【7】初めての男友達は、秘密を抱えた救世主
翌朝、いつも通り学校へ登校した。教室に入り、自分の席に鞄を置く。隣の席の子と「おはよう」と挨拶を交わすと、すぐに親友の舞桜ちゃんと紗雪ちゃんがやってきて談笑が始まる。
このクラスは和気藹々としていて、居心地がいい。何より、あの「ナニカ」が教室内にいない。それが私にとって、この学校生活を「普通」に過ごすための絶対条件だった。
平和な朝。
けれど、その静寂は不意に破られた。一人の男子生徒が、静かに教室に入ってくる。何気ない光景。けれど、その人物の顔を見た瞬間、私は自分の目を見開いた。
あの時の、彼だ。ま、まさか、同じクラスだったなんて……!
「ん?神崎くんがどうしたの?」
「神崎……」
「えっと、神崎正視くん、だったかな」
舞桜ちゃんたちの解説によれば、彼は目立たない陰キャグループの一人で、普段から一人で行動することが多いらしい。人畜無害な、いわゆる「普通系男子」。改めて彼を見てみる。確かに目立たない。印象に残るような派手なパーツもない。けれど、あの優しそうな顔立ちは間違いなく昨日の彼だ。イケメン、とは言わないかもしれないけれど……。
私は吸い寄せられるように、彼の席へと向かっていた。
「まさか、クラスメイトとは思いませんでした」
話しかけると、彼は悪戯がバレた子供のように気まずそうに視線を逸らした。
「えっと……何のことかな?」
いやいや、さすがに無理がある。昨日の今日でとぼけ通そうとする彼の神経の図太さに、半分呆れ、半分驚嘆してしまう。
そこからは、昨日の続き。
「やった」「やってない」の押し問答で、お互いにヒートアップしてしまった。気がつけばクラスメイトたちが興味津々でこちらを囲んでいる。まずい、別に彼を糾弾したいわけじゃないのだ。私は半ば強引に彼の腕を掴むと、教室から連れ出した。
掴んだ彼の腕は、別段太いわけでも、逞しいわけでもない。けれど、私の腕よりは少し筋肉質で。何より、彼に触れているだけで、言葉にできないほどの「安心感」が胸に広がった。
屋上に辿り着き、冷たい風に吹かれながらもう一度向き合う。けれど、彼はやはり「声をかけようとしただけ」と嘘をつく。ナニカが消えたタイミングがあまりに良すぎるし、その後の逃げ足の速さを考えれば、彼が「無自覚」なはずがない。
(……そっか。彼も、秘密にしたいんだ)
私も「ナニカ」が分かる体質を誰にも言っていない。
なら、彼も同じかもしれない。
だったら、もっと仲良くなるしかない。
親密になれば、いつか自然と打ち明けてくれるはずだ。
根拠はないけれど、確信はある。女の勘、というやつだ。
早速、必勝のテクニックを駆使して連絡先を交換した。なぜか彼は半ギレ気味だったけれど、教えてくれたのだから良しとしよう。
自分の席に戻り、さっそくメッセージを送信する。その時、ふと気がついた。……もしかして、これって「初めての男友達」じゃない?
異性の知り合いは多いけれど、連絡先を交換するほど仲良くなった人はいない。告白してくる人はいたけれど、そういう男子には決まって「ナニカ」が憑いていたから、お断りしてきた。
でも、彼は違う。これって、正真正銘の「初の男友達」……つまり、ボーイフレンド!?(※注:友達としての意味!)私はなぜか妙に嬉しくなってしまい、いつもより高いテンションで、彼との初めてのやり取りに没頭してしまった。




