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ナニカが視える俺と、ナニカが分かる君  作者: あどん


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【1】神崎正視は「ナニカ」が視える

「幽霊を信じているか」と聞かれたら、俺は「全く信じていない」と答える。


それは、きっと見間違いだからだ。


「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という言葉がある。壁の染みが人の顔に見えるのと同じで、三つの点が並んでいるだけで脳が勝手に顔と認識してしまうシミュラクラ現象。つまり、脳が引き起こすバグの一種だ。幽霊なんて大体そんなもんだろう、と俺は思っている。


ただ、変なモノが「視えた」という人を否定する気はない。


だって、俺にも視えているからだ。


それが「ナニカ」と言われれば困ってしまうのだが……。


それは子供の頃から、当たり前のようにそこにいた。黒い影のようなものが、フワフワと視界を横切る。顔も目も鼻も口もない、ただの黒い影。それが公園や店の中、家の隅など、至る所に存在する。


別に怖くはなかった。


少し気味が悪いとは思ったが、物心ついた時から視えていたし、真昼間に堂々と現れるのだから怖がっても仕方がない。これが夜にだけ現れるなら本気で幽霊を疑ったかもしれないが。


両親に話したこともあったが、子供の戯言としてまともに取り合ってもらえなかった。まあ、当然だろう。実際、視えたところで実害があるわけでもなかったのだから。今でも視え続けているという事実を除けば、それはただの幻覚だ。俺にしか視えないのだから、妄想と言い換えてもいい。


それが他人の目には映らないのだと気づいたのは、いつ頃だっただろうか。アニメや漫画が空想だと理解し始めた時期だろうか。地球を守る戦隊も、宇宙の彼方から来るヒーローも実在しない。そう気づいても、黒い影だけは消えなかった。小学生になる頃には、そのことを口にするのはやめた。話せば「おかしいやつ」と思われるだけだと、子供心に理解していたからだ。


その謎のナニカを、俺は勝手に『影』と呼んでいる。


中学生になる頃には、その『影』を意図的に無視する術を身につけていた。気にしなければいいだけだ。奴らは悪さをするわけでもなく、ただそこにいるだけなのだから。とはいえ、時として邪魔になることもある。例えば授業中だ。勉学に励むような優等生ではないが、目の前をウロウロされると流石に鬱陶しい。盛り塩、十字架、水打ち……色々と試行錯誤を繰り返すうちに、俺は独自の消去法を編み出した。方法は意外なほどシンプルだ。『影』を強く意識して睨みつけ、『消えろ』と念じる。それだけで『影』は霧散する。


念じるだけで消えるのだから、やはり俺が見ている残像か何かなのだろう。そう自分を納得させて生きてきた。


だから、誰にも話していない。


「言えない秘密」というほど大層なものではないが、信じてもらえるはずがないし、話す機会もない。


だから、神崎かんざき正視まさみは普通の高校生なのだ。


ただ、人より少しだけ「変なモノ」が視えるという点を除けば。

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