。

これ以上お風呂にいるままメールを続けていたら、のぼせてしまいそうだ、と有衣は手早く上がる。

部屋に戻って、眠る直前までメールは続いた。

『じゃあ、おやすみ』

『おやすみなさい』

その挨拶だけのメールも、温かくて、有衣はディスプレイを見てほほ笑んだ。


週明け、有衣は譲に報告するために、昼休みの終わりごろ屋上に向かった。

「うまくいっただろ?」

顔を見るなりそう言った譲に、有衣は驚きつつも苦笑した。

結局、帰りに譲が言った通り、素直に気持ちを伝えようとしたら、うまくいったのだ。

「どうして、わかったの」

「えぇ? だってさ、ハルパパの俺を見る目がさ」

「目?」

「ジェラシー」

「じぇ、…嘘」

「ほんとだよ。俺がちょっと近づいただけで、目力倍」

「目力って…」

相変わらず、譲と話していると少しだけ力が抜ける。

それにしても、どうして自分ではわからないことを、他人のほうがよく見ているのだろう。

直輝への気持ちも、まずみどりや清香さんに指摘されたのだ。

そして譲に言われなければ、直輝の気持ちを知ることもできなかったに違いない。

恋をするというのは、意外と難しいものだ、と有衣は思った。

携帯がくぐもった音を立ててポケットで鳴り、有衣は慌ててスカートのポケットからストラップを引っ張りだす。

『もう休憩入ってるかな? 俺はこれから~』

直輝との、何でもないメールのやりとりが、既に有衣の日常に加わっている。

譲は、嬉しそうに返信する有衣を横目で見やってこっそりと溜息をついた。

「いいねぇ、楽しそうで」

「何、その年寄りみたいな言い方…」

「俺も彼女欲しい」

「ごめんね、先に幸せになって」

「うわ、何気にむかつくんですけど。誰のおかげだよー。

 つーかさ、あんた絶対性格違う。俺の前と、ハルとハルパパの前と、絶対違うから」

「そうかな。…そうかも。年の差とかあるし。それに、愛の差?」

「あーはいはいはい」

浮かれている、と有衣は自分でも思う。

こんな軽口は、譲の前といえども以前の有衣であればほとんど叩いたりしなかった。

そんな自分自身の変化は、有衣の中に少しの戸惑いを生じさせつつも、どこか悪い気はしない。

覚え始めたばかりの両思いの恋は、今の有衣にとってはただただ楽しいものだった。


付き合い始めの、バカップルです。

お風呂まで携帯持ち込んでメールとか、やりましたねぇ…(遠い目)。

それでたまに湿気で携帯壊れたりとか^^;

まぁ、何はともあれそんなラブな日常に突入した直輝と有衣です。


書きながらちょっと思ったのは…、清香さんの対応は妥当なのか、ということ。

親の立場からすると、どうなのかな~と思いつつ、応援してくれるほうがいいなぁ、と思って書いちゃいました。


もうちょっと、平穏ライフは続く予定です。


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