第四話 色々な始まり…
「そろそろハオリンピックのクラス責任者決めたいんだけど、誰かやりたい人いる?」
「部活やってない人やれよ」
ハオリンピックは、体育祭と球技大会を一週間かけてやる、羽織高校の一大イベントだ。
校内の空気が、少しだけ浮き足立つ季節でもある。
去年はたしか、優勝クラスが食事券をもらっていた。
「決勝まで行けば全生徒の注目の的。これ頑張るしかないよな!去年の優勝の立役者さんよ!」
「あれはクラスのメンバーが良かったからだよ!外のクラブでサッカーしてる人は、部員制限に含まれないからさ」
「まぁ今年も貴大はフットサル出るでしょう?」
「他の球技は自信ないしね、優也がいれば優勝できるでしょ!」
優也があまり上手ではない事を少しいじりながらも、
ボールを蹴っている時だけは自信を持てる俺は、去年の全校生徒の前でプレーしたワクワクをもう一度味わいと思っていた。
「じゃあくじ引きだね、男女1人ずつさっさと決めちゃいましょう」
「絶対そうなると思ったよ」
「じゃあ藤崎君から引いてちょうだい」
たまたま先生と目があった俺は、1番に箱に手を入れた。そもそもくじ運が良くない俺は、こういう時だけ引いてしまう気がしていた。
「これにしよう、あっ」
教室に大爆笑が起きる。いきなり責任者カードを引いてしまった。
「マジかよ…」
「1番最初に引いて、当たるとか運強すぎだろ」
「貴大、ふぁいとー」
「せんきゅー!よろしくー」
人生で責任があることから避けてきた俺は、人前で仕切るのを想像しただけで手が震えてきた。
「次は女子の番だね」
少し珠凛になった方が楽だなと思っていた俺は、珠凛の番をソワソワしながら待っていた。
「私になっちゃったよ」
「じゃあ女子は遠藤さんで」
珠凛の前に順番がきた遠藤さんが引き当ててしまった。
「じゃあ2人は前に出て、競技の振り分けと昼休みのハオリンピックの責任者の集まりに行ってちょうだいね」
「はーい」
「わかりました。藤崎君よろしくね」
「う、うん。頑張ろうね」
基本的に遠藤さんが色々やってくれたおかげで、自分の出番はほぼなく、昼休みの始まるチャイムが鳴った。
「遠藤さんありがとう。全部やってもらって、僕はただ立ってるだけだったし」
「そんなことないよ。色々書いてもらったし」
遠藤さんの優しさに少し救われる。この人、人間出来すぎと思ってしまう。
「じゃあ昼休みになったし、行こうか」
「そ、そうだね」
責任者の集まりってだけで、すごく緊張感が増す。
余裕のある遠藤さんの背中を見て、全てを任せようと卑怯ながら心に決めた。
「あれ貴大もハオリンの責任者?珍しくじゃん」
「くじを引いてしまって…やりたくなかった」
声をかけてきたのはスーパースターの涼だった。その横にいるのはあのバスケ少女。
「あ、この前はありがとうございます」
「どうもー」
「なに?貴大と前川って知り合いなの?」
「この前、爆音で外歩いてたんだよー」
「本当に助けられました、本当に感謝です」
「渚ちゃんも責任者なんだね!よろしくね」
「真由ちゃんもいるのー?頑張ろうねー」
情報量が多すぎて訳わからなくなっている俺と、冷静に関係性を把握する涼。
「まぁみんな知り合いってことだな!真由ちゃん、よろしく!」
「遠藤真由です。よろしくお願いします」
誰とでもフレンドリーな涼に、さすがスーパースターとか思っちゃっている俺がいた。
「貴大君って去年のフットサルかっこよかったよね」
突然の前川さんに下の名前で呼ばれてドキッとした。
「ほ、本当にー?嬉しすぎる」
「こいつサッカーはすごいからね」
(スーパースターありがとう!もっと俺のアピールをしてくれ)
「今年も楽しみにしてるよ」
「楽しみにしてて、頑張るから」
前川さんの期待に応えたいというか、自分のかっこいい姿を見てほしいというか、なんとも言えない気持ちがあった。それは前川さんと話すと自分を出せている自覚があるからかもしれない。
その日の放課後、涼と前川さんとファミレスにいた。
「そう思えば、明日って貴大誕生日だべ?」
「惜しいね、明後日の5月2日だよ」
「1日違いだね、じゃあ私からこれあげるよ」
鞄から出てきたのは、ウサギのイラストの缶バッチだった。
「あ、ありがとう、リュックに付けちゃうわ」
「なんでそんなもの持ってんだよ」
「妹がこのキャラクター好きで、くれたやつなんだよ!見て、私も付けてる」
「俺にもくれよ!仲間はずれじゃねーか」
「今持ってないから、また今度ねーー」
2人のやりとりが羨ましかったが、お揃いって言葉に俺は少し優越感に浸っていた。
「じゃあ俺はこっちだわ」
「奢ってくれてありがとー」
「誕生日プレゼントってやつよ」
前川さんと2人の帰り道、前川さんはいつも通り優しい。けど涼に見せる態度とは違う心の距離感。夕陽で輝く前川さんを直視出来なくなっていた。
「ただいま」
「おかえりー、帰り遅かったね!」
「ちょっとファミレス寄ってたんだよ」
「何?その缶バッチ!可愛いねー」
「これ誕生日プレゼントでもらってさ」
「誕生日?たかぴー、いつ誕生日?」
「明後日だよ」
「すぐじゃん、ってか明日午後暇ー?」
「昼からなら大丈夫。午前中バイトだからさ」
「じゃあ私の買い物がてら、何か買ってあげるよ」
なんとなく流れ的に予想はしていたけど、彼女が出来たことのない俺は、私服で女性と2人で買い物は恥ずかしい。
「いいよ、いいよー」
「家族なんだから遠慮すんなってー!兄妹なら当たり前だよ!」
珠凛の半ば強引の誘いに、拒否権は俺にはなかった。
中学の時にお世話になったサッカークラブの手伝いを終えて、汗拭きシートと制汗スプレーの匂いを強烈に放っている俺。
ほぼ制服と同じ色の私服を着て、何度も何度も内カメラで髪型を直しながら、集合場所で30分以上待っていることに、
早く来すぎた自分の必死さが少し恥ずかしくなった。
しばらくすると、白と黒を基調にした服装の女性が手を振ってくるのが、人混みから見えた。
「お待たせーー、今日暑いねー」
「さっき着いたばかり」
制服とは違って私服だとお姉さん感が強くなった珠凛に、歩幅を合わせるのに必死だった。
「なんかお揃いコーデみたいでウケるね」
「いやいや、珠凛ちゃんのはオシャレだけど、僕は制服みたいじゃん」
「そう言われると、そう見えちゃうじゃーん!」
珠凛は眩しい笑顔で、俺をショッピングモールにエスコートしてくれた。
「ってか、たかぴーって何か欲しいものとかある?」
「あんまり物欲ないから、いつも誕生日って困るんだよね。急に欲しくなって、その時に欲しいもの買うから」
「私なんていつも欲しいものばかりだよ。バイトしてもしてもお金が足りない」
「珠凛ちゃんって何やってるの?」
優也が言っていた噂の真相がわかる良い機会だと、恐る恐る聞いてみた。パパ活とか言われたらどうしようと不安だったが、
「モデルしてるんだよ。たまに朝早い日とか帰りが遅い日は撮影だと思っといて。この前なんて、カメラマンの人と歩いているの見られて、「あいつはパパ活してる」とか言われちゃって、めんどくさいよ。勝手に決めつけられるのが一番嫌い。」
聞き方を間違えてたら、珠凛に嫌われていたかもしれないと思い、ホッとした。
「珠凛ちゃんすごいじゃん!俺と歩いてて大丈夫?」
「俺?たかぴーって仲良い子しか俺って言わないよね。ウチも仲良しとして認められたのかなー」
自分でも気づいていなかったが、いつの間にか珠凛とは緊張せずに話せるようになっていた。
「だいぶ一緒にいるから慣れたかな」
「それは良かったよー!最初一緒に暮らせるか不安だったもん」
「なんか俺って言いづらいな…あ、」
盛り上がっていると、2人の目線は同じポスターに目が止まった。
「今年の母の日は何を贈りますか?だってさー。由紀恵さんの贈り物一緒に買おうよ」
「何が好きかとか全然知らないからなー」
母の日に何もしたことがないことが、モロバレするような発言をして自己嫌悪になった。
「じゃあ母の日にプレゼントあげたら、すごく喜んでくれるかもね」
すかさずフォローをしてくれる珠凛に、いつも助けてもらってばっかりだなと心の中で感謝をしていた。
「待って、あの服可愛いじゃん」
「えっ、」
どんだけ服見るんだよって思うぐらい珠凛の買い物の熱量はすごかった。それか女性の買い物を知らない俺が悪いのか。
「この服可愛くない?」
「可愛いと思う」
毎回聞いてくるけどファッション知識のない俺は、「可愛い」と言うだけのゲームのモブキャラのようだった。
途中、珠凛が入ったお店で
「珠凛ちゃん!この服!母の日にどう?」
「由紀恵さんに似合いそうじゃん」
「母の日だし、ワンポイントにカーネーションって良くない?」
「めっちゃいいじゃーーん」
少し買い物に疲れていた俺は、早めに買うものを決めたいと温度差を感じていた。でもはしゃいでいる珠凛を見ると、同じ高校生だなと安心した。
「このパフェおいしいねーー!めっちゃ疲れた?」
「女の子の買い物って、こんなに歩くの?足がパンパンだよ」
「乙葉と美華と一緒の時はもっとすごいよー」
「俺ダメだ、疲れた」
そんな弱音を吐きながら、パフェを食べる珠凛の背後にスポーツショップを見つけた。
「誕プレ、あそこで買ってもらおうかな」
「あそこなら欲しいものあるかもね!急いで食べるよ」
「急がなくていいよ」
そんなデートっぽいことをしている俺たちは、周りからどう見られてるのかなって思う。珠凛は気にしてないけど、俺は初体験ですから。急いでいる珠凛を見ながら、少し口角が上がっていた。
夕陽が沈んで少しオレンジ色が残っている空を見上げながら、
「サッカーシューズとかじゃなくて良かったのー?」
「こういうの好きなんだよ!2つあるから、1つあげるよ」
「なんか私が買ってあげたのに、おかしくない?」
「まぁ珠凛ちゃん、バスケに出るからそれ付けなよ。俺フットサルの時につけるからさ」
バスケの一言で前川さんのことを少し思い浮かべている俺がいた。
2人の左腕には赤いリストバンドがついてて、私服には全然合っていなかった。でも、不思議と外す気にはならなかった。人通りの少ない夜道で2人は同じ気持ちで家まで向かっていた。
次の日の夜、家族4人が揃って俺の誕生日パーティーを行った。
「ちょっと早めだけど…由紀恵さんに…」
珠凛の合図で俺がソファの下に隠した、プレゼントを母に渡した。
「いつもありがとう。これからもよろしく。2人からだよ」
「あいがあとぉ〜」
「由紀恵さん!ティッシューーー!」
さすが泣いている母への珠凛の対応は早い。
母の違う意味の涙は何度か見たことがあったが、今回の涙はグッとくるものがあった。
「たかぴー!喜んでくれて良かったね!」
「ありがとう、良かった」
「なんか…たかぴーも泣いてない?」
「泣いてない!」
適度に茶化してくれるのも珠凛の良いところ。
「って珠凛ちゃんも泣いてるじゃん」
「私は由紀恵さんのもらい泣き」
「俺だけ泣いてないじゃないか!」
卓哉さんの一言で、みんなが爆笑に変わった瞬間だった。




