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ナニカが視える俺と、ナニカが分かる君  作者: あどん


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10/15

【10】この密着は故意ですか? それとも天然ですか?

最近になって気が付いたことがある。


鈴音さんは、他人との距離感の物差しが少し壊れている。


話す時は顔が近いし、並んで歩けば当然のように肩が触れ合う。女友達には平気で抱き着くし、腕を組んで歩く姿もよく見かける。てっきり同性限定のコミュニケーションだと思っていたのだが……どうやら男の俺相手でも、そのルールは適用されるらしい。学校では、周りの女子たちがさりげなくガードしてくれていたのだろうか。


彼女は、隣を歩く俺の腕を掴むと、これでもかとぎゅっと抱き寄せた。


俺の脳内は、その瞬間パニックの極致に陥る。密着した部位から伝わる熱と柔らかさ。……いや、これ故意だろ! わざと押し付けてきてるよね!? 「最高だ、ありがとう」と神に感謝する余裕すらなく、俺の思考回路はショート寸前だった。


「ふふふっ」

「ど、どうしたんだ?」

「えへへ、何でもないです♪」

「そ、そうか……」

「はい。楽しいですね」


ただ二人で歩いているだけだというのに、彼女は弾むような声で笑う。


その無邪気な笑顔に当てられ、俺は改めて「やっぱりこの子のことが好きなんだな」と、逃げ場のない確信を抱かされる。もっと一緒にいたい。もっと触れたい。そんな野蛮な独占欲が芽生えそうになるが、それを口に出す勇気は、まだ爪の先ほども持ち合わせていない。


そんな葛藤を抱えたまま、目的の水族館に到着した。


入場券売り場の列は、見渡す限りのカップル、カップル、カップル。休日だし、デートスポットの王道だから当然なのだが、ふと巨大な看板が目に飛び込んできた。 『カップルサービスデー:特別割引実施中!』


(……なるほどな)


合点がいった。この割引があるからこそ、男である俺が誘われたわけだ。女友達同士ではこの恩恵は受けられない。納得したと同時に、自分の価値が「クーポン要員」のような気がして、少しだけ心がチクリと痛んだ。


しかし、俺のそんな自嘲をよそに、彼女は意気揚々と受付へと進む。


「カップル割ですね」

「はい!」

「では、カップルであることを証明するために、こちらでキスをしていただけますか?」

「え……っ!?」


裏返った声が出た。何だその狂ったシステムは!? 一瞬で周囲の視線がこちらに突き刺さる。神聖な公共の場で、しかも初デート(仮)の相手とキス? 冗談じゃない、心臓が爆発して死んでしまう。狼狽えまくる俺に対し、彼女は顔を赤らめて少しだけ俯き、消え入りそうな声でスタッフに告げた。


「あのー……私たち、付き合ったばかりで。そういうのは、まだ……恥ずかしくて……」


その破壊力抜群の演技(?)に、スタッフは「お熱いですねぇ」と言わんばかりの温かな眼差しを向けた。


「分かりました。今回だけ特別ですよ。楽しんでくださいね」

「ありがとうございます!」


元気に返事をした彼女に手を引かれ、俺たちは無事に入館した。 ……助かった。いや、助かったのか? もしキスするにしても、こんな受付の前じゃなく、もっとこう、雰囲気とか段階とかあるだろう。


「ふー……死ぬかと思った……」

「ふふふ、驚かせちゃいましたか? 実はあのセリフ、事前に友達から聞いて知ってたんです。こう言えば回避できるよ、って」

「そうだったのか……」

「はい。でも、神崎くんがあんなに真っ赤になって焦るとは思いませんでした。ごめんなさい」


申し訳なさそうに謝る彼女だが、腕を抱きかかえる力は緩まない。むしろ、さらに寄り添ってくる。心臓のバクバクが彼女に伝わっているんじゃないかと気が気ではない。情けない。情けなさすぎるが、今の俺には抗う術などなかった。


そんな俺の様子を、彼女は楽しそうにクスクスと見上げている。


あーもう、可愛いな! 本当に!


こんな魅力的な女の子に隣に居られて、冷静でいられる聖人がいたら連れてきてほしい。この状態で館内を回るなんて、ある種の拷問に近い。 けれど――。 彼女がこれほど嬉しそうなら、もうそれだけで十分だと思ってしまう自分もいた。

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