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ナニカが視える俺と、ナニカが分かる君  作者: あどん


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【6】救世主は、雨の地下鉄に現れる

二人の出会いは、必然だった。

あれは決して偶然じゃない。出会うべくして出会った、運命。

……大袈裟だろうか? いや、そんなことはない。少なくとも、私は本気でそう思ったのだ。


その日は友達と遊びに行く予定だった。駅での待ち合わせ。

だが、約束の時間になっても二人は現れない。しばらく待ってみたものの、一向に来る気配がなかった。


『ごめーん寝坊寝坊ー!』


スマホの画面に、友達のアイコンからメッセージが入る。なるほど、寝坊か。困った子たちだ。

さてどうしようかな、と思っていた矢先。また通知が鳴った。今度はもう一人の友達からだ。


『ごめん! 私もだ!』


「あらら……」


二人揃って寝坊。舞桜まおちゃんはともかく、紗雪さゆきちゃんが遅刻するのは珍しい。

けれど、今日は朝から雨降りの鬱陶しい天気だ。気持ちはよく分かる。こんな日は布団の中でゴロゴロしたくなるものだ。


『大丈夫ー待ってるよー』


二人にはそう返した。そもそも予定よりだいぶ早く着いていたのだ。少しの待ちぼうけくらい、どうってことない。

スマホをいじりながら時間を潰す。――異変が起きたのは、その時だった。


凄まじい倦怠感が、私を襲った。

気持ち悪い。ゾワゾワと鳥肌が立つ。私の後ろに『ナニカ』がいる。

いつもと同じ、ただそこに居るだけの『ナニカ』。無視しようと努めるけれど、だめだ、今日はひどすぎる。いつもならこれほど強烈な嫌悪感に襲われることなんて滅多にないのに、今日に限って。


場所を移動してみる。あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。

……だめだ。どこへ逃げてもついて来る。どこへ行っても離れない。特定の場所に留まるタイプじゃない。人の後ろにべったりと張り付く、一番厄介なタイプだ。


私は逃げ場を失い、地下鉄の改札近くにあるベンチに腰掛けた。

ここなら、二人が到着すればすぐに分かる。

(早く来て……舞桜ちゃん、紗雪ちゃん……。二人に抱きつけば、きっと楽になれるのに……)


ああ、気持ち悪い。身体がどんどん重くなっていく。まるで背後から首を絞められているような圧迫感さえ覚えた。


二人にお詫びして、もう帰ろうか。

……いや、帰ったところで、このまま家までついて来られるなんて耐えられない。

絶望に沈みかけた、その時だった。


突然、消えた。


『ナニカ』が消えたのだ。同時に、あの吐き気も嫌悪感も嘘のように消え去った。

身体が羽が生えたみたいに軽い。こんなことは初めてだった。

あんなにはっきりと消えるなんて。まさか!?


バッ! と勢いよく振り返る。

そこには一人の男性が立っていた。

短めの黒髪はサラサラとしていて、清潔感がある。柔らかい印象を与える、優しそうな好青年だった。

突然見つめられたことに動揺したのか、彼は少し困惑した様子で「体調、大丈夫?」と声をかけてきた。その声さえ、驚くほど穏やかで耳心地が良かった。


(この人だ!)


ある種の確信をもって、私は彼の腕をガッチリと掴んでいた。

責めないでほしい。だってそうでしょう? 私は生まれて初めて、『ナニカ』が消える瞬間を体験したのだ。それを成し遂げたのは、目の前の彼しかいない。

彼は、私の救世主だ。


「お兄さん!! い、今、何かしましたか!?」


必死に捲し立てる私に対し、彼はどこか遠い目をして「お兄さん……」と呟いた。

どうやら問われた内容よりも、呼び方にショックを受けているらしい。「あんた」とか「お前」よりは幾分マシだと思ったのだけれど……。


「いや、何もしてないけど?」

「嘘です! 今、消したでしょう!?」


彼は心底困った顔をした。本当に心当たりがないのだろうか?

けれど、私には確信がある。間違いなく彼は『ナニカ』を消した。あんなに鮮やかな消失は、偶然で起こるはずがないのだ。


その後も「やった」「やってない」の押し問答が続いた。

埒が明かないと判断したのは彼の方が先だった。少し考え込む仕草を見せた後、彼は私の手を振り払うと、脱兎のごとく人混みの中へ走り去ってしまった!


「ちょ!?」


慌てて追いかけたが、無理だった。運動は苦手ではないけれど、男性の本気に追いつけるはずもない。人混みに紛れられてしまえば、もうお手上げだ。

私は呆然と、彼の背中を見送るしかなかった。


「澪奈ちゃん大丈夫!?」「遅れてごめんね!」


ようやく到着した友人たちの声が聞こえてきたが、私はまだ放心状態だった。


「どうしたの? ぼーっとして」


心配そうに覗き込む友人に、「ううん、なんでもない……」と答えつつ。

私の頭の中は、あの男性のことでいっぱいだった。

観光客のような格好じゃなかった。つまり、この近辺の住人だ。あっさり人混みに紛れたところを見ても、この駅を使い慣れているに違いない。


私は人の顔を覚えるのが苦手だけれど、救世主の顔を忘れるはずがない。


いざとなったら駅で張り込みをしてでも見つけてやる――。


そう固く誓った私だったが、そんな執念を燃やすまでもなく、翌朝、あっけなく再会することになる。

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