後日談①「外野はいつだって騒がしい」
「え?まだ付き合ってないの?」
「つ、付き合うとか、そういうのはまだ……」
「嘘おっしゃい!ラブラブデートしてきたんでしょ?」
「ラブラブ!?い、いえ!普通に遊んできただけです!!」
教室の片隅、私――伊吹舞桜の追及に、澪奈は顔を真っ赤にして反論する。
「駅で仲良く手を繋いで歩いてたって目撃情報が入ってるわよ」
「た、確かに手は繋ぎましたけど!それは、その!」
「ああ……まあ、澪奈の距離感がバグってるのはいつものことだけどさ。相手は男子よ、男子。女の子同士とはわけが違うんだから。勘違いされちゃうわよ?」
「勘違い……?」
澪奈はきょとんとした表情を浮かべる。どうやら本当に自覚がないらしい。これだから天然娘は恐ろしい。本人は至って真面目だし、悪気もないのだろうけれど。
「いい?水族館の次は遊園地なんて、世間一般ではそれを確実にデートと呼ぶの」
「えっと、その……。男性のお友達と遊びに行くことをデートと定義するのならば、そうなるかもしれませんけど……」
「そう。その解釈は間違ってないわ。でもね、普通は『恋愛関係に発展する可能性が高いケース』をデートと言うのよ」
「れ、恋愛……」と呟き、あたふたと焦り始める澪奈。やっぱりこの子は純粋で初心なんだなぁ、としみじみ思う。そもそも彼氏がいたこともなさそうだし、そういう方面には疎いのだろう。
……ま、私にだっていたことはないんだけど。
「そもそも、どうして神崎くんなの?ぶっちゃけ言うと、そこまでかっこよくはないじゃない。いや、ブサメンとまでは言わないけど、なんていうか……モブよ、モブ。普通すぎる。コミュ障気味だし、クラスの女子からの評判も正直いまいちよ?悪い奴じゃないのはわかるけど」
そう言った瞬間、彼女の顔色が変わった。おやおや?暗く沈んだかと思えば、何やら強い意志を秘めた目に。これはマジなやつかしら。正直、神崎くんとはまともに話したこともないけれど、そんなに良いところを見つけたの?
「た、確かに、モデルみたいなイケメンではありません!でも、でも……!彼は優しいですし!すっごく優しいですし!!とにかく優しいんです!!」
「優しいだけの男って、ぶっちゃけどうなの?」
「だって!あの人と一緒にいると、すごく落ち着くんです!温かくて包容力があって……それに、私にないものをたくさん持ってるし、私のことを誰よりも理解してくれるし!それに、えっと、神崎くんは……その……」
「はいはい、わかったわかった。要するに、好きなんでしょ?大好きなんでしょ」
しどろもどろになる親友を眺め、私は確信する。これはもう、恋とかいう可愛いレベルを超えて、どっぷり惚れ込んでいる。
「好きっていうのは、ちょっと違う……と思うんですけど」
なんて否定しているけれど、すでに顔は茹でダコみたいに真っ赤だし、泳いでいる目は隠しようがない。こんな澪奈、初めて見る。この子もちゃんと恋をするんだなぁ。
神崎くんねぇ。……向こうが惚れているかどうかは、聞くだけ野暮ね。
この子にゼロ距離で迫られて落ちない男なんて、この世に存在しないわ。でも、神崎くんはどう見ても自分から告白してくるタイプじゃない。ここは親友として、背中を盛大に蹴り飛ばしてあげるべきよね。
「よし、澪奈!任せなさい!!この恋愛マスター伊吹舞桜が、全力で協力してあげるわ!」
私は拳を握りしめ、高らかに宣言した。
「あんた、誰とも付き合ったことないでしょ」
横から冷や水をぶっかけたのは、森川紗雪。ミステリアスな雰囲気を纏った黒髪ショートの美少女だが、そのジト目は相変わらず眠そうで、鋭い。
「失礼ね!私がどれだけ恋愛漫画を読み漁ってきたと思っているの!」
「上辺だけの知識じゃん……」
「いいの!とにかく、私はこの恋を成就させてみせるんだから!」
「放っておきなさいよ。二人には二人のペースがあるでしょ」
紗雪は冷めた口調で切り捨てる。相変わらず現実的だ。確かにこの二人は、揃いも揃ってマイペース。焦らなくてもいずれ進展はするだろうけれど……。
「だめ!側で見てるだけでニヤニヤ……じゃなくて、イライラするの!」
「そうやって外野が口を挟むのが、一番失敗するパターンじゃない?」
「だってぇ〜。なんか応援したくなるんだもん」
「あんたは自分の相手でも探しなさいよ」
「……はい」
ぐうの音も出ない。完全に論破された。紗雪は意外と地頭が良いので、油断ならない。素直に反省……はするけれど、応援する分には問題ないわよね。大切な親友が初めて本気の恋をしてるんだもん。
私は改めて、澪奈に向き直った。
「とりあえず!参考のためにも遊園地デートの詳細を詳しく、隅から隅まで教えて頂戴!!」
「は、恥ずかしいですってばー!」
「大丈夫、誰にも言わないから(ニヤリ)」
「ほ、本当ですかぁ……?」
真っ赤になりながら語り始める澪奈の、幸せそうな表情。それを見ていると、不思議と私まで幸福感に包まれる。大切な親友。私は、そんな澪奈のことが大好きなのだ。




