【4】人の噂は七十五日、通知音は一秒
教室に戻ると、案の定、鈴音さんの周りには既に人だかりができていた。
そりゃあ気になるだろう。男女問わず圧倒的な人気を誇る彼女が、これまで接点のなかった「モブ男子」を強引に連れ出したのだから。
「ねえねえ、どうしたの!?」
「あいつに何かされた?大丈夫?」
心配する声に対し、彼女はいつもの完璧な笑顔で答える。
「大丈夫ですよ、少しお話をしただけですから」
その言葉に周囲は一旦安堵したようだが、すぐに別の疑問が浮かび上がる。
「じゃあなんで呼び出したの?」
「なんか、すごい剣幕で二人で出ていったよね」
「……もしかして、付き合ってるとか?」
勝手な憶測が一人歩きを始める。人の妄想力とは恐ろしいものだ。
俺は居心地の悪さを感じながら、そそくさと自分の席に戻った。突き刺さるような視線とヒソヒソ声を無視して前を向く。「人の噂も七十五日」という言葉を信じて、嵐が過ぎ去るのを待つしかない。
「はぁ……」
思わず深いため息が漏れる。この先、面倒なことに巻き込まれる予感しかしない。ふと手元のスマホが震えた。通知画面には「鈴音澪奈」の名前。
『これからよろしくお願いします!』
可愛いキャラクターのスタンプ付きだ。なんて返すのが正解なんだ?悩みながらも、結局は無難な一言に落ち着く。
『こちらこそよろしく』
味も素っ気もないが、下手に色気を出して墓穴を掘るよりはマシだろう。送信ボタンを押すと、一瞬で「既読」がついた。……早すぎるだろ。
すぐに、ガッツポーズをする犬のスタンプが送られてくる。チラリと彼女の方を見ると、友達と談笑している真っ最中だ。いつの間にスマホを確認したんだ。続けて、また通知が届く。
『男の人と連絡先交換したの初めてで、緊張しちゃいました』
……絶句した。クラスの中心人物である彼女なら、男子とのやり取りなんて手慣れたものだと思っていた。だが、まさかの「初めて」発言。これは、俺が特別扱いされているということか?嬉しいというより、困惑の方が勝る。どう返すべきか。無難に、無難に……。
(……待てよ。俺もじゃないか?)
そもそも、連絡先を交換するような友達がいない。女子と交換したことなんて、天変地異が起きてもあり得なかった。つまり、俺にとってもこれが「初体験」なのだ。悲しきボッチの現実に打ちひしがれながら、しばらく考えてから返した。
『俺も』
すると、また即レスが来る。
『そうなんですね!なんだか嬉しいです!』
その言葉に、不覚にも少し照れている自分がいた。俺は彼女をどう思っているんだろうか。昨日の件を探るための作戦なのか、それとも純粋に仲良くしようとしてくれているのか。考えても答えは出ない。ただ、彼女のような美少女と繋がれるのは、客観的に見れば幸運なことなのだろう。それが彼女にとってどんなメリットがあるのかは、相変わらず謎のままだが。
「……今は、授業に集中しよう」
教卓の先生が、こちらを不審そうに睨んでいる。
これ以上の「目立つ行為」は、俺のモブ生活への致命傷になりかねない。




